第7章‐7 だいしきゅーたいしゃく

 ところ変わって市内某所のファミレス 向かいの席には相変わらずご立腹のままの桜玖良。


「普通さあ、私じゃなくて、お兄さんの方が先に私を訪ねてくるべきじゃないですかね?」


 目の前で頬杖ついてなんたらパフェをつついている桜玖良。もちろん俺のおごりだそうです。


「そ、そうかなあ……?」


 ちなみにお金もあまりないのでこの店で一番安いドリンクバーなるものを注文した俺……とりあえずコーヒー啜り中。


「そうでしょ? だって結構恥ずかしかったんだから! それに私に気づかずに帰ろうとするしさ、必死で引き留めて、もうそれもみんなに見られてると思うと恥ずかしいったらありゃしない」

「まあそれに関しては……はい、すいません」


 一瞬、実は俺も今から桜玖良のところに行くところだったんだけど……と言い訳しようかとも思ったが、信じてもらえなかったら損だし、逆に調子に乗られても面倒そうだし。ここは無難に黙っておくが正解だろう。


「ほんと気が利かないんだから……」

「でもさあ、俺がお前の学校に突撃していったらさあ、お前絶対怒ったじゃん? 確定でブチギレ案件じゃん? 校門前で警察呼ばれるまでワンチャンあったじゃん?」

「……確かにそのとおりね。確実に110番通報した自信があるわ」

「それに昨日もうしほりんとこ突撃してもうこりごりなんだよなあ」


「え?」


 桜玖良がはっとしてこっちを見る。


「昨日? しほちゃんのとこ? 初耳なんですけど」


「いや、まあ言ってないからな」

「どうゆうこと? もしかして家に行ったの?」

「いや家じゃなくて……うん。校門のとこでさちょっと話しただけだけど」

「しほちゃん何も言ってくれてない……」

「……まあ、あんま言いにくい話だったかもな。それに昨日の今日だし」

「ってかさ、学校に押し掛けるとかさ、マジで不審者だからやめた方がいいよ。てか普通にキモいし」

「はい、すんません……」

 あれ? たった今そのキモイことをしたばっかりの人が俺の目の前に座ってるんですが、その点はどうお考えなんでしょうか……? 聞いてみたいけど後の結果がわかっているのでやめておこう。どうせ男女平等の世の中とか言いつつ、校門待ち伏せは男はNGで女はOKなんだろ? もしくはただイケ(ただしイケメンに限る)なんだろ? 俺はこの数か月で学習したのだ。


「で、しほちゃんはなんて?」


「え?」

「昨日わざわざ学校に突撃したんでしょ? どうなったのよ?」

「あ、ああ……そうだね……」


 うーん、なんと言っていいのか。いくら桜玖良相手と言えども、正直にありのままを話す気にはなれなかった。しほりんのプライバシーというか許可というか、あとはしほりんのあの時の姿をどこか信じたくないという自分の気持ちもあったかもしれない。


「……なによ?」

「えーっと、まあ端的に言うと、ダメだった」

「……何がダメだったのよ? お兄さんの顔とか?」

「ちげえよ! そっちじゃねえよ。しほりん説得しようとしたけど、うん、まあ無理だった」

「……そう」

「……そうだよ」

 

 桜玖良は少し下を向いてため息一つついて


「説得も顔も性格もダメなんて……終わってんね?」


「はぁ? ふっ、ふざけんな、せめて性格は……終わってはないと信じたい」


 そういう桜玖良、お前は性格終わっっってるからな。お顔がいいぶん得してるよなコイツ畜生……


「そうね。顔に比べりゃ幾分マシかもね」

「なんで今日そんな辛辣なんだよ?」

「だって結局役立たずだったんでしょ? 無駄にしほちゃん困らせといて何も進展なかったんでしょ? じゃあそんなもんでしょ?」

「……そうだな、返す言葉もねえか」


「で、どうすんの?」

「どうするったって……」

「なに? このまま引き下がんの?」

「……いや、でもさあ」


 もうこれ以上俺に何ができるというのか。


「お前こそさ、なんかないのかよ?」

「え、私?」

「そうだよ。だってわざわざ俺のとこ来たってことは何か、ねえの?」

「…………ない」

「は?」

「だってさあ、そーゆーのはやっぱさあしほちゃんの家庭教師の大先生様がお考えになるものではないのでしょうか?」

「……こうゆうときだけ都合いいな」

「頭だけはいいんでしょ? ここで使わんでいつ使うのよ。数少ない活躍の場なんでしょ? 頭働かせてちったあ働けよ! 対策案を出せよおぉ!」

「お前なあ……」

「きゃははは」


 ただ桜玖良の顔を見てると、何となくわかる。しほりんのこと何とかしたいって思ってるのがちゃんとわかる。そして、俺と一緒だ、どうしていいかわからなくて困ってる。口ではいつものように軽口をたたいてる感じだけど、いつもとはやっぱり違う。


 しほりんがアイドルやめたら、桜玖良もやめちゃうのかな……なんか前にそんなこと言ってたし。


 でもやっぱりそんなのは嫌だ。俺の中で、二人がアイドルじゃなくなって、なんか悲しい顔でいるのなんて、見たくない。



 しほりんのアイドル引退を撤回させるには……



「じゃあさ……今から3つ案出すから、そっちが決めてくれ?」

「え? なんかあんの? 早く!」


「まず1、二人でもっかいしほりんを説得に行く」

「…………うん、で?」


「次に2、二人でもっかいしほりん父を説得に行く」

「…………で?」


「最後に3、二人でもっかい女社長さんに相談に行く」

「…………、で?」


「え、終わりだけど?」

「なんか人任せ感がぱない」

「……うん」

「あと出たとこ勝負感とふわふわ感もぱない」

「酷評やなw」

「あと全然計画性ないというか具体性が見えないんだけど」

「おっしゃる通りです」


「まあ、お兄さんに期待した私が馬鹿でしたね。でも動かないことにはどうにもならないのは確かですね。じゃあ行きましょうお兄さん」

「え、で、結局何番なの?」

「さっさと会計済ませてきてください」

「えっと、俺まだコーヒー一杯しか飲んでないんですけどw」

 ドリンクバーの意義についてどう思われていらっしゃいます?



 あとしほりん父にはできるだけ会いたくないなあ

















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