第5章‐7 JKアイドルのウラオモテ

「妹の友達だからって、普通ここまでよくしてくれないよ?」


「いやいや可愛い女の子たち相手だったらみんなこんなもんでしょ?」

 

 まあそれもまったく否定できないわけではないが。ただお前なぁ、ちゃっかり自分も可愛いほうに入れてんじゃねえよ。まあそれも否定しないけど。


「いくらさくらちゃんが可愛い女の子だからって、寝てる間に勝手に女装メイクさせられてたら普通はもっと怒るだろうし、もっとひどいことだって言われるかもしれないよ。でもお兄様は、今だってこうやって文句言いながらでも笑って、さくらちゃんのこと許してくれてる。しょうがないなぁって感じで」


「いやいや考えすぎだからそれ」


 口ではそうは言いながらも、桜玖良のほうもちょっとしんみりというか、さっきまでの勢いはなくなっていた。ちょっとは反省してる……のだろうか? しかし、しほりんはどうしてここまで俺をかばってくれるのだろう……俺、そんないい人間じゃないし、しほりんが思ってるような優しい人間でもないし! かと言ってそれを否定してしまう勇気もなく、というか単純にしほりんの理想像としてのお兄さんを自分から崩したくはなかっただけなのかもしれない。


「ね?」


「ごめん、しほちゃん……」


「私じゃなくてお兄様に、でしょ?」


 そう言われた桜玖良は少しバツが悪そうにうつむいたままこっちを向いて、


「……ごめん……、ちょっとやりすぎた……かも」


 雷が落ちた。いつもは絶対見せないような殊勝な表情、コイツの口から謝罪の言葉が聞ける日が来るなんて、正直違和感しかないのだが。明日は台風が来るに違いない。しかし思ったよりその言葉を自然に受け入れている俺がいて、そのことが自分でも少し意外だった。


「いいよ別に、怒ってないし。お前の気持ちもわからなくもないし」


「そ、う…・・?」


「それにしほりんにここまで言ってもらえただけで、俺はもう満足だよ。ありがとうしほりん」


「え……お、お兄様。そんな大したことは言ってませんし……」


「いや、でも結構うれしかったから……」


「そ、そうですか……えーと、じゃあ、さくらちゃん? 早くお兄様のメイクとってあげて」


「は~い」


 しぶしぶ返事する桜玖良。俺は迷った。しほりん、俺別にこのままでも……言いかけた時だった。



「あーやっぱりだめだったかあ」



 桜玖良が大声でかぶせてきやがった。

「さくらちゃん、もうっ」 


「そうだよねー。やっぱりいくら頑張っても元の顔が悪いから気持ち悪いよね」


 ん、てめえ今なんと言いやがった???

「さくらちゃん!?」

「だってそうでしょ? 気持ち悪いでしょ? 不細工男子が頑張ってメイクしましたって感じで、やっぱ無理るよねー」

「えーと、さくらちゃん? 人の話聞いてた?」

「しほちゃんにもすぐばれちゃったし」

「そ、それは、お兄様の顔だからっ、すぐわかっただけだしっ」

「いいのしほちゃん、無理しないで。正直お兄さんの女装キモって思ってるでしょ?」

「思ってないよ」

「こんなブサメン変態女装野郎と一緒にいたくないに決まってんじゃん」

「だから思ってないから!」

「じゃあ最初に見たときどう思った?」

 しほりんがこっちをちらっと見て、さっと目線を逸らした。あ、はい……なんとなくわかりました。


「いや、ちょっと、か、カワイイなって」


「ほえっ!?」

 これには二人同時に驚きの声をあげてしまった。

「しほちゃん冗談きついw」

「冗談じゃないけど」

 あくまで真顔で怒ってるように見えるしほりん、どこまで本気で言ってくれてるのだろうか、正直わからない。

「え、じゃあ教室とかで話しかけられても大丈夫?」

「うん」

「え、じゃあ一緒に町とか歩きたいと思う?」

「大丈夫よ」

「じゃあさー一緒に放課後図書館で勉強とかは?」


「大丈夫に決まってるでしょっ!」


「ですってお兄さん♪」


 桜玖良の言葉にしほりんははっと我に返った。しまった!と言わんばかりに口をあんぐりとあけた。まさに、はめられた! という顔。唇をわなわなと震わせていて本当に可愛い。うん。これは結構貴重なオフショットではなかろうか?


「しほちゃんにここまで言わせておいて、このまま帰っちゃうんですかお兄さん?」


 桜玖良が、してやったりのニヤニヤ顔でこっちを下から覗きこんでくる。こいつ聞き分けいいフリして全然諦めてなかったんだな。まさにPretender(フリをする)往生際が悪すぎるというかなんというか。ちらっとしほりんのほうを見ると口をパクパクさせながらこっちを申し訳なさそうな目で見てくる。


「しほりん、気を遣ってくれて嬉しかった。ありがとう。だけど俺、やるよ」

「そんなのっ!」

「だってしほりんにそこまで言ってもらえたら女装した甲斐があるよ、まあ経緯は不本意だけどねw」

「お兄様……」

「さあ、そうと決まれば早速図書館でお勉強にレッツゴーですね! みっちりしほちゃんのテスト勉強みてあげてくださいねお兄さん!」

「おう! モチのロンだ!」


 もう自分でもテンションがわかんなくなってきている。もうどうにでもなれ。後は煮るなり焼くなりどうぞご自由に(Do whatever you want with me)って心境。


「じゃあ行ってらっしゃいお二人さーん♪」

「おう、じゃあな」

「ちょっと、さくらちゃん?」

「ぎく」

「なんでさくらちゃんは帰ろうとしてるのかなぁ?」

「え、だって、私はテスト週間じゃないし……じゃましちゃ悪いから……」

「全然邪魔なんかじゃないわよ? ねえお兄様?」

「おう! もちのロンだぜ!」

「えーっと6時からレッスンがあるから……」

「今日はレッスンの日じゃないわよ、さくらちゃん?」

「あれ? そ、そうだったっけ……へへへ……」


 いつも通りの優しいしほりんの声、しかし、その目は全く笑ってはおらず……


「さ、行くわよ? さくらちゃんも」

「あは、ははは……」


 今日はなんだかしほりんの新たな一面を、たくさん見ることができた気がする。うん、そして今思うことは、怒った顔もこわ……こわ可愛い。ってことですかね? うん、今後気をつけよう。


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