第7章‐14 南田一少年の事件簿
「別にそのままの意味ですよ」
「……まあいい。とりあえずどういうことか説明してくれないかね」
「前回のときは条件を中途半端に50位とかにしたからよくなかったんです。例えば20位、とかもういっそのことトップ10とかにしてもう一回しほりさんに挑戦させるんです。前回28位といってもさすがに連続で大幅に成績を上げ続けるのは難しい。ただでさえ娘さんは2桁と3桁の間くらいの順位だったんです。猛勉強でここまで順位を上げたとはいえ、女子校でも偏差値が高い名門校。上には上がいます。決して簡単に抜ける相手ばかりではありません。そんな甘いものではないはずです。だから今度出した順位の条件はおそらく残念ながらしほりさんはクリアできません。きっとお父さんの思惑通りにうまくいきます」
「……そう、うまくいくかね?」
「お父さんの前回の失敗は変にしほりさんに期待を抱かせるような条件にしたことです。だからクリアしたのにそれを反故にしなければいけない状況に追い込まれてしまった」
「それはだね……人間、あまりにかけ離れた目標では頑張れないものだ。だからこそ私はあえて決して実現不可能ではないが、しかし限りなく難しいラインを設定したのだ」
「でもそのことで、しほりさんの驚異的な頑張りがあったとはいえ、約束を破ってお父さん自身の首を絞めてしまうという、今のおかしな状況を生み出してしまった」
少し角が立つような物言いになってしまったが、それもある程度は織り込み済み。しほりん父はそれに動じる風はなかったが、少し間をとって言った。
「……その件については私の不徳の致すところだ。完全に娘の情熱を見誤ってしまっていた」
そこでしほりん父がこちらの目をじっと見つめて、
「しかしだね、それには君も一枚噛んでいるじゃないか? 君がいなければここまで成績が急上昇することはなかった。もちろんそれ自体は喜ばしいことだが、それこそ君の言う今のおかしな状況はなかったはずだよ?」
「……恐縮、です?」
「まあ別に、君のことをほめたかったわけではないのだけれど……まあいい」
ため息を一つついて、そして
「だが、やはり君の案には乗れない。ここまで娘を振り回してしまっている以上、これ以上娘の気持ちを振り回すわけにはいかない。私の中でもう結論は出ているんだ。今後何があっても彼女にアイドルをさせはしない、と。約束を破るのも、父としての強権を振りかざすのも、これ一度きりだ。これ一度きりにしたいし、そうしなくてはならない。これ以上娘の信頼を失いたくないし、万が一しほりが条件を再びクリアしてしまったら、もう一度今と同じことをするのは確定している……そんな未来なんてわずかな可能性だとしても考えたくない」
しほりん父は下を向いてしまった。
やはりだめか……となると、
「お父さん……」
「君には苦労を掛けてすまないと思っている。私たちのことをよく考えてくれて、本当に頭が上がらない。しかしもう今回のような思いはしたくない。だから、君の案には乗れない。すまないが
「今のままでは、お父さんの本当の目的が果たされない……のではないですか?」
「は?」
しほりん父の顔つきが変わった。
「き、君は、何を言って……?」
今までの落ち着いた雰囲気がわずかだが揺らいだ。心の動揺が見える。まさか……本当に?
ここから核心に切り込むんだ。思わず拳に力が入る。
「……お父さんは別に、娘さんのアイドル活動を本気でやめさせたい訳ではないですよね? と言うよりもっと別の、何か目的があります……よね?」
「……何、だと?」
そうだ。やはり、しほりん父の目的は、別にある。
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