第3章-8 小数サーキュレーション(でもそんなーんじゃ♪)

 二日後、三度目の勉強の日、亜季乃も俺もばっちりスタンバイして、そして約束の時間通りに二人がやってきた。


「こんにちは。お邪魔します」

「亜季乃ー久しぶりー」


「しほりん! さくらちゃん! いらっしゃいーさあさあ上がって上がって」

「お兄様、今日もどうぞよろしくお願いいたします」

「お、おう、いらっしゃい」


 さすがしほりん礼儀正しい。若干一名の、俺はまるでここにはいない存在であるかのようにスルーして上がり込んでくる輩とは訳が違う。


 キッチン横の大きなテーブルにいつものように座る。俺の横にしほりん、そして正面に……輩、その隣に亜季乃。今日も今日とて俺はしほりんの数学中心にずっとつきっきり。前の二人はひたすら自分の課題をやっている。うちの妹の方は例のごとく俺が買ってやったワークと比較的簡単な数学のプリントのコピーをやっている。輩(さくらたん 結局なんて呼べばいいのかw)は俺に何をやっているのか見られることすら拒絶する冷たいエルザオーラを飛ばしながら時々ちらちらとこちらを目線で牽制してくる。あまりの威圧感にイチローですら盗塁できないレベル。甲●キャノン並。


「お兄様、お願いしてもいいですか?」


 隣からの小さな声ではっと我に返る。いかんいかん、今はしほりんの方に集中しないと!


「ここの循環小数なんですけど……」


「ああ、分数に直すやつだね」

「一応答えは合ってはいるのですが、10倍とか100倍とかの判断をするのにいまいち自信がなくて……」

「これはね、循環になっている部分が何桁かを見分ければいいんだ」

「えーっと……?」


「例えばこの1.52525252……なんかはね、「52」の2桁分が循環しているよね? だから0が2つ分、つまり100倍するんだ。すると100x=152.52525252……ってなる」

「わかります。それでちょうど小数点以下の部分がまったく同じになって、引き算すると全部消えるんですよね」

「そう。だから99x=151になって……」

「99で割るんですね、なるほど。だから答えは99分の151……っと」 

「うんその通り」

 さすがしほりん。呑み込みが早くて助かる。


「じゃあこの(4)はどう?」

「24.378378378378……これは3桁だからちょうど1000倍すれば小数部分が消えますっ」

「もう大丈夫だね。大体この手の分数に直させる問題は100倍か1000倍のことが多いから落ち着いて判断すればいいよ」

「なるほど……」


「あと引っかけで間違いやすい問題でこんなのがあるけど、どう?」

「えーと……繰り返す部分が2桁なんで、100倍ですよね?」

「そう思うでしょ? まあやってみて?」

「うーん、あれ? 消えない……」

「そうなんだよ、どうすればいいかわかる?」

「ええーっと……ええ~??」

「これはね? 小さい方も10倍すると解けるタイプなんだ」

「え~? そんなのまであるんですか? もうこんがらがって……」

「大丈夫だよ。大きい方は1000倍、小さい方10倍すると上手くいくからね」

「……ホントです!」


「まあ今のは循環小数の部分じゃ難問だけど、小数点以下の部分に同じ数字を揃えるってことを意識すれば大丈夫かな。大体の問題は普通に片方100倍か1000倍で解けるしね」


「……さすがお兄様、教え方が上手くて本当よくわかります!」

「へ? ち、ちがうよ。しほりんが呑み込みがいいからだよ!」

「そんなことないですっ。家で家庭教師の先生に教わってるときはこんなすらすらわからないですからっ」

「そ、そうなの? そう言ってもらえてうれしい……なあ」


「しほちゃん、ちょっと褒めすぎよ。お兄さんが必要以上につけ上がって調子に乗っちゃうから程々にしといてね」


「さくらちゃん、でも本当のことだもの」


「しほちゃんはいいんだけどさぁ……さっきからコイツがずっとニヤニヤ腑抜け顔さらしててもう見てらんないのよね」

「えっマジ? 俺そんな顔してた!?」

「うんうん。してるよ兄貴。最初からずうっと」

「最初からかよっ!?」


 亜季乃までもが敵に回る。いや最初から敵だったか。まったく、この中でしほりんだけが天使であとは悪魔かごみクズか。くすっと笑ってるしほりんの横顔を間近で見ながら、幸せを感じる。しかしそれと同時にやっぱりなんか違和感というか……大したことでは全然無いはずなのだが、亜季乃の勉強見てるときには無い感覚……なんだろう……


「でもさくらちゃんたちも聞けばいいのに、お兄様すっごくわかりやすいよ?」


「丁重にお断りさせて頂きます」

「右に同じで」


「もう二人とも強情なんだから」


「しほりん様、私たちのことなんかそしてこの面倒な兄貴のことなんか何も気にしないでいいんですから!」

「今のとこお兄さんの有用性を理解してるのはしほちゃんだけみたいだしw」


 なんかこっちを見る目つきが嫌味な気がする。気のせいだろうか?


「そこまで言うならお言葉に甘えるけど……」


「そうですですです。どうせ私なんかが勉強したって今更どうにもなりませんので」


「おい亜希乃、それは違うだろ。勉強に今更とか遅いとかなんてないぞ。毎日コツコツ少しずつでも前に進むことが大事なんだ」

「なにその正論キモイんですけどー」


「諺にもあるだろ? ”塵も積もれば大和撫子……” 違う。塵も積もれば山となる!”ってな」

「今なんか言いかけませんでした?」

「さくらちゃん! 聞かなかったことにしてっ! 兄貴がキモいのしほりんにバレたら困るからっ……」

 失礼な! 花澤〇菜様は単に美人なだけじゃなく歌唱力と演技力がすごいんだぞ! 個人的には弥生のトラ的な将棋漫画原作アニメの次女役が好き。今のご時世新人声優をあててきそうな枠に大御所を抜擢したキャスティングが神。2期はつらい展開もあったけど目が離せなかったマジ名作。3期はよ! あとなんであおちゃん(ま●か神)はああいう役どころばっかなのかね最近。今クールの彼女をレンタルしちゃう感じの元カノ役とかね。でもあの悪役演技できる声優さんってのもすごいよね。あっそうだ。今クールのタイトル終わりに完ってつけてくるアニメの国民的妹でもあったわ。今の小●的にポイントたーかーいー♪


 それからずっとしほりんの専属家庭教師状態。幸せな時間だ。正直あの失礼な二人組の勉強は見たくないしな。うん、さすが美少女お嬢様アイドルしほりん! ふわりん ふわふわりん♪





かーみーさーまーありがとーおー♪





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