第4章-10 アンコール

 奴だった。


 うん、遠目に見てもわかる。会うたびにロクに挨拶もせず、人のことを罵りまくり、机の下ではこっそり俺の脛を蹴りまくってくる迷惑JCの顔である。間違いない。

 なんかよくわからんけど、この前と違って白くてフリフリの衣装だった。そう言えば今回のテーマはシンデレラとか言ってたな。その割にはスカートがくっそ短くてシンデレラのドレスというよりは周りをちょろちょろしてる小人? 的な印象なんだが。おっとそっちは白雪姫のほうだったわ(原題 Snow White そういや白雪姫ってホントは結構怖いらしいな……グリム兄弟の初版では継母が実母だったり、絞め殺されたり、毒塗った櫛で刺されたり、毒リンゴ食べて死んでしまって、その死体を王子が死体がいいからと言って持ち帰ったり、小人が躓いた拍子に毒林檎を吐き出してたまたま生き返ったり、なぜかそのまま結婚したり、結婚式にやってきた母親を熱した鉄の靴を履かせて死ぬまで躍らせたり……みたいな)

 もしうさ耳がついてたら森のウサギって感じの、そんなふわふわな格好でくるくる回ってぴょんぴょん踊ってステージ上を駆け回っている。


「saraちゃ~~~~んっ!」


 亜希乃が叫ぶ。


「ほら、兄貴もっ」


 いや、そう言われても……


「ほら早く! さらちゃああああああああああああん」

「サラチャーーン(小声)」


 ドスッ 脇腹に肘打ちを食らう。 


「ふざけてんの、真剣にっ!」

「……さらちゃーーーーーーーん」


「もっと腹から声! ナニ? まさか兄貴さくらちゃん相手に照れてんの?」

「はっ? な何言ってっ」

「じゃあ、しほりーーーんって叫んでたのと同じくらい声出・し・てっ?」


 うっ


 痛いところを突かれた。(物理的かつ精神的に)


 マジか……


 もうええわ!


「さらちゃああああああんっ!」

「いいねー兄貴っ! さらちゃあああああああああああああんっ」


 俺は腹から声を出した。うん、ステージから離れてるし、どうせ亜希乃にしかばれないんだ。もう当たって砕けろだっ(Take a Chance!)


「さらちゃああああああああああああんっ!」


 あ、なんか気持ちよくなってきたかもw


 ステージ上に何人もが動き回り、最後のサビで大きく会場も盛り上がる。ピンク色の、別の子用の限定ペンライトを一生懸命振りながら、果たして奴も限定ペンライトが出る日が来るのだろうか……そしたらどうせライトの色はピンクになるんだろ? じゃあそいつと被っちゃうんじゃ……いや、サーモンピンクのま・〇・な! 的な感じに○○ピンクになるんだろうか? コーラルピンクとか、チェリーピンクとかキンブレにフィルム挟まなくちゃ表現できない微妙な色になりそうw(そう言えば最近マイナポイントとかよくCMやってるけど、えり〇よが聞いたらマジ発狂してお店で舞奈ポイント全部ください的な感じでやばいんじゃねって思ってたら、え〇ぴよ声優のファイル―〇あいさんが先日のオンラインイベントでガチでそんな感じの話しててびっくり、テンション上がっててマジ草だったw)そんなことを考えているうちに、最後のサビが終わった。最後に奴が可愛くポーズを決める。うん、いつもの姿が嘘のような可愛らしい笑顔、うん本当に同一人物なのか? 双子の片方じゃねって気さえしてくるぞ。いや、むしろお前双子だろ、いつもいつも腹立つようなことばっかりしやがってっ、ちっくしょーーー


「さらああああああああああああああああああっ!!!」

 

 わあああっと湧く歓声に紛れて俺は今日イチの声で叫んでやった。


「ねえ、今さくらちゃんこっち見てたよ、気づいたくない?」

「んなのしるがぁああああああああああああっ」



 あのあと全員で最後の曲やって大歓声とともに幕は上がった。奴が出てたのはどうも最後の2曲だけだったが、妹曰く「研究生はそんなもの」なんだとか……まあ俺には特に関係ないし。



「ってさあ……っまだなんかあんの?」

「あんこうるっ! あんこうるっ!」

「なあ?」

「ナニ? 兄貴も叫んで! あんこうるっ!」


 どうやらまだ何かあるようだ。まあいいけど、ここまで来たら「乗り掛かった舟」である。何分かずっと俺たちは叫び続けた。そしてステージがスポットライトに照らされる。大きな歓声とざわめき、そして静寂……

 


 一筋の光の中に立っている二人。



 静かなメロディが流れ始め、でも彼女たちはまだ動かない。そして観客も誰一人声を発さない。


 え、なに? どうなってんの?


 なぁ亜希……?


 妹の横顔。その頬を一筋の涙が伝っていた。


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