第7章‐2 推しの娘

 充分に色々頑張ったつもりだったけど、そうじゃない。まだやっていないことがあるじゃないか。


 そうだ、俺は……まだ、しほりんに会っていない。


 最後にしほりんに会ったのは、テストの後のしょこらりのライブの時だ、そこでしほりんとの記録は途絶えている。しほりんが神チケ送ってくれて目の前で「大好き」とか言ってくれたあの神ライブ……ああ思い出しただけで心がぴょんぴょんしてくる……でも、その時はしほりんとしゃべってはいない。最後にしゃべったのはいつだったか……? そうだ。最後のテストの結果がよかったとしほりんが真っ先にウチに報告にやってきてくれて、桜玖良と3人でミニ祝勝打ち上げパーティみたいなのをやった。駅までの帰り道3人での会話はとても盛り上がって楽しかったし、別れ際しほりんは何度もお礼を言ってきて、それがしほりんとの最後の会話になった。

 そうだ。まだあのライブの感想だってしほりんに伝えられていないんだ。しほりんに面と向かって言わなくちゃいけない。すごかったよってこと、なんだよあの破壊力抜群の台詞やらウィンクやら……俺を殺す気かよってこと、そして何より、なんで君の事情をずっと黙ってたんだよ……ってこと。俺に迷惑かけたくないとか思ってたんだろうけどさぁ……俺がしほりんに会えるー!とか浮かれていたときにさ、君がそんな深い事情を抱えていたことに全然気づけなかった自分が本当馬鹿みたいで嫌になる。別にしほりんの勉強みるのに手なんかこれっぽっちも抜いたりはしなかったけど、それでもさあ、もししほりんの置かれていた状況を知っていたらもっと頑張ったというか、もっと何かできることもあったかもしれないのに……

 何より、君だけが苦しみを抱えながら根詰めて頑張っていた事実が、自分は何も知らずにのうのうとしてたのが自分で許せないんだ。言いたいことも聞きたいことも山のようにある。

 しほりんと会える唯一の機会だった勉強会がなくなってしまうと、俺としほりんには何のつながりもないのだった。それから何日も経って、桜玖良がウチにやってきて、翌日女社長のところに連れてかれて、しほりん父に会いに行って……ずっとしほりんのことを考えてたけど……


 しほりんに会わなくては……いや、ただしほりんに会いたい。


 桜玖良も、女社長も、そしてしほりん父も、みんなそれぞれしほりんのことすごく大事に考えていた。でも肝心のしほりんの気持ちはそこにはない。アイドルやめることに対して、今、しほりんはどう思っているのか、何を考えているのか、そしてこれからどうしたいのか、それを聞かないと始まらない。すべてはそこからだ。


 しほりんに会いに行く。俺はそう決めた。


 そうしたはいいが、さてどうしたものか。

 今更ではあるが、こちらからしほりんに接触する術をまったくもっていないことに気づいた。勉強会の予定、というかしほりんとの窓口業務はすべて桜玖良の担当だった。そして俺は桜玖良にすら連絡手段がない。いつも奴が勝手に現れて家に押し掛けてきて俺はそれに振り回されて……という感じだ。あらためて可笑しな関係だと思う。


「しほりんの連絡先? そんなの知ってるわけないじゃん!!!」


 妹に聞いてみた。予想外の反応が返ってきた。

「あれ、お前ら仲良かったんじゃねえの?」

「そ、そんな、しほりん様の連絡先なんて畏れ多くて聞けるわけないでしょぉっ!?」

「あ、そういう(笑」

 さすが我が妹。生粋のしほりんファン 

「ちなみに桜玖良の方は?」

「さくらちゃんなら余裕だけど」

 妹の二人への対応は果たしてこれでいいのだろうか……ただそう考えると俺だけ仲間外れかw いやまあ仕方ないことではある。しほりんの連絡先リストに男の名前が一つでもあったら余裕で発狂できる自信がある。いぇすしほりんのーたっち。とりあえず桜玖良に連絡をとってもらうことにする。桜玖良と相談してしほりんに会わせてもらおう、話はそれからだ。


 ぴろん♪


「嫌って言ってるけど?」

「は?」

「以下そのまま読むね。しほちゃんに会えなかったら私ですか? ほんと尻軽ですね。そんなお兄さんには一週間謹慎の刑を命じます♪ だって」

「なんじゃそら!」


 桜玖良の意図がわからない。これはしほりんに会うなということだろうか? 今は余計なことはしない方がいいということだろうか? ただ悠長なことは言ってられない。時間がたてばたつほど状況は悪くなる一方だろう。 いずれにせよ唯一のつながりであった桜玖良を頼れない以上、どうすべきだろう? 女社長? いやしほりん父の説得に失敗しているし 今更どの面下げて会えばいいのか。しほりん家をもう一度訪ねるというのも現実的ではないのは分かりきってる事だし、正直もう道順に自信がない。

 だとしたら残るは―  


 しほりんの学校


 しほりん父はアイドル活動には反対しているが、娘への愛と将来を考えれば 学校には普通に通わせてる可能性が高い。しほりんは必ず学校にいる。学校に通う以上 校門で待ち伏せすればしほりんに会える


 

 俺はまだあきらめない。必ず見つけ出して 俺の手で説得するまでは


 

 そして 俺は俺の 大博打をはじめる




  第七章 女子校突撃警備員御用


 

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