第7章‐13 trickstAr
「提案……かい?」
「はい」
「それは一体どうい
「すみません、アフォガードのお客様は……」
その時、店員さんが空気も読まずに割り込んできた。しほりん父は完全に油断していたようで
「あ、ああ、私です」
「どうぞお好みでコーヒーを加えてお召し上がりください」
「どうもありがとう」
「では、ごゆっくり」
言うなり少し礼をして去っていく店員。まあ別にいいのだが、それより目を引くのは目の前の謎の品。
しほりん父の前に置かれたコーヒー?と一緒に置かれたアイスクリームらしき物体。しほりん父は慣れた手つきでそのアイスにコーヒーをかけてスプーンでそれをすくって口に運んでいる。あれ? なんか俺の勝手なイメージだと、こういう時大人は偉そうな感じでコーヒーをちびちびとすすっているもんなんだが。勝手に硬派で厳格な父親像のイメージを持っていただけに、少し意外?な感じがした。いや決して怖くなくなったわけではないのだが、スプーンを口に運んだ時のほんの少しだけだが柔らかく幸せそうな、いつもより緩んだ表情をみるにつけ、どことなく天然さんのしほりんに通ずるものがあるような気も……
「な、なんだね……?」
おっと、じっと見すぎてしまっていたようだ。
「君の分も注文してあげようか? ここのアフォガードは絶品なんだ」
「い、いえ……お気になさらず」
「そうかい? 遠慮しなくてもいいのに……そうだ、本題に戻さなくては」
しほりん父がスプーンを置き、こちらを見る。
「で、策というのを聞かせてもらってもいいかい?」
「はい」
俺はゆっくり息を吸った。
「もう一度しほりさんにアイドルを続けられる条件を提示してみてはどうでしょうか?」
簡潔に、言った。そしてしほりん父の出方をおそるおそる伺う。
「……なるほど、やはりそういう話になるか」
しほりん父はあごを指でつまむような仕草をした。
「はい。今のままでは誰にとってもよくない状況です。少なくとも誰かが何かしらのアクションを起こさなければこの状況は打破できないでしょう」
「だが、恥ずかしながら私は娘との約束を一度破っている。もう一度条件を出したとしてそれを信用してくれるのだろうか?」
「信用……はどうかはわかりませんが、しほりさんならきっとその条件に向かってくるでしょう。それは間違い無いと思います」
「なぜそう思う?」
「しほりさんは今どうすることもできていません。お父さんに反抗したい気持ちはあっても、もうアイドル引退の件は公式に発表されているので撤回もできませんし……しほりさんに前回会った時にはもうアイドルはあきらめると言っていました。だから約束が破られたことに憤りがあっても自分からそれに反抗することはできていないんです。やっぱりお父さんの意向は強いというか、守らなければいけないみたいに思っているのでしょうね。だから、申し訳程度に反抗の姿勢を見せてはいても、正直どうしようもないというか、諦めざるを得ない状況なんです」
今の話に嘘はない。あの校門で会ったときのしほりんは完全に心が折れてしまっていた。あのしほりんの痛々しい姿を思い出すのも嫌だ。
「でも、新たな条件が出されたとすれば話は別です。しほりさんはどうしてもアイドルを続けたいんです。それがどんな条件だったとしても文句も言わずに全力で向ってくるでしょう」
そう、しほりんは必ず。それがどんなに困難な条件でも。そのわずかな光に希望を見出すしかないのだから。
「諦めたまま……ということにはならないのかな?」
「……しほりさんはアイドルをやめたくないし、ずっと続けていたいと思っているはずです。だから、お父さんが許してさえくれれば何を投げ打ってでもアイドルに戻りたい、アイドルを続けていたいと思っているはずです」
「……そうか」
しほりん父は一つ息をついた。
「だが、私はもう娘をアイドルに戻す気はさらさらない。そしてこれ以上淡い期待を抱かせて失望させて傷付けることはしたくない。だから君のその案には乗れない」
まあ、そんな感じのことを言うよな……俺はさっきのメモを思い返す。うん、ここからだ。
「別に大丈夫ですよ。しほりさんをアイドルにしないで済むような、絶対に実現できないような条件にすればいいだけなんですから」
俺の言葉にしほりん父の目がジロリと動いた。
「君は……?」
しほりん父が俺の顔をまじまじと覗き込んで、腹の底を探るようにして
「君は一体なにを考えている?」
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