第4章-1 ライブハウスへの誘い「土〇座をしてください」

「ねえ兄貴」

 ん?

「ねえ聞いてんの?」

「ああ、聞いてる聞いてる」

「じゃあいま私なんて言ったか言ってみ?」

 

 えーと……


「兄貴、勉強教えて?」

「はい妄想乙ー」

「じゃあ……今度しほりんのライブあるんだけど、ついてきて?」

「え……合ってる。ガチきもい~~」

「まあ伊達に何年も兄弟やってないしな」

「ちょっと兄貴、最近発言のキモさ具合が増してるから、注意して……」


 あと最近だと「きょうだい」って表記しないといけないらしいな、兄と妹だから。弟じゃないだろみたいな……これも男女平等とかの一環なのかもしれんけど、突然漢字の中にきょうだいってひらがなで出てくると違和感なんだよなあ。京大志望です! が きょうだい志望です! みたいな違和感w 誰の兄になりたいんだよって……ああ、家事スキル抜群世話焼き男装妹の兄貴に志望します! みたいな感じ? うん、結構アリ。あと俺たちは兄妹(けいまい)でも行けるか。


「でもやっぱ聞いてなかったでしょ? 私はしほりんとさくらちゃんのって言ったんだけど」


「え、奴も出んの?」

「そうみたい。楽しいね、友達がたくさんいて!」

 亜希乃は本当にうれしそうだ。

「俺は別にあっちの方はなあ……」

「ちょっと、そんなこと言っちゃさくらちゃん可哀想でしょ。ちくってやろ~」

「ちょ、それやめろ。アイツねちねちしつこいんだから」

「それも言ってやろ~」

「やめてくれマジで……」

 うん、アイツの蹴りガチで痛いからなあ。しほりんとは雲泥の差、どうしてこうなった?

「はいはい。ちゃんとさくらちゃんも応援してあげなよ」

「へいへい」

「じゃあ頼むね。今週日曜17:00STARTだから、まあ15時半くらいには家出るよ」

「りょーーかい……ってあれ、そんなもんでいいの? 前はずいぶん早く着かされた挙句めっちゃ長く待たされたけど」

「今回はライブハウスでチケット整理番号制だから」

「ふうん」

「しかもあんまり番号よくないのよねー」

「ほおん」

「まあしほりん見れるだけでも満足なんだけどっ 双眼鏡もあるし」

「はあん」

「兄貴、やっぱさくらちゃんにチクるよ?」

「すみません亜希乃様、それだけはどうぞご勘弁を」






「てなことがあってだなあ」

「へえ」

 通常営業の校舎裏の男2人のランチタイム。

「せっかくお前んちでゲームだらだらしようと思ってたのによ」



「……本当にそうでござるか?」



 え?


 太洋からの思わぬ言葉。そしていつもとはちょっと違う感じの表情に逡巡する。


「え、そ、そうだけど……」


「南方氏は最近ちょっと変でござる」

「え、へ変態じゃねえよ」

「そんなことは言ってないでござる。そして変態なとこは別に前と変わらず、というかむしろ変態に磨きがかかってる気はするでごじゃるが……そうではなくて」

「じゃあ何だよ……?」

「ううむ、前の南方氏は真剣に妹の付き添いが嫌そうだったでござる。もう100%心底心の底から嫌がってるって感じでござった。しかし今はどうか? なんかまんざらでもないって感じでごわす」


 背筋に冷たいものが流れる。


「それに最近なんか付き合いも悪いでござる。毎日一緒にゲーセン通い → 家に直行ゲーム。休日は一日中ゲームアンドアニメ上映会兼討論会だったのに、ここ最近はそれもめっきり減っちまったでござる」


「それは……」


 やばい、ここでしほりん達のことを言うわけにはいかないよな……太洋に「非リアカースト最下層の俺が妹の友達の現役JCアイドルの家庭教師をしているのだが」の件がばれたら、どうなるだろう? 俺は一瞬にして思考を巡らせる。え、いや、別に妹の友達に勉強教えてあげてるだけ、それだけじゃないか。それだけなんだから何もやましいことはない。むしろボランティア? 別によくね?


「いや実はさ……」


 そこで俺の神経回路が脊髄からの反射で口の動きを封じた。何か第6感的な危険信号を察知した。よく考えてみろ! こういうときは相手の立場に立って(Put myself in your shoes)考えなくてはいけないだろ?


 Imagine...(想像してごらん?)


 クラスの日蔭者として虐げられてきた俺と太洋。そこで意気投合してリア充から隔絶して2次元に生きると血の約束を交わした盟友の大洋。ずっと二人で苦しい学校生活を耐え忍び、そしてともに2次元嫁を愛でながら二人で喜びを分かち合ってきた。ところがその親友の太洋が、実は裏で、妹の同級生の大人気アイドルとお近づきになり、同じ机でいちゃいちゃ勉強を教えてあげ、あまつさえそのアイドルのライブにこっそり行くことを実は内心結構楽しみにしている……そしてそれを俺には隠したまま何食わぬ顔で昼飯はいつも通り食べるも、放課後や休日はどんどん付き合いが悪くなっていき、俺が家でだらだらごろごろ荒んだ休日を送ってるときに、太洋はライブで「いぇい!」とか「3・2・1・じゃーんぷっ!」とか叫びながら jumping!! してる…………



 問題だらけだ!!



 むしろ問題しかない、というか死ねよ俺! 太洋がそんな事してたら大洋殺して俺も死ぬわ! 親友が裏でリア充になるなら、みんな死ぬしかないじゃない! というか気づかなかったけど俺Hideeee ひどすぎるわ。



「すまんっ!!! 太洋!!!」



 気づくと俺は土下座をしていた。別に、日曜9時からの顔芸ドラマに出てくる大〇田常務のせいではないと思いたい。


「え、ちょちょっ南方氏、どうしたでござる! (汗」


「すまん太洋、俺が悪かった! お前の気持ちも何もかも忘れて、自分のことしか考えてなかったあ……すまないっ」


「ちょっ、そこまでせんでいいでござるっ、ちょっとふざけて言ってみただけでござるから、気にしないででござる!」



「たいよおおおおおおおっ」

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