第5.5章-6 前前前夜(ライブの)

「兄貴っ! やばいやばいやばばな事態が発生したっ!」


 夕食後リビングでごろごろしてると亜季乃が素っ頓狂な声を上げながら飛んできた。バナナ事態が発生? そっかドンマイ。ちなみにキューバの首都はハバナ。バハマの首都はナッソー。どちらもカリブ海に浮かぶ島国である。

「はいはい、どした?」


「日曜、サッカーの試合だったぁ!」


「え、ふうん」

「ちょ なんでそんな冷静な反応なの!?」

「いや、そりゃそうだろ? 土日部活とか普通じゃん?」

「普通だから……なに?」

「ま、そんなときもあるだろ」


 どうしても行きたいライブの時に限って大事な仕事とかが入るってのは「あるある」ではないか? あとイベント被り。もうどっち行くか真剣に悩んだあげく、行ったほうのイベントが映像化されて逆は……なんてこともあるある。特に土日はいろいろ被るんだよこれ……(個人的なワースト被りは、某飯能の山登りアニメイベントと、エ〇ド〇ッド引退セレモニーの被り。都内ならまだしも埼玉と広島 どう考えても間に合わんわw)


「ウチがライブ行けなくてもいいってそれ真剣に言ってるぅ?」

「え、そりゃそ……ぐえっ」


 背中に突如として衝撃が走る。どうも亜季乃が後ろからタックルしてきたようだ。


「こんの~や~ろぉ~」


 背後を振り向くと鬼の形相と化した亜季乃の姿。

「ま待て亜季乃! 話せばわか……」

 1932年の五・一五事件で暗殺された犬養毅のようなセリフを吐いてしまった。聞く耳はもう既に持っていない亜鬼乃。背後から一気に俺の首に腕を絡めてきた。

「ちょ待てよ! げぁっ」

「しねぇえっ」

 俗に言うチョークスリーパー状態である。妹は一体どこでこんな技を習得したのだろうか? はい、実験台は幼少期よりずっと私でしたね。

 でもいいよね。この腕を絡めてきたっていう表現。俺もいつかしほりんに腕を絡められたい……まあ絡めてくる場所が非常に重要だとは思うのだけれど。痛い痛い痛い痛い。いーきーもーできないーくーらいーねえきーみがすきだよー♪


「ぅぐえ……く首絞めんぁ……」

「こんちくしょおおおおおお」

「ぁきの……ギブギブギブ……」

 俺の首を締め上げる亜季乃の腕に向かってパンパンと叩いて降参のポーズを示すも一向に緩まる気配がない。体をひねって逃れようとしたが、後ろから脚が回されてきて俺の腰は亜季乃の太ももで挟まれる形になってまったく動けない。お前いつからこなきジジイになったんだよ……

「ぐぉおおおおおおおお」

「ぁっ……」

 もう無理ぽ。



 ようやっと解放された俺はソファの上に倒れこんだまま動けない。とんでもない怪物を育ててしまったもんだ。

「でもライブ夕方だろ? そんな遅くまで試合あんの?」

「試合が県外なのよ。ライブまでに帰ってこれるかなあ……間違っても開場時間には間に合わなさそう……はぁ」

「よかったじゃん、ライブに間に合う感じなんだったら」

「は? せっかくの神整理番号なのよ! 超最前列で見れるチャンスだったのにぃいいいい」

「ま、見れんよりはましじゃ……ぐえ、ご、ごめんなさい! もう首絞めは勘弁!」

「しほりんがせっかく神チケくれたのにいいいい」

「痛ててててて!」


「まあ仕方ない。チケットは別々に持っていくわよ。私は試合から直行するから。兄貴はちゃんと前列で陣取ってなさいよ!」

「おう」

「で、今回の物販の任務は兄貴に任せるッ!」

「Yes, sir!」

「ちゃんと並んでよ。始発で出てね」

「始発ぅ!?」

「なんか文句ある?」

「……ないです」





 待て、日曜……? なんかあった気がs……?








 ライブ前前前夜から僕は~コール覚え始めたよ~♪(めたよ~♪

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