第5章-12 図書館(パンツ)戦争

 放課後桜玖良の家で絶賛女装中の俺。しほりんの中間テストは三日間で明日がテスト最終日、学校が早く終わってるしほりんはもう先に図書館に行っている。俺は授業終わり猛ダッシュで桜玖良の家に。ウィッグをかぶらされメイクをしてもらいながら感慨にふける。


「ああ。女装するのも、今日で最後か、やっとだな」


「どうしたの? 急に名残惜しくなった?」

「なってねえよ(怒)」

「あら残念。何か変な気持ちに目覚めたのかと思ったわw」

「なんでやねん」


 俺をこの危ない道に引きずりこんだ当の本人はあっけらかんとして何も責任を感じてないようだ。まったく。マジで俺の趣味が女装になっちまったらどうしてくれるんだ一体? 不細工な男の娘なんてどこにも需要はない。

 だが実際のところ(In fact)いつもよりしほりんの勉強を見てあげられるようになったのはコイツのおかげだ。現に初日の数学①はほとんど自信をもって解けたらしく、今までだったらあり得ないってしほりんすごく喜んでた。もし桜玖良が突拍子もないアイデアを出さなければこうはなっていないはずだ。

 しかし肝心なのは明日最終日の数学②の方、数学はこちらの方がしほりんは苦手にしていて今回の一番の課題であった。さあ気を引き締めてあと一日だ、がんばろう。


「はい、おしまい」

「ああ、センキュ」

「はじめに比べて随分ノリがよくなったわね」

「なんたって今日で終わりだからな」


 俺たちは一緒に図書館まで歩く。


「どうした? お前も今日は一緒に勉強するのかよ?」

「しないわよ。今日は何もないからアンタが変なことしないか監視すんの」

「してねえよ」

「ちゃんと本読みながら二階から見てるから」

「へえへえ。それはストーカーって言うんじゃねえの?」

「お兄さんと一緒にしないでくださいね」


 いつもの通りカウンターの前を通りしほりんがいる自習スペースへと向かう。


「え、何あれ?」


 桜玖良の声で、そこで何やら様子がおかしいことに気づく。

 いつも座ってるところにしほりんがいて、その周りに何やら人だかりができている。誰だ……子供? 小さな子供たちが数人でしほりんの勉強机を囲んでいる。


「ちょっと、どうしたの?」


「あ、さくらちゃん。それにお兄s! 違う。ユキちゃんも!」

「なんだよ? ねーちゃん、知り合いかよ?」


 一番しほりんに近いところに立っている主犯格?ぽい少年、ぱっと見の印象じゃ小4くらい?、が馴れ馴れしくこっちに話しかけてきた。


「ねえしほちゃん、これいったいどういう状況?」

「ええと……」

 

 立ち上がっておろおろしているしほりん、うん可愛い。


「いや、このきれいなおねーちゃんが一人でさみしそうにしてるから相手してやろうかなって、な?」

「は?」


 何だこのガキ、それナンパじゃねえか! はぁ?という感じで桜玖良が怖い顔をしている。うん、でも同感だ。桜玖良がその感情をできるだけ抑えて猫なで声で言う。

「このお姉ちゃん、今勉強してるから邪魔しちゃだめよ」

 おお、見事な営業スマイル。俺の前でもそれやっててほしいわ。しかしそのガキは意外なことを口にした。


「勉強なんかしてないよ。ずっとヒマそうに窓の外眺めてため息ついてただけだもん」

「わああぁぁぁっ」


 突然しほりんが叫んだ。

「ち、ちがっ、違いますからっ、ちゃんと勉強してますからっ」

 しほりんがこっちに向かって両手を前にふりふり、あわあわと弁解を始める。うん、可愛い。

「しほちゃん?」

「お兄s……じゃなくてっ、さくらちゃん達がいつ来るのかなあってちょっと気になってただけで決してそういうんじゃなくって……ごにょごにょ」

 しほりんがまだ小声でぶつぶつ言ってたけど、よく聞き取れなかった。桜玖良がガキどもに正対する。

「ふざけたこと言ってないで早くどっか行きなさい。ここは閲覧コーナーで、騒いでいいとこじゃないのよ」



「だって、パンツ見せてくれねえんだもん」



 は? 一瞬俺の思考はフリーズする。

「は、ぱ、ぱ?」

 桜玖良が口をぱくぱくさせてしどろもどろになる。うん、すまんな。お前には若干のトラウマがあるよね。


「ちょっと君たち何言ってるのかなあ?」


 純粋培養美少女二人が少年からの突然のパンツ攻撃に硬直してしまっているので、とりあえず声色を極限まで上げて助け舟を出す。

「このおねーちゃん美人だろー? だからパンツ見せてくれたら向こう行ってあげるって何度も言ってんのに、ダメって言って見せてくれないんだー」

「あ、あ、、、当たり前だろ」

 自分の身体がわなわなと怒りで震えだす。すると、横にいた別のガキが出てきて

「なんだ。こっちのねーちゃんたちは超美人だけど、お前、なんかブスっぽいな」

 ん? 何言ってくれてんの? このガキ。

「ねえ失礼だからね、キミたち?」

「ブスにブスって言って何がいけないの?」

「そーだそーだブース!」


 くそお。まあ確かに元の顔が不細工かもしれないことは認めるが、そこそこメイクしてまともになってるはずだぞ。この二人が美少女過ぎんのがいけねえんだ。しほりんは言わずもがな、こっちのガサツ女のほうも顔のレベルはかなり高いぞ。(顔だけ、顔だけなら、な)単体でもジャケットいけるレベルだっ!TypeC位で。俺は極限まで声色を高くして、


「ふざけ……たこと言ってると怒るz……怒るわよっ!」


「うわっ、ブスが怒ったーっ! こえーっ」

「やーいブースブース!」

「迷惑だからさっさと行きなさい!」


 思いっきり睨み付けてやると、ガキどもはちょっとしゅんとなったみたいで


「ちぇっ、もういいやブスはほっといて行こうぜ」

「そーだそーだ」

「じゃあねー。きれいなお姉さんたちー、と、ブス!」

「と、ブス!!」


 くっそ生意気なガキどもが去っていくのを、俺は頭にぴきぴきと怒マークを浮かべたまま見送った。しかし、これでやっと邪魔がいなくなるぞ、そう思った時だった。


 口にするのもおぞましい悲劇(tragedy) が起きたのだった。






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