魂の叫び、心の底の願い
(貞操的な)危機的状況を助けてくれた救世主は行動力溢れるおじさん、一華のお父様だった。
行動力溢れすぎてインターホン押すだけじゃなく力強くドアまで叩いてる。
……これはさすがに近所迷惑じゃない?隣の家の人から
まぁその隣の家がおじさんの家だからいいんだろうけどさ。
一華もさすがに鬱陶しかったのか、スマホの電源を入れ、おじさんに電話をかける。
家の前におじさんいるのに直接話しはしないのね。
「もしもし、お父さん?私今とっても忙しいんだけど」
『忙しっ…!?いったい何をして……いややっぱり言わなくていい!何も言うな!!それはともかく家に帰ってこい!考え直せ!!
「深夜にうるさいよ、近所迷惑だよお父さん。RUDEの社長なんだから世間体気にしてよ。お兄様が社長になる前に会社の評判が悪くなったらどうするの?お兄様には日本一の会社をプレゼントするんだからしっかりして」
『
「私はもう大人だよ。選挙権だってあるしお兄様との子どもだって作れるし深夜に恋人の部屋に居るのがどういうことかも知ってる。それに私はお兄様の許嫁だよ?
『あ、いや、その……ごめんなさい……』
なんか険悪な雰囲気になってきた…。一華からはまたドス黒いオーラが溢れてきたし。
それと、やっぱりおじさんでも闇モード(命名.俺)の一華にはかなわないんだな。普段のRUDEの社長としてのおじさんからは想像もつかないぐらいの慌てっぷりだ。
おじさんの姿は見えないけど、どんな表情をしているかはわかる。
きっと困惑と恐怖が入れ混じった顔をしているのだろう。だって俺も闇モードの一華に問いただされたらそんな顔になるから。
「もう言いたい事は言った?じゃあ切るね」
『待て!………待って!お願い!切らないで!』
数年後には俺の上司、そして俺のお義父さんにもなる人物のとてつもなく情けない声が部屋に響く。
それから数分後、一華の闇モードがようやく収まってホッとしたのもつかの間、一華が電話を切ろうとしていた。
おじさん頑張って!頑張って説得して!
このままじゃ拘束されたままDTを捨てるという男としてなんとも情けない事になりそうだから!
男性としての俺が男のプライドのためにおじさんに助けを求める。
おじさん頑張って!頑張って説得して!
許婿としての俺もおじさんに助けを求める。
結論 : おじさん、俺を助けて。一華を止めて。
『そ、そうだ一華、今夜はずっとお父さんと話をしよう。最近長時間話すことがなかっただろう?だから久々に話し合おうじゃないか。親子水入らずで朝までたっぷり話し合おう、そうしよう』
「そう…切りたくないんだ。なら……私も切らないであげる」
『おぉ!そうか!切らないでくれるか!よし、今夜はずっとお父さんと話し合お———ん?』
通話をスピーカーモードにしてスマホを近くの机の上に置き、俺に近づいてくる一華。
ちなみに、一華がおじさんと通話している最中になんとか音を立てないように拘束を解けないか試してみたけどダメだった。
両手両足が使えないのに逃げ出せるわけがないよね、常識的に考えて。
『ん?なんだ?急に声……ていうか音がよく聞こえるようになって……。これはスピーカーモードか?』
「お父さんの望みどおり、私からは電話を切らないであげるから———邪魔しないでよ?」
『へ?どういうことだ一華?……もしもし?おーい!返事してくれ一華〜!』
そう言うやいなや俺にまたがり服を脱ぎ始める一華。
………って何してんの!?
「ちょっ!?まっ…何してんの!?何やってんの!?何がしたいの!?」
「一華が何をシたいのか……本当はわかってますよね、お兄様♡………そ、れ、と、も〜♪こんな恥ずかしいコトを一華の口から言わせたいのですか〜?」
「いや違っ…!そうじゃなくて!!」
「大丈夫ですよ。例えお兄様がどんな性癖の持ち主であれ、一華は必ずやお兄様を満足させてみせます♪……あ、でもNTRとか露出はダメですよ?だって一華の身体はお兄様だけのモノですから♡」
「あ、うん。俺もそんな趣味持ってないから大丈夫。………だからそうじゃなくって!!」
『ゔおおぉぉおいぃ!!なにやってんだお前らぁぁあ!!!おい真司ィ!!貴様絶対に一華には手ぇ出すんじゃねぇぞぉ!!』
おじさんの殺意が込められた声が部屋に響く。
大丈夫です!手は出せません!だって縛られてるから!!
『おい真司!何がおきているか説明しろ!』
「ベッドに拘束されて半裸の一華に迫られてます!」
『何やってんだ真司ィ!!一華に手を出そうとはいい度胸じゃねぇかぁ!殺される覚悟はできてんだろうなァァア!!』
「俺ぇ!?今の説明で俺のせいになんの!?」
俺の将来の上司、そして近い将来お義父さんにもなる人に対してこんな砕けた口調で話すのはこれが最初で最後だろう。
失礼だとは思うけども、でもまぁそれほど緊迫した状況なのだ。許してもらいたい。
おじさんも気にしてない……というかこの状況では気づいてもいないだろう。
「ねぇお父さん。私、邪魔しないでねって言ったよね?」
『一華!?し、しかしだな…!』
「『しかしだな』じゃないでしょ?何で約束破ったの?……そんなお父さん、嫌いだよ」
『き、嫌い——っ!?』
おじさんの今にも泣きそうな声が聞こえてくる。
そりゃそうだ。だって父親が娘に言われたくない言葉第2位の言葉を実際に言われたのだから。
ちなみに第1位の言葉は『うざい』だそうだ。確かに言われたら泣く自信がある。俺まだ娘いないけど。
……っていうか別におじさんは約束もなにもしていないのだから約束を破ったことにはならないのでは……?
「とにかく、私は今からお兄様と人生で一番幸せな夜を過ごすの。電話はお父さんがどうしてもって言うから切らないであげてるんだから邪魔しないで」
『ううぅぅぅうゔゔゔ!!!』
「本当はお父さんなんかに聞かせたくないんだけど私をお兄様の許嫁にしてくれたお礼に聞かせてあげる。行為中の私の恥ずかしい声を」
『ぅぅぅううううわぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!』
———ブツッ
通話が切れた音と、外からは走る音とともにどんどん小さくなって行く叫び声が聞こえた。
深夜に変な叫び声をあげながら街中を走り回る中年のおじさん。
通報されないといいなぁ……。
「さて、
「今ちょっと言葉の一部に殺意こもってなかった!?………それと、たとえおじさんが何を言っても電話切るつもりだったでしょ」
「えぇ当然です♪お兄様が一華だけのモノであるように、一華もお兄様だけのモノなのですから、一華の恥ずかしい声も、姿も、表情も、全てお兄様だけのモノですよ♡他の人には絶対に見せません!」
独占されるから独占する。
これもまた一種(というか亜種?)の愛なんだろうな。
「そう……一華はお兄様のモノ。お兄様だけのモノ。5歳でお兄様の許嫁になった時から……いえ、それよりずっと前から一華はお兄様だけを見てきました。他の男なんか塵芥ぐらいとしか思ってませんでした」
「一華……」
それちょっと酷くない?
一華は知らないだろうけど、一華が学嘉高校に入学した時から存在する『竜堂一華ファンクラブ(非公式)』のメンバーがもし今の言葉を聞いていたら泣き崩れるだろうなぁ…。
そんなことを思いながら、俺はだんだんと光を失っていく一華の瞳を見ていた。
途中から一華の雰囲気が変わっていた。
だから俺も、覚悟を決める。
「一華の容姿はお兄様のためのモノ。お兄様の好みの格好、服装、髪型にしてきました。お兄様は一華のどんなところを見ても構いません、というか見てください。一華のすべてを」
一華が俺の服を脱がしてくる。
俺はそれを止めることができない。
動かない。動けない。
拘束されているからではなく、精神的に動けない。
だから俺は光が失われゆく一華の瞳をじっと見つめ、話を聞く。
「一華の身体はお兄様だけのモノ。お兄様の好みの体型になるように努力してきました。豊胸体操だって頑張りました。お兄様は一華の身体のどんなところを触れても、揉んでも、舐めても構いません。どうぞ好きにしてください。一華の身体の隅から隅まで、そのすべてを」
俺の両手首、両足首にある拘束具を外し、俺の服を完全に脱がしおえた一華は、今度は自分のパジャマを脱いでいった。
薄暗い部屋の中、田舎特有の澄んだキレイな夜空から届けられる月明かりと頼りない豆電球が一華の綺麗な、完成された美しい肢体を照らしだす。
拘束から解放されたが、逃げようとは思わなかった。
すべて一華のなすべきままに。俺はただ、一切抵抗せずに一華の瞳を見つめ続ける。
「そして………一華の心はお兄様に捧げたモノ。お兄様が喜べば一華も喜び、お兄様が悲しければ一華も悲しくなります。一華の感情は、ずっとお兄様が基準です。一華の生活は、ずっとお兄様が中心なのです」
パジャマを脱ぎおわり、下着にも手をかけ—————月明かりが照らす部屋で、一華はそのすべてを俺の前にさらけ出した。
形の整った大きな胸に、引き締まったお腹、きちんと手入れされている下腹部。
その姿は……俺が今まで見てきた中で、一番神々しく、美しかった。
そして、一華は拘束から解放されたのにまだベッドの上で仰向けになっている俺に覆い被さってきた。
肌と肌が直接触れ合い、その状態のまま至近距離で見つめ合う。
超至近距離で俺は一華の、一華は俺の瞳を見つめ合う。
一華の瞳から光が消えていき、
小さくなって、
小さくなって……
……………急に大きくなって、光の珠となり、俺の頬に落ちてきた。
「お兄様に恋し、お兄様を愛し、お兄様にすべてを捧げて………もしも願いが叶うなら、一華が望むのは1つだけ、
『お兄様の全部が欲しい』
………なのに、
なのに、どうして……っ!
どうしてお兄様は一華だけを見てくれないのですかぁ!!」
それは、一華の心の底からの、魂の叫びだった。
光を失いかけた瞳からは次々と新しい光の珠が生み出され、俺の顔へと落ちていく。
……おかしいとは思っていた。
一華だってこんななんともないごく普通の日を一生の思い出となる特別な記念日にはしたくないはずだ。
なのに一華は焦燥感に駆られたように今日迫ってきた。
それに……瞳から光が失いかけているのに例のドス黒いオーラは出ておらず、かといってピンク色のオーラも出ていない。
一華はひょっとして自分の意思で闇モードになろうとしてるんじゃないか………いや、自分の意思で正常な心を棄て、自ら狂気になろうとしてるのではないか、と。そう思った。
『そうしなければ、正常な心を棄てなければ……今のように負の感情を爆発させてしまうと思ったから』
『自分勝手なわがままを言ってしまうと思ったから』
『大好きな兄に理不尽な怒りをぶつけてしまうと思ったから』
一華がなぜ自分から闇モードになろうとしたのか、俺は一華の許婿であっても一華本人ではないので正確にはわからない。
だけど、今の言葉が、今の叫びが一華が本当に言いたかった事だと。だけど言いたくなかった、言うつもりはなかった事だということはわかっているつもりだ。
『本当は言うつもりのない言葉を言ってしまった』
……そうでなければ、一華は今、こんなにも後悔にかられた顔をしていない。
言いたかった言葉、だけど言ってはならない言葉。
『私は貴方だけを見てきた。貴方のために生きてきた。だから、貴方も私だけを見るべきだ』
なるほど、確かになんとも自分勝手で自己中心的な暴論だ。どこぞのストーカーがこんなこと言ってそうだ。
正直こんなこと言ってくる人はどこか頭のネジが外れているのではないかとすら思う。
だから一華は思ってても言わなかった。
……しかし言ってしまった。俺が、言わせてしまった。
頭のネジが外れるぐらいまで精神的に追い詰めた………この俺が!!
泣きたいほど、叫びたいほどの後悔に襲われる……が、俺にそんな資格はない。
実際に一華が泣いて叫んだ。他ならぬ俺のせいで。
そして今なお一華は泣いている。俺の頬に光の雫を落とし続けている。
それを放置するほど俺は許婿として、兄として、幼馴染として……そして何より男として終わってないつもりだ。
俺のせいで泣いている一華に……俺が泣かせた女の子になんて声をかけたらいいのか少し悩んだが、変な小細工は無しに自分が思ったことを素直に口にする事にした。
本音をただ、素直に直球に。
「一華、ごめん。……そして、ありがとう」
「……………ぇ…?」
まずは謝罪。そして、感謝の言葉。
こんなになるまで一華を追い詰めてしまった事への謝罪と、こんなになるまで俺を愛してくれた事への感謝だ。
俺は一華の幼馴染として、兄貴分として、そして6歳からは許婿として一華のことを想ってきたつもりだったが………ダメダメだ。俺は一華の悲しみにも心の葛藤にも気づいてやることができなかった。
本来なら許婿である俺が気がつかないといけないというのに……!
大いに反省はするが後悔はしない。悔やんだところでどうしようもないからだ。そんな事はただの時間の無駄だ。
しかし、今回は反省する時間すらない。
だから俺は一華を力一杯抱きしめる。
現在俺も一華も全裸のため、抱き合うといろいろとアウトどころかスリーアウトチェンジしまくって試合終了なのだがそんなことはどうでも……よくはない…けどどうでもいい!
今は一華にありのままの姿……じゃなくてありのままの想いを、気持ちを伝える時だ!!
「ごめん…本当にごめん一華…!俺は……俺が合宿に行く時、一華がどんな思いで俺を見送ったのか……どんな思いで俺の帰りを待っていたのか………そして、どれほど強く俺を…俺だけを想ってくれていたのかをちゃんとわかってなかった…っ!」
「……………ばか、バカです、お兄様は大馬鹿者です…!なんで気づかなかったのですか!なんでわからなかったのですか!こんなに好きなのに…!あんなに好きって言ってきたのに!」
本当、俺は大バカ者だ。
俺はこの3日間、いったい何を学んできたというのだ。
商売で大事なのはお客様や取引先といった相手が1番欲しているものと、相手が少しも望んでいないものを見極めることだと学んできたばっかりだというのに!
しかも相手は他人のお客様ではなく幼馴染の許嫁。今は商売の話をしているわけではない……が、俺にとって一華はもしかしたら親よりも長く話した相手かもしれないのに、なぜ俺は一華の心情をわかろうとしなかったんだ!
「ごめん……ごめんよ……一華…!」
「許しません……絶対に許しませんからね、お兄様……愛と憎しみは表裏一体なんです……そして…一華の愛はかなり重いんですよ…?」
「あぁ…わかってる。今度こそ、ちゃんとわかってるからな…!」
「はい……当然です…!大好きです、お兄様……愛しています、お兄様!……うぅ…うわぁぁぁあん…!!」
一華が泣いている。俺の腕の中で泣いている。
泣かせないと誓った幼馴染が、泣かせたくないと思った許嫁が俺のせいで泣いている。
そんな一華を見て、俺はもう一度、この愛しい女の子を二度と泣かせないと心に誓ったのだった。
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