特別番外編 七夕ライブ~天の川の夜空に~ 中編

 し、しほりんの浴衣姿……うhy-----!


 白? いや薄い青? 緑? の浴衣に身を包み、髪型はいつもと違って上でまとめられていて、ちょっとポニテみたいな感じ。いつもと全然違う装いのしほりんに心拍数が一気に跳ね上がる。目の前に現れた浴衣姿の天使に俺の脳みそは思考を完全に停止してしまった。はっ! 気づいたら目の前の舞台に5~7人程度の夏らしい爽やかな装いのアイドル軍団が勢ぞろいしていた。そして俺たちの丁度目の前に、しほりん……ではなく


 何よ? 文句あんの?


 って一瞬だけ顔に書いた桜玖良。すぐに営業スマイルに戻った奴も当然ながら浴衣姿であった。ステージの灯りが暗め……というか、舞台回りにはぼんぼり? 提灯? みたいな淡い赤い灯りがいくつか灯っているだけ。だから一見するとわかりにくいが、どうもピンク色の……奴のイメージカラー通りの浴衣。桜玖良も髪が上にまとめられてて、その首筋というかうなじというかいつも見られない部分がはっきりと露になっていて……その、とにかくこれはこれで……うん。髪の真ん中には赤い玉が光っていた。これがかんざしってやつかな? とにかく……うん。


「きゃーっ しほりーんさらたーん!」


 隣で亜季乃が叫び出したが、それに向かって舞台の上のしほりんとさらたんがしーっと人差し指を唇にあてて(二人揃って、ハイ、可愛い)


「みなさーん こんばんはー 突然の登場でびっくりさせてしまってすみませーん」


 綺麗な声のお姉さん的なアイドル様が司会的なノリで話し始めた。


「それではみんなーせーのっ」


「「わたしたちー 七夕アイドルー ミルキーガールズですっ♪」」


 わあああっ 小さな歓声と拍手が起こる。ただいつもに比べると誇張抜きで100分の1くらいの声援である。


「今日は七夕祭りの奉納に急遽シークレットゲストとして参加させてもらうことになりましたー。このミルキーガールズは今宵一晩限定の特別ユニットですー。この七夕祭りを盛り上げー織姫様と彦星様の応援をするために頑張りたいと思いますー。でも皆さん、神聖な神社のお祭りを邪魔してしまうわけにはいけないので、今日はコールや声を出しての応援はナシでーお願いしまーす」


 言いながら口の前で指を交差しバツを作るお姉さん(くっ可愛い


「あとSNSでの情報拡散もこのお祭りが終わるまではご遠慮くださいー 人が押し掛けちゃいけないんで。もしここに今日居合わせた方はどうかナ・イ・ショでお願いしますね?」


 お口チャックポーズのしほりん(くっかわ

 

 いつもなら大歓声が上がるところだろう。ちなみに妹が静かだなと思って横目でちらと見ると……立ったまま尊死していたww


「ちなみに今日の様子は後日HPの方で一部映像が公開予定なんで、今日のライブを見たかったって人にはそちらをお勧めしてみてくださいねー?」


 まあ市内からはすっごく離れてるから知ったところでこのライブに間に合いはしないだろうが、無謀に走るファンもいるかもしれんからしゃあないか。いや、俺が逆の立場ならタクシーガン飛ばしさせてでもこの山奥に辿り着こうとするわ。賢明な判断。


「まあ今日は静か―な、神社の厳かーな雰囲気に合わせて、いつもとは一味違う私たちをご覧くださーい。それではさっそくいきますねー」


 イントロが流れ始めるが、いつもとは違う、さっきまで鳴ってた鈴や笛、太鼓がそのままメロディを奏で始める。これはそう……ライブで聞いたことある。いつも彼女たちがライブの最後に歌っている曲だ。それの、アコースティックバージョン? いや和楽器バージョンとでも言おうか? 声量も抑えめ、マイクはなし? しほりんたちの素の美声が神殿に響き渡っている。しゃんしゃんという鈴の音に合わせて軽やかに舞い踊るしほりん達に目は釘付けである。と思いきや目の前にいるんだよ。フォーメーション的に視界の真ん中を占領している桜色の浴衣の奴……桜玖良、さらたんがずっと俺たちの正面で踊っている。時折、ていうか結構目線が合う。何見てんのよって言ってる(気がする)。うん、邪魔だぞしほりん見えねえだろ引っ込め― って言ってやりたかったが、うん、コイツ本当に……しゃべらなければ、しゃべりさえしなければ、あと脛蹴ってさえ来なければ……本当に……うん。


 そのまま二曲目へ

 それはまさしく今日の曲だった。 


 さーさーのーはーさーらさらー♪ 


 曲名は知らんがなんか七夕の曲。




 ささのはさらさら

 のきばにゆれる

 おほしさま きらきら

 きんぎんすなご


 五色のたんざく

 わたしがかいた

 おほしさま きらきら

 空からみてる





 しほりんたちの歌声のハーモニーが合わさって、星空の下、幻想的な雰囲気によく合っていた。



「そして、短いですが、次で最後の曲になりまーす」

「ええええっ(ほぼ亜季乃だけの声 静かにしろって言われただろ? そして目の前で苦笑いを浮かべるしほりんとさらたんの図)」

「ここで、今日のために用意した、なんとー新曲でぇす!」

 軽いざわめきが起こる。(いつもの100分の1程度 当社比 ちなみに妹は隣でヒトには聞こえない周波数で声にならない声をあげていた)


「それでは聞いてください、どうぞ~」


 遠くで鈴の音が聞こえた。それとともに楽器の音が鳴りだし、彼女たちの歌声が響く。



 ♪~Vega meets Altair, only on the night of 7th July~



 俺たちの目の前で歌いながらくるくると舞うしほりんと桜玖良たち。俺たちと距離が近づいたり、遠ざかったり……まるで一年に一度しか会えない七夕伝説の彦星と織姫のようだ……なんちゃって。


 少なくとも今のこの関係は当たり前じゃないんだ。彼女たちの舞を見ながら俺は強くそう感じる。なんか無性に切ない気持ちがこみあげてくる。二人と目が合った。




 



 いま二人夜空に 願いかけて

 天の川を越えて 逢いにいくよ

 かささぎよ 橋を渡しておくれ

 もう一度 あなたに逢いたい


 いま二人夜空に 星見上げて

 天の川を越えて 逢いにいくよ

 いまあなたの声が 聞こえたから

 私まだ 諦めたくない







 彼女たちの歌声とともにその新曲は、静かに七夕の夜空へと奉納された。厳かな空気の中で万感の拍手が沸き起こり、特別な夜の秘密の歌舞は、ここに静かに幕を下ろしたのだった。

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