第4章-6 俺の妹と妹の推しドルが修羅場過ぎる

「えっ……」


 凍り付いた空気。あの亜希乃が言葉に詰まった。あのハイテンション亜希乃が、である。これは緊急事態(Emergency~~~~Two! デ〇レンジャー~~♪)さすがの俺ですら、この空気はやばそうだということはわかる。


「い、いや……なん、で……」


「そんなのかんたーん。だってTシャツ見ればイッパツじゃーん」


 そう言ってミキ様が亜希乃のTシャツを指す。


「こ、これは……」


「そうよねーだって~Chocolat Lips 大人気ユニットーだもんね~~うんうん、わかるわ~~~みんなきゃわいいもんね~~」


 そうだ。俺にはよくわからないが、妹が着ているのはしほりんのユニットのライブTシャツだったはず。ミキ様の名前もちょくちょく聞いてた気もするが、まあ「しっほりーん」っていつものたまってるから、やはり妹はしほりん推しということになるのだろう。


「とっくに~センターのしほりんが~マジ最強にきゃわわわ~~~ってカンジぃー、もう大人気だしね~下手したら一期生のアタシ達を~差し置いて~もぉ~一番人気ってカンジかなぁ~???」


「……」


「あっれ~? やっぱそうなのかにゃ~? カマかけてみたけどぉ、ホントにしほりん推しなんだ~~~? まあわっかるわぁ~超絶きゃわわわわwだっしーね」


「いえ……そんな……」


「いいっていいって~~~二推しでも三推しでも箱推しでもDDでも~」


「ちょっとmiki先輩、もうそれ位に……」


 さすがの状況にさくらたんが口をはさもうとする、その時だった。


「私……miki様のこと大好きなんです……」


 亜希乃が小さな、けれどはっきりと聞こえる声で、そう言った。


「ありがとぉ~でもごめんね~なんか言わせちゃってる感あるよね~きゃははは、ごめんね、もう無理しなくていいからっ」


「そんなことないですっ! ほんtっとうに、miki様が大好きなんです!」


 今度は本当にはっきり聞こえる大声だった。


「ちょっと亜希乃……周りにバレたら……」


 さくらたんの制止も聞かず、亜希乃はまっすぐミキ様の目を見つめる。


「たしかにっ! アイドルを好きになったきっかけはしほりんデスっ! しほりん推しですしほりん超大好きですっだってめちゃ可愛いんですもんっ! でもっ、しほりんと同じくらいいやそれ以上にmiki先輩のことも大好きなんですっ!もうめっちゃ可愛いしダンス上手いしキレッキレだし歌もめちゃうまいしハスキーボイスが最っ高だし笑顔が可愛いしそれでいてトークも超面白いしっっ! あとスタイルも最高脚とか超長くてすらっとしてて! もちろんkz-girlsも大好きですっ!もうみんなみんな最高にカッコかわいくてっ! 今日は着てないけどTシャツだってタオルだって持ってますしっ大ファンなんですっ! っていうかそもそもmiki様をはじめてライブで見たときに、2年前のビリジアンホールの時ですけどっ、あのhiroと二人で背中合わせで一つのマイク伝説生で見てもうすごいっていうかこうバーンと雷に打たれたみたいなって感じでっ! 前から一期生の主要メンバーは可愛いしスゴイらしいってのは知ってたんですけどもう生で見たら全然違うっていうかもう想像とは全然違う感じでっ可愛くてカッコ良くてっもう激ハマりでっ!そっからずっとmiki様のことずーっと追っかけてます応援してるんですっ!それからそれからっ……」


「……」


 亜希乃のあまりの剣幕に一同は沈黙してしまって動けなくなった。そして400字はゆうに超えただろう堺〇人も顔負け長尺セリフはまだまだ止まる気配を知らない。それを遮ったのは優しい声色で、


「ありがとう、もういいよ。あきのちゃん」


「え?」


「そこまで言われたら……ちょっと照れるなぁ」


 そう言ってmiki様は本当に恥ずかしそうにうつむきながら、


「ごめんねあきのちゃん、ちょっと意地悪し過ぎちゃった。本当に怒ってるとかじゃないから安心してね」


「え、ほ、ほんとぉ……?」


「うんうんマジで本当。ごめんね。ちょっとからかうだけのつもりだったんだけど調子に乗っちゃって、あとなんか悪役的な気分が乗ってきちゃってとまらなくなっちゃった」


「そ……う、なの?」


「本当にごめんなさい。でも、私のことこんなに好きって言ってもらえて実はめっちゃうれしいんだ今。なかなかここまで熱烈に面と向かって言われることあんまりないから、特にこんな可愛い女の子に言われたらなおさら……ね。ごめんね、そしてありがとう。あきのちゃん♡」


「みきしゃまああああああああああああ」


 ヤバイ。妹が号泣しだした。真昼間の商店街のど真ん中で。


「あー、あー泣かないで。ごめんねびっくりさせたよね……」


 そう言ってハンカチ?を取り出したミキ様が泣きじゃくる亜希乃の涙を拭う。感動的ないい光景……なのか? これって完全にマッチポンプ(自らつけた火を自分で消す)ではなかろうか……イイハナシダナー


「ちょっとアナタ達どうしたの?」


 遠くから走ってくる女の人。


「げっ、ゆーこちゃんに怒られるっ!」


「ミキ先輩、ここは私たちが時間稼ぎしますから早く行ってください!」


 サキちゃんとさくらたんが慌てだす。


「え、でも……」


 亜希乃の方を見やるミキ様。


「mikiしゃま、ここは私たちに任せて行ってくだしゃい。私はもうダイジョウブでずがらぁ」


 ぐじゃぐじゃな身内でも見れたもんじゃない泣き顔に彼女は優しく微笑みかけて、


「わかった。またすぐ後でね」


 そう言ってミキ様は自然な動きで通行人を装いながら人混みに紛れると、そのままライブ会場の方へと消えていった。


「どうしたのよ、何かトラブル? えっ、この子めっちゃ泣いてるじゃない⁉ 何したのよ!」


「いえ、違うんです……本物のsaraたんに会えてうれしくて、つい涙が……」


「え? そ、そうなの?」


「……」


「え、えーと、なんかうちらの大ファンらしいですよ、この子」


「ふぅーん、ならいいけれど……でもまだ研究生なのに、saraも人気出てきたのねえ、よかったじゃない!」


「え、ええ……おかげ様で」


 引きつった笑みを浮かべるさくらたん。やべえその顔めっちゃ受けるw その刹那、ギロっとこっちを睨まれた。やべぇ心の中読まれた? エスパー(Esper Sugoi Power)かよお前。



※ ESP 超感覚的知覚 Extra Sensory Perception の略




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る