第4章-12 これはしほりんの列ですか?
「兄貴っほんっとゴメン!」
亜希乃がこっちに両手を合わせて拝むような恰好。
「いや別に」
「兄貴の握手会デビューだってのに」
「そんな大層なもんでもないだろ?」
「いやいや。兄貴が初握手会でしほりん相手にしどろもどろってるところをすぐ後ろで見れないのが本当残念」
「……お前のその思考が残念だよ」
ってか俺がしほりんの列に並ぶのはもう決定事項なの? まあ否定しないけど。だってしほりん可愛いんだもん。
なぜこうなったのか、かいつまんで事の次第を説明すると、
妹曰く、
「敢不並乎」(あへてならばざらんや)
(口語訳: どうしてミキしゃまの列に並ばないだろうか。いや並ぶ)(反語)
(ちなみに「乎」の字は疑問の時は「か」とよむ。反語と疑問は文脈判断するように!)(まあ今日はさすがにミキしゃまにお礼を言いたいのでミキしゃまの列に並ぶ、いや並ばないでいられるだろうか、いや並ばざるを得ない。といった感じ)まあアンコールを自分のために歌ってくれたという妹の見方は正直自意識過剰ではないかと思いもするのだが、まあ気持ちがわからないでもない。
「じゃあ私こっちだから。兄貴は3つ向こうの列ね」
「ほいほい」
亜希乃に言われた通りの列に向かう。考えてみれば、この現場にはいつも亜希乃と一緒にいたので、単独行動するのは初めてと言って過言ではなかった。(It's not too much to say) まあ不安と言えばそうかもしれない。とりあえずshihoと書かれた札の列に並ぶ。前にはもう完全にしほりんユニットのTシャツ・タオルなどで武装してある猛者共……うん気後れしそう。やっぱ俺、場違いのとこに来てるんじゃないか?
「お手元に白い握手券をご用意くださーい。こちらは今日のライブチケット特典である優先共通握手券になりまーす。こちらをお持ちの方から順に列形成になりますー。この優先券分が終了しましたら、赤色の個別握手券などが利用できるようになりますー」
スタッフらしき人の声がフロアに響く。正直何言ってるのかよくわからんのだが、事前に亜希乃に受けた説明によると、今日はチケットについてくる特典の白い握手券が強いらしい。(こっちは券面に何も書かれておらず、誰とでも握手できるらしい。ので好きなメンバーの列に並んでその券を出せばいいとのこと)その分の握手が終わり次第、CDとかについてくる個別握手券(こっちはあらかじめ名前が記載されていて、そのメンバーとしか握手できない)で握手するんだとか。まあよくわからん。
俺は掌に握りしめていた、さっき亜希乃から渡された白い握手券を開いてみる。
やばい……ドキドキしてきた。
だって、だって、しほりんだよ?
あの超絶美少女神対応のしほりんだよ?
普段だってめっちゃおしとやかで、俺なんかにもにこやかに話しかけてきてくれて、もう顔よし歌よし性格よしで非の打ちどころのない、妹の友達のJCアイドル。うん、緊張しないことがあろうか、いや、しないわけがない。緊張する!(反語)
「お兄様っ、来てくれたんですねっ! ありがとうございますっ」
「いや、そんな大したことじゃないよ……」
「今日のライブどうでした?」
「うん、さ、最高でした……」
「お兄様に見てもらえてうれしいですっ!」
「そんな俺なんかに見られたって……」
「何言ってるんです? お兄様に一番見てほしかったに決まってるじゃないですか!」
「し、しほりん……」
「あ、もう時間になっちゃう……ととりあえず、あ、握手しません……?」
「あ、そそうだね……」
「結構一緒にいた気がしますけど……なんか改まって握手するなんて、ちょっぴり緊張しちゃいますね」
「そ、そうだよね……」
「えへへ……」
「し、しほりんは嫌じゃない? こんな奴と握手なんて……俺別に握手しなくても大丈……」
「お兄様? 私は、今一番、お、お兄様と握手がしたいです……」
そう言って目線をそらすしほりん。え。ちょっと可愛すぎてやばいんですけど。でもこれがしほりんに触れちゃう初めてになっちゃうのでは……いいのか、捕まったりしないよな?
「おにいさま……」
上目遣いでこっちを見てくるしほりんのその可愛さに俺のライフはもうゼ
「すみません、列進んでますよ?」
後ろから声がして、はっと我に返る。俺が並んでいた前の人が結構前に進んでて大きなスペースができていた。
「す、すみませんっ」
慌てて前に進む。どうも俺は妄想の中にいたようだ。我ながらキモイでござるよ……(太洋風に)
ただそんな恥ずか失態を繰り広げながらも、心はぴょんぴょん。妄想現実
どーっちー♪? の区別ができていない。(どーっちでもいいんじゃないかーなー♪?(そっかー))(そっかーではない)
っべ、めっちゃ楽しみ。
少しずつしほりん列が進み、遠目ながらしほりんのお顔が見えるようになってきた。相変わらずの笑顔、慈悲あふれるお姿、尊い……。早く列よ進め! 気分的に、最初に並んだ列の半分くらい減ったかな? と思った時だった、俺の目にふとある光景が飛び込んできた。
え?
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