第7章-4 しほりんは僕を許さない
綺麗な声が聞こえた。もしかして……の淡い期待とともに顔を上げると、俺がずっとずっと会いたいと思っていた天使がそこに立っていた。
「先生? どうしてここに?」
制服姿のしほりんが女神のような慈悲深い笑みを浮かべながら俺の目の前にご降臨なされていた。不意のことで心の準備ができていなかった俺。言葉を発しようとするが何も出てこない。
「先生? 今日はどうなされたのですか? こんなところまで……」
「え、えーっと……
「なんだい? この人は、君の知り合いの方かい?」
「はい。いつも私がお世話になっている家庭教師の先生です!」
「そうだったのか。私はてっきり不
「でも先生、今日はどうしてここに……いつも授業の日は家の方に直接いらっしゃることになってますのに、それに今日は授業の日では……」
「え、えーっと…
「はっ! もしかして今日は例の補習授業の日でしたかしら⁉ 前回の補習の時、私が授業の日だという事を忘れてしまいキャンセルしてしまってご迷惑をおかけしてしまったから、今日はそうならないように予め学校までお迎えにいらしてくださったのですか!? すみません、わざわざこんなところまでご足労をおかけしまして申し訳ありません先生!」
「え、えーっと
「すみません先生! 私としたことがっ!」
どうしたどうした? 全然最後まで喋らせてくれないしほりん様である。さっきから俺の台詞が終わる前にどんどん早口で口上をかぶせられてしまっている。まるでそう、他者の介入を許さないといった謎の意思を感じる。まあ俺が不審者呼ばわりされそうになったのを回避するため機転をきかせて頑張ってくれてるだけなんだろうけど。若干いつもより頬が紅潮している感じ。これは平静を装っているが内心結構焦っている感じだな、長年(嘘)ずっとしほりんだけを見てきたしほりんマイスターたる私の目はごまかせないぞ。それもこれも俺が不意打ちアポなしで突撃してきたせいなんだけどね、ごめんねしほりん♪ そして久々に間近で見るしほりんのおみ顔は本当お美しかってたまらんかった。
「星野さん申し訳ありません。今日は家庭教師の方に補習していただくことになっていましたのを失念しておりました。せっかくのご一緒に帰る約束でしたのにご破算にしてしまい本当にごめんなさい。私はここで失礼させていただきます……」
「う、うん……なんか大変そうだね。うん全然大丈夫だよーまた今度一緒に帰ろうねー!?」
「それではごきげんよう」
「ばいばーい♪」
「それでは先生、参りましょう」
「え、えーっ
「守衛の皆様方、いつもお世話になっております。本日は私の不手際で正門前にもかかわらずいろいろとお騒がせしてしまい、誠に失礼いたしました」
「いえそれは全然大丈夫ですけど……」
「お勉強頑張ってくださいね」
「はいっ! では失礼いたします!」
爽やかなしほりんの挨拶ににこやかに返す阿形。それとは対照的にこちらを訝し気に見てくる吽形……背後からの視線が気になる。ホント不審者みたいで申し訳ありませんね……まあ実際不審者みたいなもんなので何も言えねぇんですけど。
「さぁ先生参りましょう」
「あ、ああ……
「今からお迎えを呼びますので、そうですね、あそこのベンチにでも座って待ちませんか、先生をお立ちにさせたままなのは申し訳ないので……」
「お、おお…
「では行きましょう」
そしてしほりんに腕を掴まれた。えっ、そそんなのはちょっとドキッとしちゃーうじゃん♪ 不意打ちはダメよ! まあ腕と言ってもなんか恋人同士がやるような腕に絡みついてその「当ててんのよ……」みたいな(一回でいいからやられてみたい……)ヤツじゃなくて、軽く手首の辺りを掴まれただけなんだけどね。いや、もうそれで十分なんですけどw(久〇さんみたいな隣の席の子とイチャイチャしたいだけの人生だった……高〇さんでもいいよ?)そのままぐいぐいと引っ張られるようにして俺は正門前から強制的に離脱することとなった。
そして道外れのベンチにしほりんと二人で腰掛ける。
「さて……」
しほりんがその美しいお顔をこちらにくるっと向けて
「どういうことか説明してくださいますよね? お兄様」
おおーっと、これはもしかしていやもしかしなくてもしほりんお説教モード突入って感じぃ? 勝手に自分の中学校まで押しかけられたもんだから、これめっちゃ激おこpんpn〇案件なの? しほりんは僕を許さない (痴漢よー止まれーすーこーしーだーけ~~♪)
「え、えーっと、そのぉ……」
なんか俺さっきからえーっとしか言ってない気がする。加えて台詞かぶせられてるんだから、その「えーっと」すらなかなか最後まで言わせてもらえてないんだよなあ。しほりんは僕の発言すら許さない
「はぁ……まあわかってますけど。大方の事情はさくらちゃんから聞いてますし」
「え、そうなの?」
「はい、もしかしたらお兄様がこちらに直接来るかもしれないから「警戒して」といった感じのニュアンスの連絡をもらいました」
「警戒……だと? あの野郎め……」
「お兄様、ご心配をおかけしてごめんなさい。本当は私の方からお兄様のところへご挨拶に向かって、ちゃんと私の口から説明しなくてはなりませんでしたね。でも、その踏ん切りがなかなかつかなかったんです。私自身どうしていいかわからなくて、それにお世話になったお兄様には、なおのこと言い辛かったんです……」
「しほりん……」
「もうお兄様は全部ご存じですよね? 私の今回のテストの順位もそれがアイドルを続けられる条件だったことも、そして私がアイドルやめさせられてしまったことも」
「う、うん……」
あれ、なんか今おかしくなかったか……?
「せっかくお兄様が勉強教えてくださって、それは本当に親身になってみてくださって、そして今まででは考えられないほどのいい順位をとることができて、それなのにこんなことになって……私、もうお兄様に何て言っていいかわからなかったんです」
しほりんはそう言うと前の方に向き直って静かに目を閉じた。
「私がアイドルやめなくちゃいけなくなった後も……。聞きましたよ? お兄様はとても頑張ってくださったって……社長さんのところ、そして私の家にも来て私の父を説得してくれたって。本当にお兄様には頭が上がりません」
「しほ……りん」
「なのに私はどうすることもできず、やめなくちゃいけなくなって……こんなんじゃ、ここまで頑張ってくださったお兄様に顔向けなんてできないです……」
下を向いてしまったしほりん。その声はますますか細くなって、そして……しほりんは完全に黙ってしまった。
「し、しほりん?」
だ、だめだ。何か言わないと、しほりんを元気づけられるような言葉、何かなにか ないか……?
「しほりん? だ、大丈夫なんてさ、簡単には言えないけど……元気出してよ、お父さんに認めてもらうために、もう一度頑張ろうよ」
俺は自分の発言のおかしさにどこか違和感を感じていた、しかし止められなかった。さっきから嫌な予感がしていた、変な想像が頭から離れなかった、それを振り払いたかったのだろう先走って、そして間違えた。
「無理です。私、もうアイドルできません」
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