第7章‐15 劇場版迷探偵〇ナン 復アイドルの勉強星(みちしるべ)
しほりん父は何かを隠している。
俺は、先日の帰り道での桜玖良との会話を思い返していた。
「しほちゃんのパパの目的?」
「ああ」
「そんなの、しほちゃんをアイドルやめさせるのに決まってるんじゃないの?」
「実はさ……ちょっと思うところがあって」
「なによ? その思うところって?」
「しほりん父ってさ、どんな人間なのか教えてほしいんだよ」
「なにそれ……そんなこと聞かれても私だってそこまで関わりがあるわけじゃないし……」
「俺よりはあるだろ? 桜玖良が初めてしほりん父に会ったのはいつだ?」
「ええと……ちゃんと覚えてるわけじゃないけど、小学校のころからしほちゃん家に遊びに行くようになって、時々、そうね、土日は家にいることが時々あったかな? そのときは車で遊びに連れてってくれたりしたわね。本当に普通の優しいパパって感じでうらやましいと思っていたわ」
「なんか、しほりんに怒ってるとことか見たことないか?」
「ええ? うーん、ないと思う。本当優しいパパって感じだったから。だから今回の件は意外だったというか、しほちゃんのこと何でも許してあげる感じのパパだと思ってたから、まあ娘の安全が心配なんだろうし、それはもう過保護って感じのしほりんパパなら、仕方ないかなって感じ」
「まあそんなもんか」
「だから私は、特に不思議なところはないんだけど……お兄さんはそうじゃないのよね?」
桜玖良がじっと見てくる。確証がないだけにまだ彼女にそれを伝えることはしたくない。できればちゃんと証明されてからの方がいいと思っている。当てが外れていた場合単にしほりん父を侮辱したような格好になってしまうのだから。
「今回の件でよくわからないのは、なぜしほりん父があんな条件を出したか……ってことなんだよな」
「え、そんなのしほちゃんにアイドル辞めさせたかったから、でしょ?」
「その通りかもしれないけど、だったら無理にあんな条件を出す必要はなかったんだよな。最初から無条件でお前はアイドル辞めろ、で済んだはずなんだ。今だって無理やり保護者権限でアイドルやめさせたような感じだろ? 似たようなもんなんだから」
「それはそうかもしれないけど、やっぱりしほちゃんにも最後のチャンスをあげようというか、本人が納得するようにしたかったんじゃないの? 有無を言わせずにやめさせるのは強引だと思ったとか。だってしほりんパパはなんだかんだ言って娘に甘い、いや優しいと思うから」
「……まあ普通はそう考えるよな」
「違うの?」
「ええと、違わないとは思うけど、でもそこには他にも思惑が隠れているはずなんだ」
「……え? 何よそれ」
「まだはっきりとした確信がない。だからまだ言えない。それを確かめるために俺はしほりん父に会わなきゃいけないんだ」
さあ答え合わせの時間だ。果たして俺の仮説は合っているのか、間違えていたらそれこそ詰む。もう泣き落としの土下座くらいしか手がないし、多分それではしほりん父の心は動かせない。
だが、もし俺の思った通りなら……
しほりん父がゆっくりと口を開く。
「私が娘をアイドルやめさせるのは、娘の身が心配だからだ。それ以外にないが……どうして、そう思ったのか聞かせてもらおうか?」
「別に、なんとなくそう思っただけです」
「では、君の気のせいということだろう。私は娘が心配で仕方ないんだ。他意はない」
「その辺は疑ってませんよ。僕だってあんなに美人の可愛い娘がいたらきっと溺愛して家に閉じ込めてしまうかもしれません」
「ははっ、さすがにそれはやり過ぎだよ」
いや、貴方には言われたくないですけどね。そう思ったがぐっとこらえる。今は茶化す会話じゃない。
「でも、それだけじゃないとも思っています」
「……」
「お父さんには別の狙いがあったのではないでしょうか?」
「……君が何を言いたいのかさっぱりわからないが……どういうことかな?」
俺は深呼吸する。
「一連の迷惑ファン騒動や、その他の問題については一応しほりさんのマネージャーさんから話を聞きました。まったくもってひどい話ですし、お父さんが娘を守ろうと必死になるのも頷けます」
しほりん父は軽く頷いて聞いてくれている。
「しかしそれ以上にお父さんには、娘さんのことで心配していることがありましたよね?」
「…………そんなものはない」
「ここからは俺の予想でしかないのですが……」
過剰なまでの娘への心配。アイドルを辞めさせるために出した条件。そして俺が違和感を感じたしほりん父のあの言葉……
そこから導き出される真実……これがしほりんがアイドル続けられるかどうかの鍵に、道標になる、はずなんだ。いや、そうなってほしい。
「お父さんは、しほりさんの成績のことをずっと心配していたのではないですか?」
(勘のいいガキは嫌いだよ)
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