特別番外編 七夕ライブ~天の川の夜空に~ 前編
ざっ、ざっ
砂利の上を音を立てて歩く。雨上がりの少しじめっとした、でも少しさわやかさを感じる空気。これが神聖な場所ならではという厳かな雰囲気も相まってか、なんか無駄に背筋が伸びるというかしゃきっとしてしまう。それにしても……
「兄貴~もう無理限界ぃ」
隣で完全にバテた様子の亜季乃(久々の登場 よかったね!)
「おーおーよくやったよお前」
「もうなんでこんな歩きにくいのよ 下駄ってやつは!」
「まあまあ、雰囲気出るからってわざわざ買いに行ったのお前だろ?」
「そーだけどさー、遠すぎんのよホント!」
俺たちは今とある神社に来ている。
今日は7月7日。この神社では今、七夕まつりの真っ最中だ。特に7日の晩は舞の奉納など結構な催しが行われる。ちなみにこの祭りは8月半ばの旧暦の七夕の日まで続くという。
仙台の七夕まつりには遠く及ばないだろうが、全国的にもそこそこ名が知れているらしい神社で行われる、そこそこの規模の七夕まつり。神社そのものが街からかなり外れたところにあって中心部から電車で1時間弱、終点ひとつ手前の駅で降りてさらに徒歩15分くらいというかなり辺鄙なところにあるのだが、地元の人だけでなく観光客も多いようだ。境内には結構な高さの笹が何本も立てられ、色とりどりの短冊が飾り付けられている。神殿をバックに幾本もの煌びやかな笹が空へとのびている景色を下から見上げると、まさに壮観であった。
で、なんでこんな大変な思いをしてまで妹様がわざわざこんなところまでやってきたかというと、賢明な読者の方々にはもうお分かりだろう。今日ここでしほりんたちのゲリラライブが行われる、という極秘情報を入手したからだった。まあ普通に桜玖良からメッセもらったからなんだが。しほりんがいつも家庭教師でお世話になっているからと特別に、俺とそのおまけで(ここ重要)亜季乃の二人を七夕まつりのシークレットライブに誘ってくれたのだった。ただこの情報ガチで社外秘らしく、亜季乃と俺は結構口酸っぱく口外しないようにとくぎを刺された。事前告知すると人が押し寄せすぎて神社の本来のお祭りに影響が出てはいけないからその配慮ということで、一般人には一切の情報黙秘ということだった。がちのがちでシークレットゲリラライブ。
俺は別に情報を流出させる相手自体が存在しないために何の心配もなかったのだが、亜季乃の方はそうではなかった。クラスではオタクであることを完全に隠しきっているらしい妹だが、ネットの方はそうでもない。なんとかいうハンドルネーム?でしほりんしょこらり情報を漁ってはそれ界隈の仲間と情報共有しては騒いで騒いでネットの海でヒャッハーしているようなのだ。だからこそいつもしほりんの話題で盛り上がってるネット仲間にこの情報をばらせないというのはかなりの苦行だったらしい。「わたしだけ、わたしだけ……なんてそんなの耐えられない……●●ちゃんだけにはせめて教えてあげたい……でも、そうすると△△ちゃんにも……あと◇◇も、☆★ちゃんも……あぁああ、でもこれで情報漏らしたのがばれてもう誘ってもらえなくなったらそれこそ死ぬるぅぅぅあああ、もうむりぃいいいい! 私はどどうしたらいいのよぉぉおお!」みたいな断末魔の叫びが夜な夜な亜季乃の部屋から聞こえてきていた。
「で、なんで兄貴は平気なわけよ?」
「うーん、まあ草履? だからかなあ。それに俺時々履いてるしこれ」
プラスチック系素材があまり好きではない俺はサンダル代わりに草履、雪駄? 的なコイツを時々履いているから慣れたものだった。おめかしして急に取り繕うから苦労すんだよ、勉強も一緒だ、普段からやっとけばテスト前でも慌てることはないのに……これを機にお前も反省して普段から勉強するようにしろよ? なんて言わないよ俺は。優しいから。心の中で思うだけにしておこう。
「なんかその顔ムカつく……」
「心外だな。ま、この幸運に比べたら我慢できるだろ」
「ほんんっとそれ! まじ死ぬる! ほんとしほりん神!」
今話題の某転生復讐系アニメの、重〇ちゃんやME〇ちょやあか〇に比べてなぜか人気がない金髪片目☆厄介系アイドルオタクアイドルの妹の赤ちゃんの頃の様なテンションで騒ぎだす妹。まあ気持ちはわかる、俺も〇曹ちゃん好きだもん。でもアクあか派の気持ちもすっごいわかる。そして現在連載中の122話と123話の破壊力たるや。三つ巴の戦いになるのか? そして一体どういう結末になるのか……ますます読めんくなった。
「ほんっともう楽しみでしかないああー今日の視聴者全員億支払うべき!」
「ちょ、お前声でかいって」
「そ、そうだね! あーあータナバタタノシイナー」
一体どこの国の方ですか?
「まあまだ時間あるし、せっかくだから短冊書いとこうぜ」
「そ、ソウだね~、じゃ、いこっかーお、オニイチャン?」
「背筋凍るからやめてくれ」
短冊を書く場所に行くと、驚愕の事実が俺たちを待ち受けていた。
「な、一枚、ひゃ百円……だと?」
まさか短冊吊るすのに金とるとは……学校とか駅とかスーパーとかで短冊適当に書いて当たり前のように吊るしてきた身としては目からうろこが飛び出るような事実であった。てことはこの笹に大量に飾り付けられてある短冊すべてが百円……ということは全部で総額いくらになっているというのだ……?
「ど、どうする兄貴?」
「いや、ここまで来て後には引けぬ……行くぞ妹よ!」
「アイアイさー」
まあおみくじだって100円とか200円とかするしな。ただ経費節約という事で、短冊は亜季乃に代表して書かせることにした。
「えーなんて書こう~? 迷う~」
「なんでもいいぞ、家内安全とか学業成就とか……」
「それなんか違くない?」
結局短冊には「みんながけんこうでいられますように」と書かれた。もちろんこの「みんな」にはしほりん達のことが含まれているのだろう。逆に俺のことは含まれていないかもしれないw
ある程度用事も済んだので神殿前に設けられた舞台へと移動する。奉納の催しは17時半からすでに始まっていた。しほりんたちの出番はこのあと19時半かららしい。舞台まわりにはかなりの人が集まってはいたが、いつも寿司づめのライブ会場に慣れている俺たちにとってはまるで空気を運ぶともっぱらの噂である庄原以東の芸備線の車内のようにスカスカと言っても過言ではなかった。(It is not too much to say…) 頑張ることもなく余裕で最前確保である。
そしてついにその瞬間が来た。
尺八のぴょえーというような和の音とともに奥から舞台の上に現れた人影たち……
暗くなっていた灯りが一斉に明るくなる。
俺は自分の目を疑った。
し、しほりんの、ゆ、浴衣姿……だと!?#%$
思いのほか長くなったので前後編にわけることにしました(てへ)こうご期待!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます