第4章-13 いいえ、さらたんの列です。
だだっ広いロビーには一列に机が並べられ、その向こう側にアイドルの子たちがずらっと並んでいる。ファンたちはお目当ての子の前に長い列を成している。列の長さはまちまちで、今俺が並んでいるしほりん列は、うん、結構長い方である。しかし端っこの方の2列はそれよりもまだ長い、妹曰くセンターの超人気の二人、ミキしゃまと、もう一人は名前忘れたけど、まあすごい人気である。そして列がなくなったメンバーは引っ込んで奥へと消えていき、また別のメンバーが並んで、そこにファンが列をなし……という感じ。なかなか進まないしほりん列に並んでいるとその光景はなんとなく目に入っていたのだが、扉が開いてまた別のメンバーが入ってきて
奴がいた。
「luna misa rena入りまーす、そして研究生も入りまーす」
先輩方?のあとに続いて出てきたのは、うん、確かに奴だった。そのまま並んでいる机の方に歩いてくる。机の一番出口に近い方で、最後にステージで歌っていたときの白い衣装のままでちょこんと立つと、他のメンバーと揃って一つお辞儀をした。いつものうるさい印象とは違ってぱっと見清楚系な雰囲気を醸し出している。
スタッフの声とともにうしろにいた客共が動き出す。
「今入ってきた第3組メンバーとの握手を希望する方は、当日優先の白券をご用意くださいー、前後の方は確認し合って整理番号順に列形成お願いしまーす。個別握手券など共通握手券をお持ちの方はその後ろにー」
新しく立った彼女たちの前に一気に列が形成されていく。軍隊かよ! って突っ込みたくなるような洗練された(sophistcated or polished)動きであった。やべえなこいつら!
おっとちょっと目を離した隙に列が少し進んだ。前にはまだ30人くらい?が並んでいる。しほりんの笑顔がちらちらと見える距離になってきた。握手して去っていくファンに向かって笑顔で手を振るしほりん(最強に可愛い)の顔がこっちからもよくわかるような距離になってきて、ワンチャンしほりんがちらっとこっちを見たような気さえしてしまう。(調子に乗んな俺!)
しほりんとの遭遇まであと15人位!というところまで来て、おれはふと驚愕の事実に気づいてしまった。
奴の前の列が……
いや、なくね?
そう、奴の前に誰も並んでいないのだ。というか、奴が誰かと握手してるところを見ていない。
まさか……誰とも握手していない?
そんな馬鹿な!
握手しに出てきて、誰とも握手せずに引っ込む……それは空しすぎるだろ! そんな恐ろしいことがあっていいのだろうか、いや、ない(反語)
奴のすぐ横の子の前にはそこそこの列があって、楽しそうに握手して談笑して去り際に手を振って、そしてまた次のファンが……その向こう側で、奴は少し顔を、目線を下に向けたまま、ただ立っているだけだった。その姿は何というか得も言われぬ哀愁というか、普段の奴の明るさ?を知っている者としては、少しショッキングな光景だった。
おい、誰か並んでやれよ!
俺は心の中でツッコんだ。ロビーの後ろの方を見るとファンたちがたむろしたり喋っていたりスマホいじってたり……もうお目当ての子とは握手し終わったのだろうか、それとも出番を待っているのだろうか? 彼らが動く気配はなかった。
おおい皆さん! さらたんは可愛いよ(顔は)! ちょっと性格と言葉遣いに難はあるけど、見た目は綺麗系で可愛いよ(見た目は)!ちょっとした言動ですぐキレて脛蹴ってきて結構痛いけど、たぶん今日はそれしないよ(机越しだから物理的にもそんな心配いらないヨ)! あれ、なんか顔以外最悪じゃね?www
マジかよ……
誰も行かないのか?
奴が手を顔にやって目を軽く拭うような仕草を見せた。え、まさか、泣いてたりしないよな……
この距離じゃそこまでは見えない。こ、こうなったら……
俺が、並んでやる
ってこともあるのか? え、でもしほりん列待ち続けてやっとここまで進んで……
しほりんとの邂逅まであと10人にまで迫ってきていた。
それに俺が並んだところでたった一人……そんなんじゃ(でもそんなーんじゃ♪)焼け石に水である。あとは途中で列抜けて並ぶ……のはアリなのか? だったらしほりんと握手して、そのあとで奴の列に並べば……でも、掌をひらいてみる。券は一枚しかないのだ。ここまで待って、しほりんと握手せずに……ってのは、嫌である。
そして仮に並んだところでどうなる?
「ちょっと、何でアンタが来てんのよ!?」
「いや……それは……」
「まさかアタシと握手したかった……の?」
「え、えっと……」
「妹の友達の手、触りたいとかマジでキモイあり得ないんですけどっ!」
ですよねーーーーーーーーーーーーー!!!!
うん、ないわ、ないわああ、我ながらこれはないわああああ。下手したらそのあとスタッフに連行される未来まである。奴の境遇に同情してあわや大恥かいて大惨事というところであった。あぶないあぶないセーーーフ。奴には悪いが、俺が余計な気を回す必要はない、ないはず
「第3組間もなく終了しまーす。お並びの方はもういませんかーっ」
えっ……
俺は行かんぞっ! 早く誰かっ、誰かああああっ
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