第4章-3 ビラ配りの少女
「とりあえず休みたい……」
この辺でどっか休めるところあったっけ……そもそも土日にこんな街中、商店街になんてまず来ないから勝手がわからない。少なくとも今この空間にはカラフルなTシャツやド派手な法被を身に纏ったやつら共がうようよしていて、心も休まらない。真っ先に離脱したい。
「うーん、確かに開場まで時間あるし……じゃあとりあえず商店街の方へ行こうよ」
「え、歩きたくない……」
「軟弱だなあ。そんな情けない姿しほりんに見られたら幻滅されるよ?」
「それは困る、だが今ここにしほりんはいない。よって頑張る理由にはならない。Q.E.D 証明終了」
「もういいって……とにかく歩く。スタバかなんかあるでしょ」
「ああ。うん、そうだな」
とにかくちょっとでも座って体力回復させないと持たない。もう前回のような苦痛はご免である。さすが休日の商店街あって人通りが多くて陰の者には居心地が悪い。学校帰りに本屋とか行くときは全然自転車でも問題ない感じなのに。そしてどうもこの通りは自転車乗り入れ禁止区域にもなってるようだ。
「あぁっ」
亜希乃が素っ頓狂な声をあげる。
「いる! いる!」
そう言って走り出してしまった。え、突然なに? さすがに放っておくわけにもいかないので俺も走る。まったく……そういつもいつも走らせないでほしい。
「おい亜希乃……一体何が」
目線の先では妹が、女の子に向かって話しかけていた。相手の子は休日なのに制服を着ていた。亜希乃の友達かな? まあ邪魔しても悪いんで離れたとこから立っていよう。
「……いしまーす」
後ろから声がして振り向くと、俺の目の前にカラフルな紙が。そして、
「今日この後ライブなんで、もしよかったら来てくださいねー」
制服姿のめっちゃ可愛い子がこっちに向かってめっちゃ笑顔でチラシを渡してきていた。俺は思わず後ずさる。
「え、ええ……と……?」
「お兄さん、アイドルとか興味あります?」
「え、ええ……とぉ……?」
「みんな可愛くて、歌もダンスもすっごいキレキレで、ちょ~~きゃわいいんですよぉ。一回くらい見とかないと損ですって!」
「……ぁあ、う、えーと……」
「なんかお兄さん、女の子と話すの慣れてない感じですね?(笑) そういうピュアな感じ可愛いですよ!」
「あ、ええ……」
「でも、女の子と仲良くするためにはもっと女の子のことを知らないとダメですね? そのためにもまず見に来てくださいって! 今日このあと17時からそこのブルーコーストホールでライブなんです」
「は、はいぃ……」
「いつもだったらチケット売り切れ続出で超人気なんですけど、今日はハコがいつもより大きいんで、まだ当日券出ますよ! どうですかこの機会に!?」
「い、いや、それが……」
「大丈夫です! 連れがいなくても一人でも十分楽しめますよ! むしろライブ中は一緒に来た友達のことなんて忘れてしまうくらい盛り上がっちゃいますからねー。ホント楽しいですよー♪ 終わったら握手会とかもありますしっ」
何この子、めっちゃぐいぐい来るやん! 困る困る困る困る。そして明らかにしどろもどろな俺……I am puzzled and embarassed……
「あ~~こっちの娘もかわいいいぃ!」
ハイテンションなままで亜希乃が飛んできた。そして割り込むようにして、俺にグイグイ迫ってきていた女の子の正面に突入、まじまじと顔を見て、は~、とかほ~、とか。ちょっと、いやかなり近くね?
「え、ええと……もしかしてカップルさん、ですか?」
「いやこれはただの兄貴です。で、あなたのお名前はっ!?」
「え、ええと……名前?」
「ステージネームだよっ?」
「え、ええと……私はまだステージネームはなくて……」
「そうなんだっ! まだ研究生だもんね。じゃあ下の名前はっ?」
「ええっと……ちさき……ですけど」
「じゃあステージネームは多分Chisaだねっ! 応援してるからっ、頑張ってねっ」
「は、はい……」
やばい。何がやばいってこのコミュ力お化けの妹がやばい。話を聞くに完全に初対面ぽいのに、この積極的なアタック。そして鮮やかな形勢逆転。さっきまで俺をぐいぐい圧倒していたこの子を完全にグイグイ具合で遥かに凌駕している。女の子の方は俺を攻撃していた姿は今や見る影もなく完全にたじたじである。怖ぇよ我が妹。
「サキ~? どうしたの、大丈夫?」
また新たに誰かやってきた。って、この声はもしかして、いやもしかしなくても……
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