第5章-6 しゅわるん☆どりーみん

お兄様とだったら大丈夫……ってこと? え、それってもしかして?


「お兄さん、これは別に誤解されても気にしないくらいに意識されてない心底どうでもいいってことですからね? 念のため一応」


 小声で桜玖良のちょっかいが入ってきた。まあその通りだろうが……なぜコイツはいつもいつもこう絶妙なタイミングで的確に水を差してくるのだろう?


「しほちゃんがよくてもお兄さんが襲われるわよ。誤解したファンの人たちに」

「そんなことないわ」

「夜道で足ひっかけられたり、上履きに押しピン入れられたり、教室の机の上に花が置かれてたり……」

 なんかやたら耳っちいイジメだな。

「それから学校を特定されて、ネットの海に恥ずかしい子供のころの写真をばらまかれて永遠にその画像が彷徨うことになったり……」

「それは死ぬるわ!」


「ね、というわけでこのまま頑張ってくださいねお兄さん?」


 はぁ……

 やっぱそういう展開になるのか。まあでも改めて考えてみると桜玖良の言う通りだな。俺自身が変な嫌がらせを受けるのは別にいい。でもそのせいでしほりんに変な噂が立ったりファンの人を怒らせたりするのは絶対だめだ。俺だって、もししほりんが放課後街角デートしてる現場とか目撃しちゃったりしちゃったらきっとショックで発狂する勢いだ。亜季乃だったら下手したら死んじゃうんじゃないか?(しゅわーしゅわー♪) さっきまで、しほりんと放課後図書館デートたのし~!るんるん(るんっ♪ときた)とか言ってた自分が急に恥ずかしく大馬鹿者に思えてきたわ。穴があったら入りたい。(I’m so embarassed that I wanted to sink through the floor.恥ずかしすぎて床の下に沈んでしまいたい)ほかにも(I wish the earth would swallow me up 地面が私を飲み込んでしまったらいいのに)とか(I wanted to crawl under the rug カーペットの下に潜ってしまいたい)とか結構多くてびっくり)


「そうだな。わかったよ……」


「さくらちゃん」


 急にしほりんが強い口調になった。


「いくらお兄様が優しいからって、これはお兄様に悪いです」


 いつもとはまた違う真剣な眼差しだった。とても優しい女の子だと思ってたしほりんにもこんな表情ができるのかと、俺は思った。

「そんなあ」

「そうだよ。さすがにだめだよこんなの……ごめんなさいお兄様、でもさくらちゃんもきっと悪気があったわけじゃなくて……」

「あ、うん。大丈夫、わかってるから」

 真っ直ぐこちらを向いて頭を下げる彼女を見ながら思う、この子は本当に優しいんだ。

「さくらちゃん、私、大丈夫だから」

「しほちゃん……」 

「私たちのファンの人たちなら、ちゃんと説明すればきっとわかってくれるはずです。別にやましいことなど何もないんだから」

 あ、はい、そうですその通りです。何もやましいことはないです……もちろんドにドがつく位のヘタレですから! あれ言ってて悲しいぞ?オイ


「それに私はお兄様なら仮に誤解されるようなことになっても構いません」


「えぇ!?」


 俺と桜玖良が揃って声を上げてしまう。

「そ、それって……」

「だって、お兄様優しいですし……私には全然勿体ないぐらいですから。むしろこちらから喜んでって感じです。ああ、でもお兄様は私なんかじゃきっと迷惑でしょうね……それにもう彼女さんがいらっしゃるでしょうからやっぱりダメですよね……」

 そう言ってちょっと伏目がちに俺を見る。きみの目見ていると なんだかこころがパチパチ~♪ そのはにかんだ表情の破壊力たるや! そして何言っちゃってんのこの娘! 全然じぇんじぇん迷惑なんかじゃないよ! そしてどう考えてもあなたのほうにウン百万円規模でおつりが来るよ! そして彼女さんなんていないよいない、今まで一人もいたことないよ神に誓って! そしてたぶんこれからもいないよ……orz

「しほちゃん、さすがにそれはないわー。こんなやつ千人集めてもまだコイツのほうがもったいないわw」

 うん、腹立つけど同感過ぎてなんも言えねえ。


「さくらちゃんはわかってないなぁ」


 ん、何を?


 しほりんがこっちを見て少しだけ微笑を見せた。え?




 (わーくーわーくー♪)






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