第5.5章‐11 ドキドキ☆ヒミツの密会2
「ちょっと兄貴! 飲み物がないんだけど!」
家に帰るなり妹の奇声が襲い掛かってきた。しかしそんな罵声ですら許せてしまう。だって今日はひっさびさのしほりん家庭教師訪問の日なんだものーーーー!
うっきうきで近所のドラッグストアでお茶等を買って帰った俺の目に映ったのは、台所の机に突っ伏した亜季乃の、返事がないただの屍のような姿であった。
「どうした亜季乃! だれにやられた?」
「びええええぇぇぇん」
机に突っ伏したまま泣き崩れる亜季乃。
「しほりん今日来れないってよ……さくらちゃんからメッセ来てた>。<……ぴぇん」
しほりん部活やめるってよってか?
俺は意外にもこの辛い現実を受け止めていたのだった。なんかあるよね? 自分より落ち込んでる人を見るとそんなに落ち込まずに済むとか、自分よりテンパってる人を見ると緊張しなくなるとか、自分より成績悪いやつ見ると無駄に安心するとか……(最後のは実はどこにも安心要素ないんだが、うん怖いよね)
ただ実際、亜季乃はもうしばらくしほりんに会ってないんだからこの落胆ぶりにも頷ける。俺はしほりんのテスト週間の間毎日会ってたし、そのあとも神ライブ最前列でしほりんと私信アイコンタクトの嵐接触してたんだから、うん、もうこれ以上望んだら罰が当たるってものである。
「ゔゔゔゔぅぅぅぅぅ」
妹のうめき声が響く台所。俺は買ってきたお茶のパックを冷蔵庫へとしまいながら、でもやっぱり会いたかったな。そう思った。
次の日。来週はいつも通り勉強会ができるといいなと思っていた矢先のことだった。
ぴんぽーん
チャイムが鳴って、俺は慌てて玄関へ。最近この時間にやたらぴんぽん鳴るようになったな、と思いながら。郵便屋さんや宅配便の線も捨ててはいけない、だが、俺は信じている、もしかすると……昨日のお詫び的な感じでしほりんが来てくれたのではないか! と。ちょっと虫が良すぎるか? それに前回のように’あっち’の方である線もぬぐえない。さて、どっちだ? しほりんとあの野郎、まさしく月とスッポン……たのむたのむたのむっ、どうか前者のほうであってくれっ!
がちゃっ
「はい、残念」
「? ん、い、いらっしゃい」
「落胆の色が顔に出てますよ? お、に、い、さ、ん?」
一体誰のせいだと。俺はあからさまに渋い顔で、
「何の用だよ?」
「ま、こんな玄関先ではあれなんでちょっと上がらせてもらいます、よっと」
するりと俺の脇をすり抜ける桜玖良。へいへいどうぞご勝手に。
「で、今日は何の用なんだ?」
俺は一応お茶を出してもてなしてやる。罵声を浴びてもその相手に施しを与える……すっごく人間的に偉い。かのマハトマ・ガンディーも顔負けの優しさであろう。
「あ、いただきます」
そう言ってずずっとお茶をすする。
「あ、これおいしい」
「だろー、いつもよりちょっといいやつなんだ」
「なんでそんな気を遣ってくれたんです?」
「そりゃあ大事なお客様だから?」
「目が笑ってますよ」
「で、何の用だって?」
「明日は雨ですね」
「人の話を聞けや!」
桜玖良はふうっと大きく息をつくと、口を開いた。
「……しほちゃんのことなんですけど」
「ああ、そうなんだ」
「あれ、あんま興味ないですか?」
「い、いやすっごく興味! いや違う違う、普通程度に」
「やっぱり変態だー」
「違えから! で、何の用だよ?」
「テストの結果がちゃんと出たんです」
ついに来たか! 正直なところ半ば予想していた答えではあった。ていうかここ数日やきもきしている俺の中での最重要事項でもあった。過去最高得点だからすごく喜んでたのは知ってたけど、実は順位はまだ出てなかったから。手応えは十分だったから順位もいいはずだけど、そればかりはしっかり数字が出るまでは安心できないし、やはりすっきりしないだろう、その気持ちはよくわかる。
そろそろ結果発表の頃なのは知ってたから、また前みたいにしほりんが喜びの報告をしに来てくれるかもという期待もあって、そわそわ~♪そわそわ~♪一人でそわそわダンスしてる案件だったのである。しかし結局昨日の勉強会はお流れ。そして今日こいつが一人でやってきた、ということは……
「あ、しほちゃんやっぱり順位すっごくよかったんです。過去最高の順位で、お兄さんにめっちゃ感謝してましたよ。本当は昨日もレッスン抜け出して飛んでくるくらいの勢いだったんですけど私がきっちり止めました」
「おいっ!!!」
余計なことすんなよ! でも順位がよかったんだったら本当に良かった……俺はほっと胸をなでおろした。
「で、しほりんは?」
こいつがいるってことは今日はレッスンは休みのはずだ。もしかしたらそこに隠れていて急に出てきてびっくりサプライズ的なことが待っているのかしら。わくわく
「はあ、本当嫌になるくらいお気楽さんなんですね、お兄さん。ちなみにさっきの目マジできもかったです」
「ど、どうゆうことだよ?」
「キモおめでたい奴っていうそのままの意味です」
「な、なんだと!?」
「お兄さんよく聞いてください」
そう言うと桜玖良はさっきまでとは全く違う乾いた声色で、こう言った。
「このままだとしほちゃんはアイドルやめることになっちゃいます」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます