第5.5章-10 好きだよ

 最後の曲は、逆タイトル詐欺というか、タイトルの電波感に比べて比較的まともな王道系アイドルポップでほっとした。まあ歌詞はちょっと電波ぽくないわけでもないのだが、少なくとも曲調はセツナ系ロックバラード?(←この用語ある?)というか普通にいい感じの曲だった。


 サビで3人のユニゾンが炸裂し、至近距離で音圧というか可愛さの嵐みたいなものをモロ喰らいしてしまった。まさに最短距離でしょこ♡らびゅーの餌食になってしまったのである。いやいや、可愛い女の子たち(特にしほりん)の視線を真っ正面でバチバチに受けてるんだからそれも致し方ない。本当、なんて神位置なんだろうこの神チケットは! そしてそのチケットを贈ってくれたのが……今


「いつだって何処にいたって駆けつけるよ~だって私はあなたの~♪」


 今、目の前にいる”しほりん”だという事実が……なんかこう、感慨深いというか、ぐっとくるものがある。

 なんかすっごく昔から一緒にいた気がするけど、実はそうでもないのだ。亜季乃が家に連れてきたときにたまたま家庭教師を頼まれて、そこから勉強を見てあげるようになって、ライブにも行って……こんな短い時間だったのに刺激的ないろいろがありすぎて濃い時間だったから、すっかり忘れてた。ステージの上でくるくる踊って歌ってるしほりんの姿は本当に輝いていて、改めてこんなすごい子の家庭教師できてたんだな……感動モノだわ。こんなに激カワなのに性格も最高な現役JCアイドルとこんなに仲良くなれるなんて、普通だったらあり得ない。俺、なんか一生分の運使ってないよな大丈夫だよな……?


 2番のサビ終わりにしほりんが俺の方に向かってウィンクしてきた。いや、そういう振付だから! そうだから! でもさっきからもうドキドキ心臓がバクバクいってて止まらない。


 間奏に入って、3人がくるくるとフォーメーションを変えて一列になる。一人ずつポーズを決めながら各パートを歌って、すると後ろの子が前に出てくる。最後に一番後ろに隠れていたしほりんのパートになって、ぱっと前に飛び出してくる。そして俺の目の前で、突然しゃがみ込んだ。そして


 膝立ちのポーズになる。


 これ、どっかで見たことあるっ! 最後の大サビ前のちょっとしっとりした感じのところで、膝立ちでちょっと上目遣いみたいな感じで歌ってくる破壊力抜群クリティカルヒット間違いなしの悶絶演出だ!


 ステージってちょっと高くなってるからさ……俺たちは客席の方でずっと立っているんだけど、ステージ上のしほりんが膝立ちになるとさ、本当に目線が同じくらいになるのよね。さっきまでだってもうしほりんと至近距離でやばばばばばな状況だったけど、今は完全に、もう本当に真正面に顔と顔を突き合わせて向き合っている。さっきまでのちらちらとしほりんと目が合ってるってドコロじゃない。もう完全に俺と視線が結ばれてしまっている。



 その状態でしほりんの口がゆっくりと開く。




「好きだよ♡♪」




 可愛く微笑んだまま首をこくっと傾げるかわいいポーズ。可愛いいいいいいいいいいいいいあざといいいいいいいだがそれがいいいいいいいいいいいいいいいい!そして満面の笑顔でこっちを見たまま飛び跳ねるように立ち上がって、腕をぐるぐる回しながら元の配置につくと最後のサビを3人で踊りだす。




 はい、死にました。




 冗談抜きで、もう今日死んでもいい。俺はこの瞬間のために生きてきたのだ、今まで生きててよかった……光の中で輝くしほりんの姿を前に、俺は心からそう思った。



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