第5章‐3 突撃! アイドルお宅訪問!

 図書館から引っ張られるように連行されて少し歩くと、


「はい、到着でーす」

 

 閑静な住宅街を少し抜けた田んぼの間にその家は立っていた。


「さあお兄さん上がってください」

「えっ、えーっと……お邪魔します」

「あ、荷物はその辺にいといてください」

「お、おお……」

「そんな緊張しなくて大丈夫ですよ。両親とも仕事でいないので」

「ほへ?」

「だから適当にくつろいでくれていいですよ」

「いやいや、そ、そんなの関係ねぇよ? 緊張してないよ?」

 小島よ〇おかよ!?

「すっごく挙動不審に見えますけど?」

「え、マジ?」

「はい。まじのマジです」


 くっ……反論したいが、実際心拍数がやばい気がする。なんで俺には異性の自宅耐性という固有スキルが備わってないのだろう。

 落ち着け落ち着け俺。奴だぞ、あの脛蹴り生意気野郎だぞ。あの暴れん坊将軍こと亜希乃の幼なじみで同級生で同じく暴れん坊将軍だぞ。まだ中3だぞ。俺より2つも年下だぞ。ガキ中のガキだぞ。しほりんならともかくとして、こんなヤツに緊張する要素なんてどこにもない……ない……ない……


 いや、ありますよ。


 だって顔可愛いんだもん。あれでも美少女系アイドル研究生なんだもん。そんな娘が何を血迷ったか誰もいない自宅に招待してくれてんだもん? 一体何が起こってんだもん?


「お前こそいいのかよ?」

 

 なんとなくいい匂いがする(錯覚)廊下を歩きながら、俺は無駄に白い壁に視線を彷徨わせながら尋ねてみた。

「何がですか?」

「誰もいない家によその男あげて……慣れてる感じだな」


「別に、慣れてはないですよ」


「え?」


「この家にあがった親戚以外の男の人ってお兄さんが初めてですから」


「ほへっ!?」


 一瞬言葉に詰まる。それは本当なのか? 本当なら、俺が最初でいいのか? って気がしてくる。ていうかその気しかしてこない。でも、送り狼だとか変なことしないでくださいとかその他諸々いつも言ってくるくせに、お家ご招待イベなんて……実は俺、結構信頼されてる?……んじゃなかろうか? まあ亜季乃の兄貴だし、安心してくれてるのかもしれない。いや、ただ単に俺にそんな度胸なんてないと本気で思われてるのかもしれない。うん、残念ながら後者(latter)の方の線が濃厚である。


「絶対に変なことしないでくださいね?」


 案の定である。いつもの定型句が飛んではきたが、いつもほど語気は強くはない気がする。


「……へい」


 とりあえずいつものように返そうとしたが、我ながら歯切れが悪い。


「ここに座ってください」


 桜玖良にそう言って座らされたのは洗面所の鏡の前だった。

「お、おい。いったい何すんだよ?」

「じっとしててください、お兄さん。悪いようにはしませんから」

 一体どうしたんだろう、そう思ってると、上から何かをかぶせられた。それは、うん、散髪用のネットであった。

「まさか髪切るの!?」

「うん」

 え……本気? なんでよ? まさか……今のままじゃしほりんとつり合わないからって、俺をイケメンにでもしてくれるの? そうすればしほりんと放課後図書館デートしててもなんの遜色もない、誰もがうらやむお似合いの美男美女として堂々と胸を張っていられるぞ! これは……勝ったな、ガハハ! コイツにしては珍しく気が利くなあ。まあどうせ動機は、俺のイケてない見た目のせいで一緒にいるしほりんが恥をかかないようにってことなんだろうけど。それでも十分だ、俺はそう思った。


「はい、じゃあじっとしててくださいね?」


 ちょっと(いやかなり)生意気な女の子(すぐ罵倒してくるし蹴ってくるし……)だけど、妹の幼馴染で、理想のアイドルしほりんの親友で、そして本人も結構可愛いアイドル研究生……そして実はとっても心優しいいい子なのかもしれない。

 




 














 そう思ってた時期が俺にもありました

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