第6章-3 邂逅
「思ったより……普通のビルなんだな」
高いビルとビルの間に挟まれたちょっと古い感じの建物を下から見上げた。アイドルプロダクションのビルと言うと7●5プロや3●6プロや2●3プロとかが思い浮かぶんだが。まあそれらも決して大きなビルと言ったわけではないし……窓ガラスの裏からテープで数字書いてるくらいなんだからなw
「まあうちは弱小だから。事務所は2階よ」
慣れた様子でたたたっと階段を上がっていく桜玖良。
「おい、ちょっ待っ、心の準備が……」
「はぁ……もうっ、じゃあゆっくり上がってきなさいよ」
おい、ちょっと待て置いていくな……この階段結構急で危ねえな。2階に上がると先に行く桜玖良が仁王立ちで立っていた。
「行くわよ」
「え、もう?」
ガチャと音がして扉が開いた。
「失礼します。社長、連れてきました」
「あら桜玖良、早かったのね」
奥のソファーにスーツ姿の女の人が座っていた。
「そして、あなたが南方君ね?」
え? この人なの? 社長っててっきり髭のおじいさんみたいなのを想像してたわ。
「ようこそいらっしゃい。私が当プロダクション代表の小島です」
立ち上がったその女社長は背が高くすらっとしていて、、眼鏡の似合う仕事の出来そうなキャリアウーマンって感じのすごい美人だった。
「え、えと……」
「はじめまして南方君。今後ともよろしくお願いします」
「え、ええ……と、お、お願いします」
「悪かったわね。わざわざ来てもらって。どうもありがとう」
「い、いえ全然……」
「お兄さん、ホント美人に弱いですね」
小声で桜玖良が言う。頼むから黙ってろ。促されるままにソファーに座らされる。ちょ、なにこのふかふかの座り心地! 思わぬ沈み方に後ろにのけぞるような格好になってしまった。
「さて南方君、何から聞こうかしら?」
女社長が正面からじっと見つめてくる。美人女性の顔がすぐそこに……やめて! これ体に良くない絶対!
「うーん……思ってたより普通ね」
「普通!?」
「しほりがぞっこんだって桜玖良が言ってたから、もっとイケメンで格好いい感じを想像してたんだけど……」
「一見優しそうな冴えない感じを装ってますが、甘い言葉で女をたぶらかす悪い奴です」
「おいっ、違う! 何言っちゃってんのお前!?」
慌てて取り繕ろうとして、目の前の美人の存在を思い出して、慌てて座る。さっきの桜玖良の発言の疑惑を晴らしたいところではあるが。その女社長がくすくす笑い出した。
「いや、これは……決して……」
「なるほどね、あなたたちの関係性がちょっと見えてきた気がするわ。で、南方君はしほりんのこと好きなの?」
へ? 今度は何?
「そ、それはもちろん……いやっ違、そういう意味ではなく……」
じろりと眼鏡の奥で睨まれる。やべえ超怖ぇ!
「うちのアイドルは一応恋愛禁止なんだけどなーーー」
「いや全然、大丈夫ですっ! えーと、そうファン、しほりんの大ファンなだけなんですっ!」
「なるほど、それで妹をダシにして近づいた……と」
「ちょっ、ま待ってくださいっ、違います誤解ですっ、妹がずっとしほりんの大ファンでその影響でっ! そもそも先にうちに上がり込んできたのはそこにいる……こいつですっ! うちの妹と幼稚園が一緒かなんだとか言ってきて近づいてきたんですっ!」
「うん知ってるよ。全部桜玖良たちから聞いてるから」
「へ?」
桜玖良の方を見ると不機嫌そうな顔でこっちを睨んできやがった。
「いやあ……話は聞いてたけど、桜玖良の言う通りやっぱり面白いねこの子。桜玖良がからかいたくなるのもわかるわぁ」
「別にからかってなどいません。誤解です。小島さんそろそろ本題に」
ちょっと何なんだよこの二人、ちょっとひどくねえ? 俺完全に遊ばれてるやん。からかい上手のさくらたん……さんってか。うん、本家と違って裏のデレが一切ないぞ。何もわからないまま無理やり呼び出された挙句の果てがこのザマなのか? さくらたんめぇ……!
「はいはい。時に南方君、貴方はどこまで話を知ってるの?」
「えーと……正直この状況がまったくわけわかんなくて……ほとんど何も知らないと思うんですが……」
「一応しほちゃんがアイドルやめないといけないかもしれないことと、でもテストの順位はよかったことまでは話してます」
「そう……」
女社長はずいっと一つ身を乗り出して眼鏡の奥からじっとこっちを覗いてくる。
「本来貴方には感謝しないといけなかったわ」
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