第6章-16 投下
「それはどういうことかな?」
「ええと、しほりさんは、納得してないんですよね......自分でした決断じゃない以上、いくらしほりさんでも、なかなか前には進めないんじゃないかと……」
しほりん父の目が痛い、全然笑ってない。正面から覗かれると本当に息が詰まる。
「……まあ、そういう可能性もあるかもしれんが……確かに、そうだな。君の言う通りかもしれん」
え、え? 今、君の言う通りって言った?
ってことは……もしかして勝った? 言い負かせたってこと?
「じゃ、じゃあ……」
「ただこの、大好きな大切なモノを自分から手放すなんて決断を自ら下すのは難しい。それもまだほんの子供でしかない中学生が、人生を左右するかもしれない辛い選択をするのだから猶更だ」
しほりん父が一つ大きく咳をした。
「だから、親という者がいるのだ」
強い目だった。父親の覚悟とでもいうのか。
「今は理解してくれなくても、きっと、最終的にはちゃんと自分で納得してくれるだろう。あの時こちらの道を選んでよかったと。そして自らの意志で前に進んでくれると、私はそう娘を信じている」
「そ……」
だめだ、そう言われると何も言うことができない。なにかなにか言うことは……?
「では……」
しほりん父が腰を上げようと動く。まずい!
「えっと! しほりさんのお父さんはアイドルであるメリットというか、アイドルやっててむしろ勉強とか人生とかに役立つことだってあるんではっ、なないでしょうか!」
あれれれ自分で何言ってるのかわかんなくなってきたぞ?
「役立つこと……とは一体?」
「ええっとえっと……そ、そう! ステージの上に上がるってき緊張するじゃないですかぁっ(まさに今この状況)だ、だからそういう場を何度も経験することで緊張に強くなって、大事な試験とかでも緊張しなくなって……うぃんうぃん? みたいな感じに……」
「ふむ。しか我が娘はもう充分そのステージ度胸というようなものは身に着けてしまっているような気もするのだが」
ですよねー
おれもそうおもってましたーてへぺろ。だってねえ、あんなにいっぱいの人前でダンスも歌もあまつさえファンサまで完璧……もう緊張とか皆無完全体ですね本当よくやってるよあの娘は……いやむしろロボットサイボーグ人造人間しほりん完璧アンドロイド?(オレッチポンコツアンドロイド♪)
「ええっとーじゃあ、入社試験?めんすぇつ?ではガクチカtってのがあるらしいじゃないっすかぁ、私アイドルずっと頑張ってましたぁってのはすっごく就職とか、そうだ大学とかの面せ津田って水洗New試だってゆ有利なんじゃないでしょうかぁっ!」
「ふうむ。でもそれももう実績十分何じゃないのかね?」
たしかにっ! 蟹カニっ! 蟹田駅っ!(早く三厩駅までの不通解消してくれ、このまま廃線とかマジで嫌だーーーっ!)
「で、でもでもっ、なにか役に立つことはあるはずですっ、そそうだなあ、社交スキル、うーん、なにかなにかなにかナニカ……」
「せいぜいそれ位だろう。まだよく思いついた方じゃないのかね」
「いや、そんなことは……」
「いや。実際そんなとこなんだよ。アイドル活動で学べる、経験できることは、やはり直接的には学校の勉強には関わってこない。もちろん君がさっき言ったような副次的な効果はあるだろうし、長い人生経験においては役に立つものもあるだろう。ただ、こと受験という点で見るとそうは言えないんだ残念ながら。読書とか英会話とか学力向上につながる趣味ならやる価値もあるかもしれない。だがアイドルの活動なんて、勉強には全く関係ないだろう? ダンスを覚えても歌を覚えてもトーク術を学んでもせいぜい面接に少し使えるかどうかというレベルだ。特にある程度アイドルをやり切ったうちの娘にとってはこれ以上アイドル活動を続けることは勉強にとって障害でしかない、時間の無駄だろう」
「そ、そこまで言わなくても……」
桜玖良が反応した。やはり同じ立場としてアイドルを馬鹿にされているような言い回しが許せなかったのかだろうか。
「いや、失礼。別に君のことを言ってるわけじゃない。あくまでうちの娘に関していえば、だ……」
「で、でもしほちゃんだってそんな……」
「アイドルを頑張りたい子は頑張ればいい、みんな向き不向きもある。自分の個性を大切にした生き方をすればいい。ただ、客観的に見て、そして親の責任から判断して、しほりはアイドルに向いてない、もうこれ以上アイドルの道に進むべきではない、ここらが潮時だ」
「し潮時ってどういうことですかっ!?」
その言葉に桜玖良が身を乗り出して声を上げた。
「しほりのことは君たち以上によくわかってるつもりだ。しほりが生まれた時からずっと一緒にいて一番近くで彼女のことを見続けてきたのだから」
「それで何で潮時とか向いてないとかになるんですか?」
桜玖良が熱くなっている。しかし気持ちはわかる。俺もしほりんがそのような過小評価を受けていることに対して、単純に嫌悪感しかない。自分の娘に向かってそんな言い方……本当にこの人はしほりんの父親なのか?
「うちのしほりは頑張り屋さんだ。もう何でそんなに頑張れるのかというくらい、真っすぐで……ただそれは同時に不安でしかない。いつ体が悲鳴をあげるのか、心が壊れてしまいやしないか……あれほどの頑張りが影の努力があって娘は輝いている、ただそれは裏を返せばそういうことだ」
「……わかりません」
桜玖良が突っかかるように言う。だがそれすら全く意にしない様子で彼ははっきりと告げた。
「しほりにはね……才能がないんだよ」
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