竜堂一華の大学入学(7)


やべぇぇぇええ……どうしよう……。


家に帰った後、俺は全力で後悔していた。

反省はしても後悔はしない主義?それがどうした。人間なんだから後悔する時もあるっしょ。

一華の前ではどんな強い信念も鋼の理性も常識すらも崩れ去る運命なのだよ。

そのまま信念も理性も常識も完全に消えて無くなってくれればこんなに悩まなくて済むのになぁ…。

なんて思ってもどうにもならないのが人生ってもんよ。悲しい。


今はただ出荷を待つ家畜のように一華からの呼び出しを待つだけ…。

……その割には顔がにやけてる?

気のせいだろ、だってこれからいろいろな意味で喰われるかもしれないんだぜ?

人間として、男性として最高の気分になれるかもしれないというか実際最高の気分だが、鳥羽真司という1人のオトコとしては許嫁とはいえ実の妹のように過ごして来た年下の女の子にリードを奪われるのは屈辱的とまでは言わないものの、かなり情けない。


……今思ったけど俺と一華って言うほど実の兄妹のように育ってないよね。

兄妹要素は一華の俺の呼び方が『お兄様』ってだけで、幼い頃から仲のいい兄妹では済まされないぐらいの超激しいスキンシップをしてたし、それに何より兄を性的に襲う妹なんて聞いた事がないぞ。


俺が好きなのは妹なんだけど妹じゃない。

でも妹だけいればいい。

というかもし血の繋がった実妹だった場合、俺の妹がこんなに可愛くなるわけがないから偽妹(?)でよかったのかもしれない。

いや待てよ?もし血の繋がりがあったとしても一華なら「お兄様だけど愛さえあれば関係ないよねっ」って言いそうだな。ってか確実に言うと思う。

……何言ってんだ俺は。


まぁまぁ、とりあえず話を戻そうか。

確かこのままでは男の沽券に関わるって話だったような気がしないでもない。

要するにただの男のプライド的な話なのだが、プライドが男を輝かせるんだから悩んじゃってもいいじゃない、男だもの。

据え膳に喰われるという異常事態が起こる前に、ここは男らしく俺の方から一華を押し倒すぐらいの気概を見せた方がいい……とはわかってはいるものの、実際に行動を起こす事はできない。


なにせ昼の出来事で思い知らされたように俺はまだまだ未熟者なんだよね。

一華に釣り合うぐらいの男になれるまではそういう事・・・・・はしないと心に決めている。

そのためにもまずはRUDEの社長になれるぐらいの実力にならないとな。

自分の事でいっぱいいっぱいではダメだ。万が一の時に責任が取れるように成長しなければ……




ピロンッ♪




うおぅっ!?……ってなんだ一華からのメールか……。

もし今のを一華の前で口に出してたら『なんだとはなんですか』って言われそうだな、気をつけないと。

え〜っと、なになに……




『これからお兄様の部屋へ向かいます♪なのでいろいろと準備・・覚悟・・をしておいてくださいね♡』




……全然『なんだ』で済まされるようなメールじゃなかった。

っていうか準備って何!?覚悟って何!?俺これからどうなんの!?何されるの!?

『お兄様、責任とって♡』って言われる日は俺が思ってたより近いのかもしれない。

それまでに成長、できてるといいなぁ……。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




それから数分後、一華が俺の部屋にやってきた。


ちなみに父さんは仕事、母さんは友人とランチに行くとかでたまたま出かけていたので今この時間帯に家には俺しか居なかった。

まぁ一華ならいつでも家に入っていいって両親から言われてるし、何より一華は俺の家の鍵持ってるからいつでも入れるんだけどね。

というか一華はいつも当たり前のように俺の家にいるからもはや同棲に等しい。

幼馴染らしく一華が毎朝起こしに来てくれるんだけどいったい何時に家に来ているんだろうか?

極々たま〜に早起きする事があってもその時には既に一華が俺の寝顔を眺めてたりするし……まさか実は俺の家鳥羽家で寝泊まりしてて本当に同棲しちゃってるじゃない?と思った事も一度や二度じゃない。



まぁ要するに何が言いたいのかというとだ、一華が部屋に入ってきたというのに俺は全く警戒も準備も、そして覚悟もしていなかったという事だ。



今日の放課後一華に言質を取られたというのに。


先程あんなメールをもらったというのに。



そんな愚鈍な俺に対し、一華の行動は素早かった。

まず隙をついて俺の背後に回り込み、何故か持ってる本格的な……というより本物の手鎖で両手を縛り上げる。

いやほんと、なんでそんなもの持ってんの?

ちなみに一華は音もなく俺の背後に立つのが尋常じゃなく上手い。これもほんとになんでなの?

手鎖で俺の両手を封じ、俺が一華の行動を阻止する事を事前に阻止した一華は続いて何やら細長い布で目隠しをし、俺の視界を封じた。

何も見えない状態で動くのは危ないので、これで身動きが取れなくなってしまった。


その間、わずか5秒。


たった5秒で俺の自由は奪われ、視界すらも奪われてしまった。手際良過ぎない?

というか一華って事あるごとに俺を拘束したがるよね。

束縛系彼女もとい拘束系彼女ってか。

……いや、拘束監禁系彼女かな。



……ってそんな事考えてる場合じゃないから!

現実逃避してる場合じゃないから!!



「一華ァ!?なにしてんの!?いやなにしようとしてんのォ!?」

「わからないのですか?」

「あいにく前が見えなくて状況判断能力がとことん落ちてるんでねェェ!!」

「あぁ!なんて可愛……じゃなくて可哀想なお兄様!でも大丈夫です!一華がすぐにお兄様を幸せな気分にさせてあげますから!!」



余計に不安だ!?



「とりあえず目隠しだけ、目隠しだけでも外そうか一華!そしてその後大きく深呼吸しよう!そして落ち着こう!そして———」

「……お兄様」

「なに!?」

「あんまりうるさくするなら……その口、一華の唇で塞いでしまいますよ?」

「……………」



一華にものすっごく男らしいというか王子様らしい方法によって口封じ(物理)されかけた……。

なにこれいつか俺も言ってみたい。でも一華なら「はい喜んで!!」って逆にもっとうるさくしそうな気がする、っていうかうるさくなる。(確定)

そうやって何かと理由をつけて男らしいことを言えない俺は女々しくて女々しくて辛いよ。



「お兄様、椅子に座らせますよ?」

「え?あ、うん。どうぞご自由に…」




すとん




ガシャン




「……なぁ一華、何故か俺の足の自由がなくなったような気がするんだが」

「気のせいじゃないですか?」

「気のせいじゃねぇよ!?足首に冷たい鉄の感触がバッチリあるわ!!」



見えないから実際はどうなのかはわからないけどほぼ間違いなく俺の脚と椅子の脚を手鎖で繋がれた!!

昔から散々経験させられてきたこの鉄の感触……今さらこの俺が間違えるはずもない!

しかもその繋ぎ方がですよ。俺の『足』ではなく『脚』を椅子の脚と繋いでいるわけですよ。


つまり……股が閉じられないわけなのですよ。

手も封じられてるし視界も塞がれてるしマジで何もできない状態なのですよ。

もしこの状況で一華が何かをしてきても俺にはどうする事もできない状態なのですよ。なのですよったらなのですよ。



「お兄様」

「はい!?」

「確か今日の放課後……一華に『なんでもする』って言いましたよね?」

「いやぁ……そう言ったような言ってないような……」

「一華に嘘をつくのですか?」

「言ったでございますで御座る!!」

「だから敬語は………敬語なのですか?それ。……まぁいいです。とりあえず言ったことにかわりはありませんよね?」

「はい」

「では……」



一華はそう言うと手鎖を外してくれた。

やったね!両手が自由になったよ!!

でも未だに視界が塞がれているから下手に手を動かすわけにはいかないんだけどね!自由になったけど結局不自由なまま!なんてこった!!



「お兄様、一華は思うのですよ」

「……何を?」

「誤解されがちなのですが、一華は特別に変というわけではないのですよ。あぁいや自分が変人だという自覚はありますけど。ただものすごい変人とまではいかないと思っているのです」

「いくんじゃない?」

「お兄様、今何か言いましたか?」

「いや、何も……」

「とにかくですね、一華はただお兄様と深く触れ合いたいだけなのです。好きな人と触れ合いたいと思うのは当然の事ですよね?一華はその思いと想いが強過ぎるだけなんです」



確かに好きな人と触れ合いたいと思うのは普通の事だ。

俺だって一華ともっと触れ合いたい、そう下心なしで思う。

……まぁ実際に触れ合ったらよこしまな気持ちが急激に膨れ上がってくるのだが……それは男である以上仕方のない事だから……。


とにかく、人間とは人肌に触れると安心する生き物なんだから一華の言うことは間違ってない。

……最初の部分だけは。


だっていくら触れ合いたいからってその相手を目隠ししたり拘束したりするか!?普通しないだろう!

まぁ一華を普通じゃいられないほど暴走させたのは俺の日頃のスキンシップが足りてないせいだからこうなった元凶は俺なんだけど……。


……いや待て、本当に俺のせいなのか?

確かに今日や1年前みたいに一華を本気で怒らせたり悲しませたりした事はあった。

でも性行為こそ断り続けているものの、それに近いものやスキンシップや触れ合いは過剰というか異常なほどしてるし俺のせいとまでは言えないような……。


というか暴走関係なく一華は昔から拘束や束縛するのが好きだったな。

俺が一華以外の女の子と少しでも会話したら帰宅後、もしくはその週の休日に1日中一華と手を繋がされたなー。

トイレとか着替えとかやむを得ない状況を除いて本当に一日中繋いでた。だから風呂や寝る時も一緒だったな。


でもそれは小学生の頃の話。

中学生になってからは風呂は別々に入るようになった(おじさんや俺がそう頼んだ。一華は最後まで反対してたけど)……が、そのかわりただ手を繋ぐだけじゃなくてお互いの手を手鎖で繋がされた。

思えば一華はあの頃から拘束具を使い始めたんだよなぁ。そりゃ拘束術も鍛えられるわ。

それから事あるごとに拘束され続けて………あれ?本当に俺のせいじゃなくね?むしろ一華が拘束具を使うのはいつも通りじゃね?



「というわけでですね、より深くねっとりとどっぷりと繋が……触れ合うためにお兄様のモノを一華の穴に挿れてみませんか?」

「人はそれを触れ合いとは言わない!!」

「まぁそうですね、触れ合いではなく体を合わせあう合体です。でも一華とお兄様ぐらいであればその程度はただの触れ合いに含まれるでしょう?」

「含まれねぇよ!?」

「……ええいもどかしいですね。元はと言えばこれはお兄様への罰なんですから大人しく一華の言う事に従ってください。……というわけでまずは右手を拝借」

「えっ、ちょっ、まずはって何!?」



そう言うなりいきなり右手を両手で掴まれる。

振り払う事は簡単だったけどそれはしなかった。

というか振り払おうとも思わなかった。

だって俺には一華を拒絶するという選択肢が最初ハナから存在しないのだから。



「……あ、一華としたことが服を脱ぐのを忘れていましたね」

「服を脱いで何をするつもりだった!?それに母さんがいつ帰ってきてもおかしくないんだから時間のかかる事はやめよう!そうしよう!!」

「万が一お義母様が帰られた事も考えて服を着たままで……ですか。さすがお兄様!名案です!!」

「違う、そうじゃない」



その手があったか!じゃねーよ、何考えてんだよ一華。……そして俺。

俺は一華を怒らせてしまった。だからこれは罰なんだ。浮つくんじゃねぇよ、俺。



「ではお兄様、これから……始めます」

「な、なにを……?」

「ふふっ♪たのしいコトを、です♡」



一華に両手で握られていた俺の右手が小指から順番にゆっくりと……焦らすかのようにゆっくりと内側に曲げられていく。

視界が封じられてるからだろうか、今はいつも以上に一華の柔らかく、しっとりモチモチした小さな手の感触が伝わってくる。

この素晴らしい感触は手のひらはもちろんのこと、指や爪まで完璧に丁寧に手入れされていないと出せないものだ。

まさに神の手、いや女神の手。幻想をぶち殺すような手で握手したら消えてしまいそうだ。まぁ一華が俺以外の男の手を握るなんて事は絶対にないだろうけど。


それにしても……いつも手を繋いでいるというのに、それも恋人繋ぎをしているというのに、初めて手を繋いでから約15年以上経った今でも一華と手を繋ぐのは全然慣れないな。

心臓は破裂しそうなくらい鼓動が高鳴るし手汗もハンパないぐらい出る。

昔、そのことを友人に相談したら『バイトしようぜ!』って言われた。うん、意味わからん。



「それではお兄様、挿れますね…♡」

「え……指を!?」

「えぇ♪だってまずは前戯からじゃないですか♪大丈夫ですよー、お兄様は安心して心も身体も全てを一華に委ねてくださいね♡……まぁ今の一華はそれが必要ないぐらい濡れそぼってますけど♪」

「女の子がそんなこと言っちゃいけません!」

「それじゃ、挿れますよー♪」

「無視された!?……え?本当に?本当にするの?ちょっ…!待っ……!?」



一華によって人差し指だけを伸ばした状態にさせられた俺の右手は一華の両手によって導かれて……びしょびしょに濡れている一華の穴に———!!






「……はむっ♡」






———そして俺の右手の人差し指は一華に食べられてしまいました。


うん、わかってたよ。最初からわかっていたさ!こんなオチになるってことはよォ!!

だっていくら久しぶりに一華を本気で怒らせたからといって1年前のあの暴走程じゃないのに一華がこんな普通の日に事をくなんてありえないもんな!


こんなオチになるってわかってたのに……この状況は自分への罰だって言い聞かせてたのに……それでもなお、少し期待してしまった。

色ボケするのも大概にせえよ、俺。反省しろ、俺。



反省……。



反……せ……。




………一華の舌使いエッッッロ!!

なにこれ!?俺の指が溶けちゃいそう!!


そういえば一華ってさくらんぼの茎を口の中で結べてたな。

俺も何度かチャレンジしてみたことあるけど全然ダメだった。

舌の構造が人間離れしてるよ。まさに女神の舌使い。



「……ぷはっ」

「あっ……」



なんて思ってると一華に咥えられていた俺の人差し指が解放された。

一華の唾液によって俺の指がまんべんなく濡れていて……なんか、エロい。

まだ目隠しされているから実際にどうなっているのかは見えないんだけど……見えないからこそ、この濡れた指の感覚が増幅されて指にどれほど一華の唾液が付いているかがよくわかる。


できればもう少し———ってまてまてまて、だからこれは俺への罰なんだって。

落ち着け、反省しろ、俺が昼に犯した罪を思い出せ。

あれからまだ半日も経ってないというのに……俺はそこまで性欲モンスターだったのか?

でもそれはいくら一華に誘惑されてもヤってはいけないというストレスのせいもあって……。


……ってだから待てって、何を一華のせいにしてるんだ俺は!

これは俺への罰なのだから俺が……俺が……!!



「ではお兄様、脚とイスを繋いでる手鎖の鍵はここに置いておきますね」

「え?あ、うん」

「それではお兄様、また明日♡」

「あぁ、うん、また明日……」



そして一華は去り際に唇にキスをしてから帰っていった。

その様子が少し慌てているように感じたのは俺の気のせいなのだろうか。

目隠しを取り、太腿の上に置かれた鍵で脚とイスを繋いでいた手鎖を外す。


こうして、一華が去った部屋には2つの問題が残された。


1つは先ほどまでの行為と最後のキスによって生まれたこの熱く激しい感情をどう処理するか。


そしてもう1つの問題は……




「……この取り外した手鎖、どうしよう……」

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