第5章-16 テストする そして女子中生とお茶る

「はーい、今出まーす」


 珍しい夕方の時間にベルが鳴った。もしかしたら、という淡い期待を抱きながら、いやもう一人の方の線もあると思い慎重に扉を開けた。


「お兄様!」


 開けた途端、満面の笑みのしほりんが飛びついてきた。いや、語弊がないように言っておくと飛びつかれてしまう前に俺がとっさに後ろによけてしまったために、しほりんが伸ばしてきた両手をキャッチする形になって、そして俺は今しほりんと至近距離で向き合って彼女と両手を握り合っている状態である。どうしたなんだこのシチュエーション、美味しすぎて正直俺の貧弱な胃腸には刺激が強すぎる。それでなくてももし俺がよけなかったらしほりんと……は、ハグ状態になってしたかもしれないというのに。ああ、何やってんだ俺、こんな美少女とそんなチャンスなんてもう一生なかったかもしれないのに、馬鹿! 俺の大馬鹿野郎! いやでもそうなるともう俺ショック死しちゃってたかもしんないな。いや、もしその場合でも本望、わが人生に一片の悔いなし!


「お兄様! やりました! やったんですっ!」


 しほりんのこんな大きな声初めて聞いた。


「ど、どうしたの? もしかしてテ」

「そうですっ! テストがすっっっごくよかったんですっ!」

「そ、それはよかっt」

「過去最高記録でっ、こんないい点数今まで獲ったことなくてっ、本当にうれしくてうれしくてっ」 

「そう、それはおめd」

「はいっ、ありがとうございますっ!!!」


 俺が言い終わらないうちにどんどんかぶせてくるしほりん。いつも冷静でおとなしい印象の彼女がこんなにはしゃぐなんて、よっぽど嬉しかったんだろう。心なしか彼女の瞳に光るものが見えた気がした。


「お兄様のおかげです! 本当にありがとうございましたっ!」

「そんなこと……しほりんが頑張ったからだy」

「いいえ違いますっ」


 急に握られる手の力が強くなった。


「絶対にお兄様のおかげですからっ、だって私、今までだって一生懸命頑張って勉強してきたけど全然ダメだったんです。それがお兄様に出会えて、すっごく丁寧にわかりやすく教えてもらえてっ、それで自己ベストの成績が獲れて……本当にありがとうございましたっ!!!」


「あ、ありがとう……」

 

 そこまで言ってもらえて悪い気は全くしない。


「はいっ! 本当にありがとうございますっ!!!」



「ねえしほちゃん、いつまでそうしてんの?」


 しほりんの後ろから声がしてぬっと現れたのは案の定桜玖良だった。ちっ、今すっごくいいところだったんだから空気読めよ……水差して来んなって。


「だって、だってぇ……うれしいんだもん」


「はいはいわかったから。ここで騒いでたらまた近所迷惑になっちゃうし、とりあえず上がらせてもらいましょう、いいですよねお兄さん?」

「おう、もちのロンだぜ!」

「い、いいのですかお兄様?」

「大したモンないだろうけど、ささやかながらしほりんテストいい点記念パーティーだ!」

「いぇーい」


「お兄様……さくらちゃん……」


「さ、早く上がって上がって、まあ冷蔵庫今から確認するからあれだけどw」

「何もなかったらお兄さんが買い出し行ってくださいね?」

「なんで俺が!?」

「まさか客人に買いに行かせるつもりですか!?」

「だって家誰もいなくなるじゃん?」

「大丈夫です。留守番は任せてくださいね」

「見ず知らずの客人に留守番してもらうのもどっかおかしくない?」

「もう全然見ず知らずってわけでもないでしょ?」

「ふふっ、二人とも熟年夫婦みたいですね」

「違うから!」「ちげーから!」

「じゃあ漫才コンビ?」

「「もっとちがーう!」」


 まさに往年の漫才コンビのように声を揃えてしまった。しまったと思った時にはもう時すでに遅し。隣の桜玖良の睨みが効いた視線が痛い。


「ほらね、やっぱり」

「余計なこと言わなくていいの、しほちゃん!」


 うん、その通りだ。話の矛先を変えるためにも冷蔵庫を開ける。


「あ、やべ。やっぱり何もねえな」

「はい、お兄さん買い出し決定~」

「う~~~~ん。まあやむを得んか」


「ねえ、みんなで行きません? 近所のスーパーにでも」


 するとしほりんが天使の提案をしてきた。マジ天使すぎるこの娘!


「いやいや、それは悪いよ。一応お客さん、そして何と言っても今日の主賓なんだから」

「それいーじゃん! ついでに名月堂にもよって、ね?」

「ああ、確かにそれならアリだな」

「ちょっとちょっと! そこまでしなくていいですっ!」

「よし、じゃあ行きますか」

「ほら、しほちゃんもバッグ置かせてもらって、早く!」

「さくらちゃん!??」

 

 3人で笑いながら玄関を出る。二人の笑顔を見ながら、ああ、一か月前までこんな瞬間は全くイメージできなかったな、と思う。最初に勉強を見ることになったときは果たして上手くいくのだろうかと不安しかなかったが、ああ、やっぱり引き受けてよかった。頑張った甲斐があったな。てまあ一番頑張ったのはしほりんだけど。


「お兄様?」

「ちょっと何してんのー、もう行くよ?」

「ああ、ごめんごめん」









「どしたの兄貴、こんなに散らかして」


 サッカーから帰ってきた亜季乃が開口一番にそう言った。そうだった。三人でささやかながらパーティーをして、ついさっき二人を駅まで送って帰って少し横になっていたところだったのだ。


「ああ、すまん。ちゃんとやっとくから」


 やべえ。今日のことが妹にばれたら本当に後々面倒くさいからな。念のため桜玖良に釘さしとかないと。いや、この場合気をつけなくてはいけないのはむしろ、天然で口滑らせそうなしほりんの方か? 俺は慌てて机の上のコップやごみを片付ける。


「ねえ兄貴?」

「ん?」

「なんか、いいにおいしない?」


 ぎくうっ


 一瞬にして俺の背筋がピンと伸びる。


「そ、そうか? 晩飯のにおいじゃないか?」


 俺は平静を装って答える。内心ヒヤヒヤ。


「んー? 違うよ、なんか甘いにおいっていうか、お菓子、いや化粧品かなぁ?」

 

 ぎっくううう。まじかよ。なんて勘の鋭い妹! ってかあいつら化粧なんてしてたのか? 俺は年中鼻炎で鼻詰まってるから、わからんわ。


「いや、まあ菓子食ってたから……」

「まさか私のいない間に、家に女子連れ込んでたんじゃ……」


 ぎっくうううううう。ビンゴおおおおお。女の勘コワい


「何言ってんだよ、まったくそんなことあるはず……」

「うん、あるはずないわよね。この顔面偏差値の兄貴に限って」


 おい、何勝手に決めつけちゃってくれてんだよコイツ! しかし今はそんなことどうでもいい。


「そ、そうだぞ。な、ないにきまってるだろ……」

「それより早くメシ出してぇ、もう腹減ったのなんのって」

「はいはい、少々お待ちを」 


 やべえ。改めてこれから気をつけなくちゃな。でも、今日なんて別に勉強教えてたわけじゃない、単純に一緒に遊んでた……なんてことになるのだろうか。そう考えると、俺の今までの灰色人生には本当にありえない話だなまったく。この幸せに感謝しとかないとな。


「兄貴ぃ? だから早くメシ!!!」


 そんな俺の幸せは、そう長くは続かないようであった。


「へいへいお客様。ただ今お持ちしまーす」








 しほりんテスト週間編 完!







 カクヨムの大先輩に畏れ多くもタイトルお借りしてしまいました。祝・完結おめでとうございます。最終5巻の余韻に、アニメももうすぐ終わりそうで、切ない感じです。


 以下若干のひげひろネタバレ要素アリ? 注









 最近のトレンドはハーレム物でも勝者一人・完全決着とかマルチエンディングとかifルートとかっぽいんで、こういういい意味で俺たちの戦いはこれからだエンドは逆に新鮮でした。みんなまだあの世界で一生懸命生きているんだって感じがしますね。また沙〇チャソに会いたくなりました。うちの娘も誰かに「さらチャソ」とか呼ばせてみようかしらw 後藤さん推しが多そうですが個人的には〇優チャソ一択ですw 三島とあさみも好き。



 原作終わりアニメも1クールで最後まで行きそうな中、漫画がまだまだ連載中でして、アニメでついに出なかった神田先輩のターン真っ最中w いまる先生の画が本当いい感じで、最後までこの丁寧な感じで漫画もやってくれたらなあって思ってます。

いまる先生が提唱していた「るそし」っていう愛称が個人的に好き。ちょっと「みそしる」っぽい響きだし。(みそ汁はもうマストアイテムですよね!)

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