第5.5章-9 今日もしほりんがんばるぞ〇っ

「残念ながら次で最後の曲になっちゃいました~~」

「えええええええええええええええええええっ」


 いや、ほんま、ええええええ?って感じよ。一瞬だったよ、ここまで。


「今来たばっかりー」


 そんなこと叫ぶ輩もいるが、なるほど同感である。ここまで体感時間3分まである。


「ごめんね、みんなー。でももう持ち曲がないの~っ★てへぺろっ」

「「「あははははははは」」」

「あれ、でも? コアしょこらり勢のみんなは、おかしいって思わないーーー??」

「「「思うーーーーー!」」」

「そうなんですよね。実はさっきの曲でもう持ち歌全部歌い切っちゃったんですよねー★きらっ」

「え、それやばない!?」

 (爆笑)

「じゃあnagi? 最後の曲どうするのよ一体?」

「mitzちゃん、よくぞ聞いてくださいました!」


 そう言うとナギという子が手を天高くつき上げ、


「なんと! 最後に私たちからプレゼントがあります!」

「おおおおおおおおおおおお?」

「それはねー?」

「おおおおおおおおおおおおおお?」

 会場中のボルテージが上がっていく。俺の心臓も……(♪どーきどきどきどきどきどきどきどき…… キミの愛〇が! ←違う)


「新・曲でーーすっ!」


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ」


「さぁて、ではshihoに説明をしてもらいましょうかっ! どうぞっ」


「えーと、この新曲は、私たちにピッタリの可愛らしいイメージの曲調で、歌詞も好きな男の子への淡い片思いを綴った、元気だけどちょっと切ない、でも私がんばるっ! て感じの曲……です」


「ちょっとshiho? リハと違うじゃんー? 私がんばるっ て時にポーズするんだったじゃん? 忘れてるー」

「あっ、そうだった」

(爆笑)


「もうshihoやんないなら私がやりまーすっ わ・た・し・が・ん・ば・るっ☆彡」

「「「fooooooooooooooooooooooo!」」」


 ぶりっ子可愛いあざとさ百点満点ポーズ(某ゲーム会社お仕事アニメの新入社員ヒロインの決めポーズ「今日も一日がんばる〇い」に激似)に会場中が歓喜の奇声を上げる。うん、こいつは……なんかあのミキしゃまと同じ系統な匂いがぷんぷんする。


「ほらっ、二人もやって? ちゃんと!」

「えーウチもやるのー?」

「そうだよっ、はいどーぞ」

「わたし、がんばるっ(キリッ)」

「「「fooooooooooooooooooooooooooooooooo!」」」


「はい、あとshihoだけだよ? さぁどーぞ?」

「え、ええと……ちょっとはずかしいかなって……」

「後になればなるほどハードル上がるよねー?」


「もう……なんでそういうこと言うのっ?」

「「「fooooooooooooooooooooooooooooooooooooo!」」」


 はい、どちゃくそ可愛い。今のセリフだけで既に会場中の何人かが昇天されました。(俺含む)


「はーい、それではしほりんのー”わたしがんばる”でーすっ!!!」

「ほ本当に、やるの……?」

「こんなのできょどってたら、後のセリフなんて絶対無理だよっ? ほらほら頑張って!」

「うううううう」

「みんなーやってほしいよねー?」

「わあああああああああああああああああああああああ」

「ほら、みんな待ってるよ? 腹括って!」

「nagiちゃんひどい……」

「はい、では、どうぞ!」


 二人に背中を押され一歩前に進み出るしほりん、恥ずかしそうに目を伏せがちだけど、何だかこっちの方をちらちら見てる気が……もじもじしている姿が、えーと……控えめに言って可愛すぎるんですが……(she is so cute, to say the least.)




「え、えーと、わ、私がんばる……っ」


(自主奇声)




「えーと……そ、そんな(どんな?)新曲なんですが、私たち的には、私たちからファンのみなさんへの感謝の気持ちを込めた曲です。いつも応援してくださってるみなさんの顔を思い浮かべながら私たち今日のために練習してきました」


 その時ちらっとしほりんと目が合った。


「いつも忘れがちになってしまうのですが……私が、こうしてステージに立てて、横に同じ夢を追い続けてるnagiやmitz、そして仲間がいてくれて、そして目の前にはこんな私を、私たちを、いつも温かい歓声で迎えてくれる応援してくれているファンのみなさんがいらっしゃってくれて……でも、それって実はすごく特別なことというか普通だったらあり得ないくらいの奇跡っていうか……」


 その時、しほりんの頬に一筋の光るものが見えた。


「 実は夢でしたー なんて目が覚めたら全部なくなっちゃてるんじゃないかって、そんな風にっ、不安になっちゃうときも、あったりして……私なんかがアイドルやってていいのかな……って」


 そんなことない そんな叫び声が後ろから聞こえてくる。俺もそう叫びたかった。でも声が出なかった。


「ありがとう……そう言ってくれて、嬉しい。でも、だからこそ……私をっ私たちを応援してくれるみなさんのために、精一杯頑張らなくちゃって。明日死んだとしても後悔しないように今日を生きたい、そんな言葉があるけれど、そんなのっ、全然イメージわかないし現実味ないけど、多分そういうことなんだって……だから私も一日一日を、今日が最後のライブになっても後悔しないように、そんな気持ちでやらなくちゃって……」


 涙声の彼女。一筋のスポットライトの下で。



「こんな奇跡の時間を大事にしなくちゃって……」



 俺は一体何をしている? 俺はしほりんの覚悟とか努力とかそんなものに全然寄り添えてなかった。


「だから最後の曲は、今私たちが持てるすべての力を振り絞って、この会場にいる私たちを応援してくれている全ての人、一人ひとりにありがとうの気持ちをちゃんと届けたい、そんな気持ちで歌います」


 しほりんは一回だけ右腕で目元をこすって、そして再び前を向いた。俺の目線の先に彼女が、そして彼女の視線の先に俺がいた。




「最後の曲です。聞いてください、私たちChocolat Lipsの新曲です」





「「「最短距離でしょこ♡らびゅー」」」












p.s  感動のスピーチの後に、何でそんな電波ソングな曲名なんだっ?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る