第5章-4 こんなの絶対おかしぃょ……デース!

「お兄さん、起きてください」


 声がして気づいた。俺は眠ってしまっていたみたいだ。


「あ、ああ。寝てたのか俺」


 ふと顔を上げると、見たことない女の子がこっちを見ていた。え、誰? 家誰もいないって言ってたけど……妹とかいたのかなあ? こっちを向いてなにやら訝しげな顔。でもどっかで見たような顔。って、えっ嘘だろ?


「どうかしました? お兄さん?」


 俺は慌てて右手を上げる。その子も手を上げる。両手を上げるとその子も両手を上げる。よーくまじまじと見ると、俺の目の前にあるのは、洗面台の鏡だった。


「なんじゃごらあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


「結構可愛くできたでしょ? お兄さんにしては上等かと」

「いやいやいやいやないないないないでしょこれ!? なにしちゃってくれてやがんのおっぉっ!?」(〇会のCMのメガネ君ばりに手を横に動かそう)

「いやあかなり苦労したんですよ。こんなふうに自然に見せるのって」

「ていうか髪っ、なんで髪がこんな伸びてんの!?」

(きん・ぱつ! きん・ぱつ!)(ちなみに髪色はさすがに黒)

「ウィッグです」

「ピッグってなんだよ!? 豚かよ!?」

「だからウィッグ、着け髪のことです。簡単に言うとカツラです」

「俺まだ禿げてないよお!?」

 ちなみに禿げる予定も願望もないよお!? 親父もじいちゃんも禿げてねえよぉ!


「さっ、急がないとしほちゃん来ちゃいますから、早くそれ着てください?」


「それって、もしや……」


 えてしてこういう時嫌な予感は的中するものだ。

 そこに置かれてあったのは中学の制服……


 言わずもがな女子のね。


「ちなみにそれ私のローテーションの一着ですから、大事にしてくださいね。むやみに汚したら許しませんよ、クリーニングには出してましたけど、あろうことか匂いを嗅いだり……なんてことしたらマジで軽蔑しますからね?」 





「やっぱりいやだっ! 俺もう帰るぅ!」

「ここまで来て何言ってるんですかお兄さん」

「だってだって……はずいよはずかしくてうさぎちゃん死んじゃうよぉっ!」

「だからぁ、わけわからないこと言わないでください」

「訳がわからないよなのはこっちだよ! こんなのひどいよあんまりだよ!」

「大丈夫、結構似合ってますから。ぷふっ」

「おい、今笑っただろ、聞こえたぞ!」

「ごめんなさい。あまりにお兄さんの顔が可愛くて」

「こんなの絶対おかしいよぉ!」


 なぜこうなる前に気付けなかったのか……あたしってほんとバカ。


「お兄さん? これもしほちゃんのためと思って、ね?」

「それでなんで俺が女装する羽目になんのさ!?」

 すると桜玖良が俺の顔の前で指をちっちっちと動かし(ウザい)

「それはですね、お兄さん」

 まじうぜえから早く言えよ!

「よく考えてもみてください。地元じゃ有名人の超人気アイドルのしほりんですよ? 図書館で一人で勉強なんかしてたら、すぐに悪い虫がよってたかって来るにきまってるじゃないですか! それを防ぐために監視役が必要なんです。まあある意味マネージャー的なお仕事です。結構光栄なことですよ、お兄さん?」


 そうだよな。独りぼっちは……寂しいもんな……いいよ。一緒にいてやるよ


「それでそれでなんで女装の必要あんの!?」 

「ところがですね、ここで問題がありまして、ここでしほちゃんと一緒にいる人が”男”だった場合ですね、そのファンの皆さまたちを無駄に刺激しちゃうことになるんですね? 「一体あの男は誰だ!?」 とか、「俺のしほりんに近づくな!」とか、ね。そうなると悪い虫共が騒ぎだすんです。無駄に追っかけまわしたり無駄な告白をしてきたり、って感じでね。逆にしほちゃんに男の影がないと、みんな安心するというか。ファンのみんなで見守ろうというか、抜け駆け禁止! 的なところがあるんですよ。だ・か・ら……」


「まさか、しほりんと一緒に勉強してるのが、「女」なら、問題ないと……?」


「さっすがぁお兄さん話がわっかるぅ! これにて一件落着問題ナッシングですね!」

「落着なんかしてねえよっ!? 問題なんか♪何もなイョ……ありまくりダヨ!」

「問題ないですよ。だって声出さなきゃ絶対ばれませんよ。あ、あと注意してほしいのはそのままで男子トイレにはいかないでくださいね?」

「行くよ普通に! 男子の方に!」

 女子トイレなんて絶対に入れないデース!!

「それ大騒ぎになりますから。勇気を出してください」

「いやいや勇気だすとこなんか間違ってるから!」

「どうせ中は個室ですから心配ないですよ」

「だめだろ! ばれたらあとが怖いわ!」

 それにいろいろな意味で自分のマイアイデンティティ~♪を失いそうで怖いわ!

「ちゃんと隠し通さないとしほちゃんに迷惑かけちゃうことになりますよ?」

「お前は鬼か! 鬼畜か!? 鬼畜こけしかっ!!」


「しほちゃんのためなら何だってしますよ」

 

 しほりんの為なら、お前は永遠の女装癖に閉じ込められても、構わない……ってか?


「ぐぬぬ……」

 俺の痛いところをこうも的確に楊枝でつついてくる。さーらのバカー

「じゃ、よろしくでーす」

「ちょっと待て! しほりんはこのこと知ってるのか?」

「このことってどのことです?」

「言わんでもわかるだろ」

「ナンノコトカワカラナーイ」

「殴るぞてめえ」

「きゃあ怖い。しほちゃん助けてー」

「真面目に答えろよ?」

「知りませんよ普通に。だって言ってないもん」

「まじかよ……」

「ちょっとびっくりした顔が見たいなと思って」

「ほんとにきちこけだな」

「そんな言い方ひどいですぅ……ぷふっ」

「てめえ本当にいい加減に……」


「さくらちゃん?」


 声がして振り向いた。そこにいたのは、本当は一番会いたいけど、今この瞬間だけは一番会いたくない相手だった。


 ……もう何も怖くない。






第5章-4 「こんなの絶対おかしぃょ……デース」改め


「私と契約して女装少女になってよ!」 完








 今回は「まど〇ギ」と「きん〇ザ」ネタを至る所に散りばめてみました。この2つのアニメ共通点なさそうですが、実は意外なある共通点があるのです。(多分誰もわからんw 私の人生を変えたあるイベントに関係しています)さて何でしょう?(答えは来週!)

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