第5章-5 一番会いたい人が今一番会えない人

 会いたいのに会えないって古今東西様々な歌手が歌ってきた気がするけど、なるほどこういうシチュのことを言うんですね! とりあえずさり気なくしほりんから顔を逸らせて不自然にならないようにそのまま後ろを向く。


「ごめんね。委員会が長引いちゃって~」


 しほりんのお美しい声が聞こえる。

「ううん大丈夫。しほちゃん、私たちも今来たところだから」

「そう? あ、ごめんなさい、こちらは……? さくらちゃんの友達?」


「うん。友達の南方幸子ちゃん」


「げふうっ!」

 思わず吹き込んでしまった。


「だいじょうぶう? さちこちゃん~?」


 コイツいつかマジで駆逐してやる!

 ちらっと顔を向けると思いっきりしほりんと目が合ってしまった。やばい。ばれる! さり気なく顔をしほりんから背けるようにして動く。


「は、はじめまして……南方、さち、こ……です」

「きゃはははははっはははははっ」


 できる限り自然な声色で女の子の声を真似てみたというのに、ちくしょう。大笑いしやがってコイツ! すると、しほりんはすうっと目を細めて、


「……お兄様ですよね?」


 やばい、もうばれた!?


「ち、違いますっ。私は幸子って名前の女の子で……」

「ぎゃっはははははははははははhっはhっははははっ!」

 横で盛大に噴き出す桜玖良。


「さくらちゃん? お兄様にこんなことさせて、何考えてるの?」


 さすがしほりん! 俺が自分の意志で女装したんじゃないってわかってくれてるみたいだ!


「違うの。これはお兄さんが自分でやったの」

「おい嘘つくな! 俺には女装癖なんてないぞ!」

 小声で桜玖良に撤回を促す。


「え、違うんですか?」


 にっこりと微笑む桜玖良。一度蹴り飛ばしてやりたいと思わせるくらいに見事なまでの営業スマイル。ぐぬぬぬ……


「違うのしほちゃん。お兄さんね、しほちゃんのためにぜひ協力したいんだって!」

「おいこらっ!」

 確かにそう言ったしその通りなのだが。その言い方じゃまだ何の誤解も解けてないぞ!

「えーと……そうなんですかお兄様?」

「え、えーと、確かにしほりんの勉強みてあげたいとは、言った。言ったけど……」

 まさかこんなことになるとはつゆにも思わなんだ。

「ほらやっぱり、さくらちゃんの仕業じゃない」

「違うよ? アイデア出したのは私だけど、途中からお兄さんも乗り気っていうかむしろ私よりノリノリっていうか」

「知らないよ! 最初からノってねえよ! 俺ずっと寝てたら勝手にこうなってたんだよ!」

「あれ、そうでしたっけ?」

 すっとぼける桜玖良。ここまで来るともう反撃する気も失せてくる。もう心も体(顔)も桜玖良のなすがままである(at the mercy of SAKURA)


「ほら、お兄さん可哀想だから、早く元に戻してあげて?」


 うわ優しい! さすがしほりん天使!


「なに言ってるの? せっかくのメイクがもったいない」


 お前ひでえな! 相対的に悪魔!


「こんなことばっかりしてたらさすがのお兄様だって怒るよ?」

「でもさぁしほちゃん、考えてもみてよ。地元の超美人大人気アイドルが地元の図書館で男と二人で勉強してたらファンが怒るよ騒ぎになるよ〇うつべが炎上するよ!」

「そんなに人気ないですっ」

「いいやしほちゃんわかってない。しほちゃんが歩くといつも道行く男子も女子もみんなしほちゃんの方振り返ってるんだよ?」

「私じゃないってー。さくらちゃんが可愛いからでしょ?」


 え……まjk


 すげえな。普通にするっとそういうセリフが出てくるんだな。しほりんみたいな美人が言うと絶対嫌味たらしくなるはずだが、全然そんな風に感じない。心底そう思ってる……のかな? まさか。さすがにそれはないだろう?


「そういうとこ天然よね、しほちゃん」

「天然じゃないですっ」

「でもマネージャーさんもいつも言ってるでしょ? できるだけ一人で出歩かないようにって。特に地元では誰が見てるかわからないから気を付けることって。仕事の時はいつもマネージャーさんが頑張って車で送り迎えしてくれるでしょ?」

「まあ、そうだけど……」

「だからね、今日だって図書館で二人で勉強してたらすぐファンが集まってきてすぐ騒ぎになるのよ。ましてやそれが男だったらすぐ噂になるわ。ファンの間で大騒ぎになるのよ!」

「そんな、考えすぎよさくらちゃん」

「いいや違うね。特に男子との関わりは気をつけなさいって言われてるでしょ? 不用意に男子と二人きりにならないようにとか」

「そんな……でもお兄様は高校生だし」

「わかってないなあさくらちゃんは。むしろそっちのほうがファンが騒ぎだすわよ」

「でも、お兄様は決してそんな人じゃないし……」

「このお兄さんがどんな人だろうと野獣だろうとヘタレだろうと関係ないのよ。周りが見てどう思うかってことよ。変な誤解を与えないようにってこと」



「そうかもしれないけど。でもお兄様だったら私別にいい……」



 ん?



 ん?



 ん、今何と言った?




 都合のいい空耳アワーが聞こえた気がしたのだが







 

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