第6章-11 突入
「はぁ~~、疲れた」
「何言ってんのよ。あれだけ美味しいものたんまりご馳走になっといて」
「だってさあ……」
まず、あんな店入ったことないし、あんな料理食べるどころか見たことすらなかったし、生きた心地がしなかったわ……
「これだからお兄さんは」
「そういうお前はどうなんだよ? 慣れてたぽいけどアイドル様はいつもあんな豪勢な食事してんのかよ?」
「え?」
急に意外そうな表情を見せる桜玖良。
「な、なんだよ?」
「ま、まあ、あれぐらいは? 乙女の嗜み? って言う感じ?」
「……目、泳いでね?」
「そ、そんなことないデース?」
なんで金髪碧眼アニメの口調になってんだ?
「そんで結局なんだったのかね? 大したこと何も言われてない気がするのだが」
「うーん、まあ小島さんいつもあんな感じだし……多分、お兄さんのことからかいたかっただけじゃないかな?」
「そんだけの理由で高級料亭に連れてかれたの!?」
「はぁーそういう面白反応するから……小島さんの中では十分元もとれてるんだろうなあ」
「元って……どんな金銭感覚だよ」
「ま、お兄さんが全部悪いんですよ。さて、もうそろそろ着きますよ」
「おい、なんでそうなるんだよ!」
女社長に駅までお見送られていろいろと持たされて、そしてまた電車乗って、今また電車降りて外に出る。お昼過ぎで、さっきより暑さを感じる。まだそんな季節ではないはずだが……単に疲れてるだけかもしれないが。だって朝からいろいろ振り回されて大変なんだもん。駅からしばらく歩いて緩やかな坂道を上ってきている。あたりはところどころ木々が目立つようになり、心なしか家のサイズも大きいというか、豪華なつくりになってきたというか……こういうのを閑静な高級住宅街とでも言うのだろうか。ふと振り向くと俺たちが住んでいるこの町が坂の上から一望できた。
「お兄さん?」
桜玖良が下から覗き込んできていた。
「あ、ああすまん」
「いい景色ですよね」
「あ、ああそうだな」
確かになかなかの景色ではあった。
しかし今の俺にそれを心から味わっていられる余裕など果たしてあるだろうか? いや、微塵もあるはずがない。
「着きましたよ、お兄さん」
「へ、ここ…‥?」
そしてたどり着いた家は予想以上の豪華で綺麗な、もう屋敷?って感じの、うん、格差社会。
「さて、行きますよお兄さん。覚悟はできてますか?」
「そんなこと言いだしたら一生覚悟なんてできねえから、さっさと押してくれ」
「はぁ、カッコ悪ぅ」
桜玖良の細い指がピンポンを鳴らした。返事があるまでの時間が妙に長く感じられる。隣の桜玖良はやはり慣れたもののようで、インターホン越しに一言二言何か喋っていると、程なくして扉が開いた。
「いらっしゃい桜玖良ちゃん、本当久しぶりねえ。話は聞いてるわ、さあ上がって上がって」
「こちらこそお久しぶりです、しほちゃんのお母さん」
「あらーなによかしこまっちゃってー。いつもみたいにしほちゃんママでいいのにー」
「え、じゃあ……しほちゃんママ、お久しぶりです……」
「そうよそれそれ。そうでなくちゃ! またいつでも気軽に遊びに来てよねっ?」
「は、はい……そうですね」
「で、あなたがもしかして……」
これまでずっと桜玖良の方に向いていたしほりん母の目が、急にこっちに向けられた。いやぁっ、こっちみないでぇっ!
「あ、ええと……初めまして、えーと」
「あなたが南方君ね。うちの子が大変お世話になったみたいで、本当ありがとうございます」
「え、ええと、僕なんか、その……」
「ちょっとこんなとこできょどるのやめて下さい。不審者みたいですから」
「ち、違うからっ、あ、えーと、です。今日は突然お邪魔してす、すみませ……」
「だからっ、もっとはっきり堂々と喋ってくださいっ!」
しほりん母がくすっと笑った。
「本当面白いのねあなた達。しほりに聞いてる通りだわ」
お、面白くなんかない……って言いたいところだが、喋るとさらにぼろが出そうだから黙っておく。だけど、聞いてる通り……って、まさかしほりんまで俺のこと変な風に言ってないよな、よな?
「しほちゃんママ、やめてくださいよ~。面白いのはこっちの人だけで」
おいっ、お前何言っちゃってんの?
「ふふっ、まあ立ち話もなんだし、上がって上がって、お父さんも待ってるから」
ま、待ってるんかーい!
「はい、ではお邪魔します」
この状況はやばい、やばいんじゃないのか? どんどん外堀だけ埋められてしまっている気がするんだが……
「ちょっとお兄さん、いつまで突っ立てるんですか? 早く靴脱いでください」
「あ、ああ」
ますますテンパってしまう俺。嫌だ、もう帰りたい!
うちなんかよりはるかに幅広の廊下を歩く。そう言えば玄関も豪華だったよな。これで通される部屋とか言ったらすごいことになるんじゃ……
と思ったら、案の定すごかった。まず、広い。そしてなんかいろいろと豪華って感じ。だめだ、これはしほりんをうちのあんな狭い客間にお呼びしていたのは失礼極まりなかったのだと痛感した。これは次の時までに客間の面積を最低でも2倍に改装して……
って、その次が無いかもしれないんだ。
俺は改めて顔を上げた。通された部屋の真ん中に一人の男性が座っている。目が合った。
「いらっしゃい、桜玖良ちゃん」
これがしほりんの父親との初対面であった。
コ○ナで寝込みつらたん さらに外出不可でいろいろキャンセル無駄になたチケ代20k越えつらたん……
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