第7章-11 RAY OF LIGHT

 桜玖良と二人で事務所を出たときにはもう外は真っ暗になっていた。さすがに行動を起こすには今日はもう遅すぎであった。それにもう一回しほりん父に突撃することだけを決めただけで、何の対策も準備もしてないんだから。まだまだ考えることは山積みである。とりあえず二人でさっき歩いてきた駅からの道を逆戻る。


「もう暗いのに送っていこうか?」

「大丈夫です。家特定されたくないので」

 すげなく断られた。

「それにそんな暇あったらなんか考えてくださいよ? さすがに前と同じじゃダメなんですからね」

「そんなのわかってるよ……」


 そうだよ。前と同じではダメだ。攻略対象が定まっただけで攻略方法は何もわかっちゃいない。


 考えろ……どうすればしほりん父を説得できるか……どうすれば彼の気持ちを変えることができるのか……


 正直思い出したくないが、改めて前回のおうち訪問のことを振り返ってみる。しほりん父は本当に落ち着いていた。激昂どころか声を荒げることもなく、あれは娘を守るという覚悟が決まっていたのだろう。



 娘の幸せのためなら、自分がどうなろうとかまわない。最愛の娘にどんなに嫌われようと彼女を守る父親としての強い意志。

 前回の時は真っ向からその意志に向かっていった結果何も得られなかった。今度はその思いを変えることはできるのか……? いや、正直できる気がしない。


 じゃあどうする? 


 ということは……逆に、娘の幸せのためなら今回の決断を覆すことがあるかもしれない……? アイドルさせることが娘の幸せになるのであれば……? いや、現にしほりんはアイドルでいたいと思ってる。アイドル続けることこそこれ以上ない幸せだ。それでも娘の幸せのためだといってアイドルを辞めさせる。一見矛盾している。

しかし目先の幸せではない。娘の将来と身の安全こそが、しほりん父が最も大事にしている、娘の意思よりも今の幸せよりも重きを置いているものなのだろう。



 隣を歩いている桜玖良にふっと目をやった。確かにこいつも世間的にはかなり可愛い部類なんだよな。整った顔立ちにすらっとしたスタイル。正直しほりん並みに俺はコイツのことも心配だ。世の父親はみんなこんな思いをしているのだろうか……?


「ちょっ……な、何ですか?」

「あ……いや、その……」

「キモいんでこっち見ないでください」

「……えーと、はい……」


 なんか損した気分だな。世の父親はみんなこんな思いを……(以下略)


 しかし、


 アイドルやめさせるのは娘の身の安全と、娘の未来のため……


 だったら、それよりも優先させる何かがあれば、アイドル続けてもいいってなるかもしれない?



 じゃあその何かってなんだ?


 しほりんがこのままアイドル続けた方が幸せになれること……トップアイドルになる? なったとしても人気が出るほどますますストーカーとか囲まれるとか増える、今まで以上に外なんか歩けなくなる。逆効果だ。歌やダンスが上手くなって、アイドル引退してそっちの道で活躍する? 一緒か。歌手になったとしても人気が出ればおんなじことだろうし、いずれにせよ芸能の仕事は人目につくし、むしろ人目についてなんぼの世界だ。じゃあアイドルとして大成して引退し、その経験を生かしてマネジメント業を営むって言うのはどうだろう? 新たなアイドルグループを作って売り出して、そして収入もがっぽがっぽ……だめだろうな、安定してない仕事とか言われそうだし、絶対美人社長みたいな感じで注目されそうだよな。アイドルよりかわいいアイドルマネージャーみたいな。


 そもそもあの美しいお顔に完璧なスタイル、成長するにつれてさらに美人さんになっていくだろうことはしほりんママを見るにつけても火を見るより明らかである。何の仕事をしてもどこにいってもあの容姿は目を引くし、それで得することも、逆に損することもいっぱいあるんだろうな。だから別にアイドルやめたからってしほりん父のいうストーカーとか上司からのセクハラ?とかの心配は決してなくならないだろう? それだったらむしろアイドルでいてSPでも雇ってずーっと守ってもらう、とか? そうなんだよ、アイドルやめたからってしほりん父の心配が尽きることはないはずなんだ。しほりん父はその辺のとこどう考えてるんだろうか? 



 そのあたりにしほりん父を説得するヒントがないだろうか……?



 ずっと引っかかっている違和感みたいなものがある。もやもやしているんだあれからずっと。その正体がわからない。でも思い出せそうな気がする……そうだあの時しほりん父はなんて言ってた……? あの時のしほりん父の言葉……なんだったっけ……何か変な印象を感じたはず。





 そうだ。しほりん父は……


 



 これなら、もしかしたら、この状況を打開できるかもしれない……いや、もうこれにかけるしかない。暗闇の中にわずかに見えた一筋の光。これでだめなら……いや、そんなことは考えない。今はもうここに突破口を期待するしかない、いや、これでいくんだ! 

 隣にいる桜玖良の横顔を改めて見る。しほりんも、そして……桜玖良がこっちに気づいた。


「なあ、しほりん父の連絡先教えてくれん?」

「いいけど……どうして? 私言うけど?」



「いや、今度は、俺一人で行く」



 



 



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