第4章-7 最近、妹(俺)のようすがちょっとおかしいんだが。

 色々すったもんだの挙句の果てに、俺たちはスタバにはたどり着けなかった。まあ仕方がないことだろう。


 そして、もう俺のライフはゼロになりつつあった。


「ちょっと兄貴! 急いでこっち」


 だのに亜希乃が呼んでいる。なぜあんなに元気なんだろう。さっきまで大泣きしてたはずなのに、変わり身の早さというかもうホント忙しい奴だ。♪亜希乃はーどうしよっかな~? 妹ー推しのアイドル~追っかけ―てー 泣いたり~笑ったり~♪


「そんな急がんでも席決まってんじゃねえの?」

「決まってないしっ、スタンディングなんだから。ちゃんとその番号代で入場しなかったら損でしょ?」

 あれ? 今日はもう番号後とか言ってなかったっけ?

「整理番号遅いなりになるだけ前に行かないと! これ以上後ろになったら目も当てられんわ!」

「はあ……そんなもんですか」

「そんなもん! あっ、セーフセーフ。まだ列進んでない」

 じゃあ走らんでよかったやん……

 その後また結構立たされて、じわじわ進んでは止まっての繰り返し。もう嫌ぁ。なんで一日に二度も列に並ばなあかんのや。結局俺らの入場の番が来たのはさらに30分以上は後だった。スタバ行けたやん!

 ゲートでチケットを見せて通過するなり、俺のバッグの紐を掴んで走り出す妹。

「兄貴、急いでっ」

「おいっ、走っちゃダメって言われてなかったか?」

「迷惑かけない程度に早歩いてっ!」



「チケット確認しまーす こちら400番~600番のエリアですー 半券をお見せください―」



 ロビー?の先でまたチケット見せられる羽目になった。そしてそこを通過して中に入る、と……熱気がムッと迫ってきた。

「う……」

 人・人・人の群れ。思わず足を進めるのを躊躇してしまいそうになる。しかし亜希乃は止まらない、必然的に俺の紐が引っ張られる。

「ぐえっ」

「ちょっ、兄貴、早く! 真ん中まで行くよ」

「え~?」


人の群れの間を縫って引っ張られていく俺。もう嫌ぁぁ


「よし、もうここでいいわ」

 俺のバッグの紐はようやく解放された。

「はぁ……なんでまたこんな目に……」

 何言ってんの? って顔の亜希乃。

「もっとしっかりしてほしいなあ」

「お前が元気過ぎんだよ。よくもこんな人混みの中割って入れるよな」

 俺は正直人混みがあまり得意ではない、いやむしろ苦手。いや苦行でしかない。ひたすら自宅警備にいそしんでいたいのだが。

「う~ん? 今日とか全然だよ? だってちゃんとエリア分けされちゃってるもん」

「エリア?」

「番号代で入れるエリアが決まってんの。これで遮られちゃってんじゃん? だから前に行きたくても行けないぐぬぬ……」

 亜希乃のいう通り、目の前にプラスチック系の透明な板が手すり?の下に貼ってあって前に行けなくなっている。なるほど、これで前方に人が押し寄せるのを防いでいるのか。

「確かに、前より寿司詰まってないな。へぇ~いいシステムじゃん」

 前回のライブの時はひどかった。本当に前後左右全て人が密着しているようなやばい状態だった。それに比べたら今の状態はザ・快適! って感じだった。

「それは番号がいい時の話」

 亜希乃にジロリと睨まれた。はい、すみません……


「まあでもチカンとか考えたらこの方がいいかもね。足が踏まれたりも減るし」

「なっ、痴漢だと!」

「ああ兄貴心配乙、私じゃないから。知り合いとかね、やっぱりそういう話聞くから」

「ほ本当か……?」

「でもぎゅうぎゅうだとどうしてもお尻とか他の人と当たるから、当たっただけなのか触られてんのかわかんないときもあるけどね」


 なん……だと……?


「亜希乃、お前はこれからライブハウス出禁だ!」

「はぁ~さすが心配性の兄貴だなあ。大丈夫大丈夫ちょっと当たったくらい減るもんじゃないし」

「減るだろ! お兄ちゃんは許しませんよ!」

「はいはいわかったわかった。だから不本意ながらこうして兄貴連れてきてんじゃん。ボディーガード要因で」

「あ、そうか……あ?」


「護ってね? 兄貴♡」


「……」


 うん、何も言えねえ。





 それからも大分待った。立たされたまま。正直疲れた。しかしそれ以上におかしな感覚があった。これから起こる何かが待ち遠しくて仕方ない。(look forward to 名詞(~ing) toのあとは動詞が来ることも多いのだが、この場合は~を楽しみに待っている、心待ちにしているという感じなのでto以下は名詞 つまり動詞が来る場合はingをつけて名詞形にしなくてはならないのだが、案外ミスるので注意が必要。


 〇I'm looking forward to seeing her. (彼女に会うのが待ち遠しい)といった感じ(×I'm looking forward to see her.としないように! 定期テストでやらかしますよ!?))あとは、今楽しみに待っているという「状態」が多いので、現在進行形のことが多い印象、I look forwatd toよりI'm looking forward toが多い感じ。だから1文にingが2つも入るかもしれんけど騙されないように、それで合ってるよ!


 前回の帰りたくて仕方がなかったのが嘘のようだ。今からステージにしほりんが現れる。早く会いたい、しほりんが見たい。あ、あとアイツもか。なんて不思議な感情だろう。なんて絶対笑われるから言えない、けど、早くその瞬間が来てほしいんだ。太洋の言う通りだ。俺、ちょっと変だ。最近、妹(むしろ俺)のようすがちょっとおかしいんだが。Recently, my sister is unusual. No! rather I am, too.

 

 ライトが落ちる。観客のざわめきが一瞬にしてどよめきに変わる。そして訪れる刹那の静寂。音楽が静かに流れ出し、光の波が揺れながらステージの上を照らしていく。たなびく薄いカーテンの向こうにシルエットが現れ、歓声が沸き上がる。その歓声を割って凛々しい綺麗な声が響いた。



 「シンデレラの夢へようこそ あなたに魔法をかけてあげる」
















(BINKAN♡)あてんしょん・プリーズ


 



 

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