第5章-10 四倍分の語覚(ごおぼえ)

「えーと、ユキちゃん?先生? 単語覚えるのってどうしてますか?」


 今日も今日とて図書館にて勉強中。今日は桜玖良がいないので落ち着いてはいられるのだが、しほりんと二人きりってとこと慣れない女装のために若干緊居心地が悪い俺であった。そして未だに呼び方がたどたどしいしほりんが突然話題を振ってくる。


「単語……英単語だよね?」

「はい」

「うーんそうだなあ……がっつり英単語だけ勉強したことないんだよなあ……いや、ないんだよねえー」

「もうっw 今近くに人いないからわざわざ女言葉にしなくてもいいのに」

 口に手を当ててくすくすと笑うしほりん、くっそ可愛い。

「でもさすがお兄さ……ユキちゃんですね。単語なんて覚えなくても勉強できちゃうんですから」

 はぁと小さいため息とともに呟かれた。

「いや違うって、勉強してないから全然なんだよ。特に英語は高校入って点が低くて……」

「またまたぁーそんなこと言っちゃってぇ」

 いや、ガチだから……って言おうとして、ふと思いとどまる。しほりんは今の俺の成績が下の下であることを知らない。いや、決して隠しているわけではないけれど。俺が勉強できないって言ってるのをただの謙遜だと思い込んだまま家庭教師をお願いしてきてる節がある。実際は(To tell the truth)言うまでもない(Needless to say)ほどにひどい成績なのだが。ただ、せっかく勘違いしてくれてるんだ。その信頼を自ら崩して家庭教師役の座を引きずり降ろされに行くなんてできやしない!(No Way!


「まあでも、CDとか聞きながらがいい。って言うよね」


「そうなんですか?」


「英語には4つの刺激が要るんだって」


 言いながら、頭の中でなけなしの英語論をこねくり回す。


「4つ?」


 しほりんがこっちに身を乗り出してきた。「私、気になりますっ!(言ってない)」


「うん。まず「読む」だね。見るでもいいけど、これは日本人がすごく得意な分野なんだ。学校のテストとかも長っがい文章読まされるでしょ? だから日本人は読むのに関しては世界でもレベル高い方らしいよ」

「へえ、そうなんですね」


「で、あとの3つなんだけど、なんだと思う?」


「えーと……「書く」とか、あと「聞く」とかですか?」

「あらら……さすがしほりん……ちゃん、正解だわ」

 ちょっと簡単すぎたか……

「でももう一個……なんでしょう? 読んで書いて聞いて……」

 おっ、思いつかない?

「ふっふっふー最後の一個はねー「は……」」


「「話す」でしょうか?」


「うん……正解。流石しほ、ちゃん……」

 はい、あっさりと当てられる始末。

「やったあ」

 小さく「むんっ」と可愛いガッツポーズをする真〇ちゃん(違う しほりん)。


「この4つ。読む書く聞く話す は リーディング・ライティング・リスニング・スピーキング とも言うんだけど……」

「あ、リスニング……正直苦手なんですよねw」

「だよねw 最近増えてきたけど、まだまだ日本のテストは読む書くのが多いし、英検とかTOEIC・TOFEL受けるならまだしも、スピーキングとかほとんど試験されないからね。総じて日本人は、読む書く(カクヨム?)はできても聞く・話すのは苦手って言われてるんだから。みんな苦手なのも仕方ないと思うよ」

「私だけじゃなかった……ほっ」


 センター試験改革! とか銘打って文科省もいろいろやってたけど、民間のテスト導入の話も全て流れて、結局広げた大風呂敷でほぼ何も回収できなかったという体たらくである。グローバル化に対応するため聞く話す能力を鍛えようという意義自体は大変良かったと思うが。

 でも、正直これまでの読む書くに特化した日本の英語教育って、研究者のためのものなんだよな。研究者が海外の論文読んで英語で論文書いて発表できればそれでよし! って感じだったのだから、そりゃ研究職に行かない大半の人間にとってはそりゃ無駄な英語だろうよ。ただこの傾向は全ての教科で言えることであり、学校の勉強は社会で役に立たないって批判されるけど、そりゃそうだ。そもそも前提として海外で論文発表できる研究者を養成するためのカリキュラムを全員が押し付けられているのだから。そのこと自体は必ずしも悪くはない。実際日本は素晴らしい研究者たち、人材を輩出し続けてきている。ただ、そのカリキュラムが社会の大多数の人間に直接的に役に立たない、だけなのだ。

(ただ、日本はほぼ全国民が高レベルの義務教育を受けているため、国全体のレベルが高いという。例えばコンビニのレジ打ちバイトは日本人なら誰でもできる、それはちゃんと算数を習っているから。途上国などではそうもいかない。全員が計算できるるからいつでも誰とでもお金のやり取りなどが余裕で行える、そのようなことが高水準の社会を維持に役立っているのだという話を聞いたことがある。

 また親がエリートでなくとも子が学者や官僚になることもある、これも社会全体で言語や数学で高いレベルを保てているからだろう。

 だから学校の勉強は無駄、というのは個人の人生という観点からはあながち間違ってないかもしれないが、日本社会の維持のため、次世代の育成という点では超必要なのである。)

 そしてこれからの時代、研究以外の外交・ビジネスなどの分野でも海外と渡り合っていくために、また海外からやってくる観光客相手に商売するために、使える英語(聞く話す)を鍛えなければならないのは当然である。しかし、この力を伸ばして試験するというのは思った以上に難しいらしい。


「だからこそ、リスニング・スピーキングを意識して勉強するのがとてもいいらしいよ。そのために、まずCDを聞いて真似して話すところから始めるのがいいんだってさ」

「なるほど……」

「有効な方法として「シャドーイング」っていうものがある。これは、CDとかの音声を聴きながら同時に重ねてしゃべるという方法で、最近流行ってる。この方法なら音声を聴いて後から繰り返すよりも、短い時間で聴く力と話す力の両方を一気に改善できるんだ」

「ふむふむ……」

 ふむふむと言いながらメモを取っているしほりん、うん可愛い。


「で、さっきの話に戻るけど……単語を覚えるのにもこれは使える。単語一つとっても、読んで聞いて書いてしゃべって……とやると、普通に見て覚えるだけより4倍分脳を刺激することができるんだって」


「!」


「つまり、例えばdabateって綴りを見ながらその音声を聞きながらそれに合わせて「ディベイト」と発音しながらノートに書くと……」

「一気に4回分暗記したことになるんですねっ!」

「That's right !」


「私、がんばりますっ」

「あと語呂で英単語覚えるのもよくないって言われたな」

「なんでですか?」(「私、気になりますっ!!」(言ってない))

「単純な書くテストを乗り切るだけなら別として、長い目で見るとローマ字的に覚えるのは聞いたり話したりって段階の時に邪魔になったり、覚え直さなくちゃいけないからって言われたかなあ」

 某五つ子の家庭教師をしている全国模試1位の高校生〇杉君は次女の英語テスト対策として「debate 討論する」の英単語を「でばて」と覚えるんだ! と覚えさせてテストも合格してなんかうまくいった感があるんだけど、うん。話し合いはディベートって言うくらいだし、普通に覚えさせた方がよかったのではなかろうか。ローマ字の語呂で正しく覚えられそうなの「tomato トマト」位しか浮かんでこないんだが。(その場合も発音は トメイトウ)


「さすがお兄様。数学だけじゃなくて英語も完璧なんですねっ」

 しほりんの瞳がきらきらしている。

「いやあそれほどでも。今のうんちくだって正直全部中学の時の先生の受け売りなんだよなあ」

「そうなのですか?」

「うん、とても面倒見のいい先生でさ、俺正直英語嫌いで苦手だったんだけどさ、いろいろ引っ張り出されて色々教え込まれたというか……」

「お兄様でも英語嫌いとかあるんですね……」

「全然あるよ。(←はい。これ日本語的には間違った文法です 注意w)英語なんて嫌いで仕方なかったのにさあ。それをあの先生、無理やり英語の道に引きずり込んでくるんだよ。英語部の人数が足りないからって強制的に英語落語の練習とかさせられて、そして地元の交流行事で舞台に立たされたり、あ、落語だから座布団に座らされたり(上手い! 座布団一枚)宿泊学習の出し物で昔の洋楽歌わさせられたりしてさぁ」

「お兄様が歌を? ぜひ聞いてみたいですっ!」

「え……そんな、しほりんに比べたら下手すぎて聞かせられないよ絶対……」

「いーや、一回は歌ってもらいますからっきっと」

「ははは、まいったなあ」




「で、お兄様、一つお聞きしたいのですけれど」

「ん、何?」


「その先生って……男性ですか?」


「いや…………女性だったけど」


 その瞬間しほりんの眉がわずかにぴくっと動いた気がした。


「へー、女の先生ですか。それは、たいそう可愛がられていたのですね……」

「え、えーと、確かに可愛がられてはいた気がするけど、あれ? なんかしほりん誤解してる?」

「してません! ねえお兄様、その先生っておばさんでした?」

「え、ええと、そこまで若くも年取ってもなかった気がするというか……」

「……へー、そうなんですね……へー……」


「しほりんっそろそろっ勉強に戻ろうかっ???」


 実際は結構若くて、美人でみんなに人気のあった先生だったなんて言ったら、しほりんの機嫌がさらに悪くなりそうな気がした。でも何で? Why?


 あれ? もしかしてその先生が登場したら人気出そう? (ぼく勉の桐〇先生みたいに、サブキャラだったはずが人気投票ダントツ1位みたいな)(個人的には主人公だったはずが最後影が薄くなってしまった文系の眠り姫が好きw)



「へーーー、美人のセンセにいろいろ教えこまれてたのですね……」

「違うよしほりん! さぁ早く、続きやろうよ!(汗」

 









 久々に本編長いページ書いて疲れましたw

 ちょっと落ち着いたので、今週からはしばらく水曜更新で頑張るつもりです。

 次は花見SSを決着付けますw


 あと五等分の花嫁イベント成功おめでとうございました トークにライブに完璧なイベントで最高でした! (ただ一点コロナで行けなかった人が多かったという点を除いて……チクショー)

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