第4章-9 2ndLive 奏でる森のシンデレラ(後半

 違和感の正体にはすぐに気づいた。観客たちは夢中になって盛り上がり一見何の問題もないようである。しかし前回とは大きな違いがあった。


 ヤツがいない。


 ステージ上で踊っている3人、しほりん以外のその他2人に見覚えがなかった。遠目だから髪型とかのせいでわからないのかとも思ってみたが、よっぱりそうではないらしい。

 隣の亜希乃を見ても満面の笑みで大はしゃぎ。まさか誰も気づいていないのか?  

 そんなわけあるかい。

 

「ん、兄貴どったの?」


 訝しげに妹の横顔を見ていたからだろう。気づかれた。

「なあ、アイツがいないんだけど?」

「さくらちゃんのこと? そりゃそうでしょ」

「え、なんでだよ」

「だって今日はみんな揃ってるし」

「みんな?」

「前の時はmitzの代役で出てただけだから。今日はmitzいるもん」


 ステージ上ではメンバーのトークが続いていた。


「こんにちはぁーみんなひっさしぶりーのmitzでーっす! みんなぁ元気してたぁ~~~?」

 わあああああああああああああああああ


 さくらたんよりはちょっと小柄の「みつ」?という子が一歩前に出て手を振っている。そう言えばヤツはあん時、研究生で代役だとか言ってたわ。それが証拠に何の補足説明とかもなく、流れるようにトークが続いていく。


「ね? これが普通なの」


 そう言って亜希乃はまた前を向き声援をあげている。他の奴らもそうだった。また歌が始まってみんな飛んだり跳ねたり叫んだり楽しそうだ。もちろん俺もみんなと同じようにペンライトを振って声を出しているんだけど……


 そのあとのしほりんユニットのパートは……なんだろう、楽しかった。しほりんもめっちゃ可愛いかったし、あとの2人だって普通に可愛い。ライト振ってコールしてジャンプして、とても楽しい時間だった。



「兄貴、大丈夫?」

「……ああ。ちょっと疲れただけ」


 前回のライブ時より全然混んで無い(not crowded)から足も踏まれないし、ぎゅうぎゅう詰めの中を肘で人波をかき分けて進んだり(elbow my way through a crowd)しなくていいし、隣の人の肘打ちくらったりもしないし、何より前回時より知ってる曲が増えたからすんごく楽しいはずなんだ。うん、長時間待たされて、ずっと立たされて、そして必要以上にはしゃいでしまったからだろう。そりゃ疲れるよ。やっぱり慣れないことはするもんじゃないな。

 途中で退場とかってできんのかな……ユニットとユニットの間とかでいいから、ちょっと外の空気が吸いたい。


「なあ、亜希乃?」


 そう尋ねようとした時だった。大きな音がして、ステージが照らされる。そして大勢の子たちが飛び出してきた。湧き上がる歓声。

「あっ。きたきたキター!!!」

 亜希乃が素っ頓狂な声をあげて俺の腕にタックルしてくる。

「え、何……?」

「はい、これ」

 そう言って亜希乃に手渡されたのは、ペンライト。

「え、もう持って……」

「兄貴にゆずったげるから、ちゃんと振んなさいよ」

 これって、さっき並んで買ったばかりの限定ペンライトだよな?

「保存用じゃなかったのか?」

「いいの! この時のために買ったんだから」

 とりあえずボタンを入れてみる。光った、その色は、鮮やかなピンク。

「本当はそれ、センターのhiroの限定なんだけど……」

 俺はハッとして顔を上げる。亜希乃が指さす先にいたのは……


「やっぱさくらちゃんはこの色だよねっ!」


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