(いろいろと)元気の出る晩御飯


幼い頃、例の結婚約束の直後、俺の人生を変えるあること・・・・が起き、一華は俺の許嫁となった。

だけど、俺の家、鳥羽家は許嫁を持てるほどの高名な家格ではない。ご先祖様もただの農民だから、家に特別長い歴史があるわけでもない。

それなのに、社長令嬢である一華と……日本を代表する超大手会社、『株式会社RUDE』の社長の一人娘と許嫁になるなんて、不釣り合いにも程がある。文字通り、格が違う。

だけど、社長……一華のお父様は、一華の想いを最優先とするとして、俺を一華の許婿に任命した。

本当に一華の幸せを願うなら幼い頃の恋心を信じて将来の結婚相手を既に決めるよりも、恋愛事には親は手を出さずに放っておいた方が良いんじゃないか?とか思うけど、俺としては非常にありがたいので口にしない、っていうかここまできたらもう言える状態じゃない。今言ってしまえば逆に無責任だ。


だから将来、そう遠くないうちに俺は竜堂家の婿養子になる。

一華は一人っ子なので、俺が竜堂家の婿養子になる = 株式会社RUDEの跡取りになる、ということなので、俺はこうして経済系の難関大学に通っているのだ。

不釣り合いなら釣り合うために努力すればいい。格が違うのなら同格になるために自分を磨けばいい。

努力し、磨き、自分を高める。


全ては一華との結婚のために。




「あぁ…♡一華はお兄様を出迎える為ならたとえ体育祭当日でも抜け出してみせます……♡」

「さすがに生徒会長が体育祭ほったらかしたらダメだろ……。………ん?生徒会長なら体育祭の準備で忙しいんじゃないのか?」



何を隠そう、この俺も去年は学嘉高校生徒会の一員だったのだ。……というか一華も去年から生徒会の一員だった。

ちなみに俺は会計で一華は書記。普通なら名門校である学嘉高校の生徒会に入るのは簡単じゃない……が、一華が応援演説してくれたおかげですんなり入ることができた。会計権限で資金を横領してやろうか。

内定欲しさで生徒会に入ってみたけど死ぬほど忙しかったなぁ。特に体育祭とか文化祭とかの時期は忙しさがハンパじゃなかった。

だからこの時期体育祭前の忙しさは元生徒会役員である俺が一番よく知っている。



「確かにやる事は少なくはないですけど、お兄様をお出迎えするためにこの3日間でだいたい終わらせました!それに、面倒だったら体育祭実行委員どもに任せればいいですし。一言『手伝って』って言えば大勢の人が手伝ってくれました」



さすが一華、人の使い方が上手うまい。

去年、生徒会長が助けを求めた時には誰も手伝ってくれなかったのに。体育祭実行委員達も自分達の仕事だけをしていてこっち生徒会の仕事は一切手伝わなかったのに。

去年の生徒会長がフツメンメガネの男だったからだろうな。

やっぱりみんな男なんかよりも一華という超絶美少女を手伝いたくなるもんなんだよ。



「俺を出迎えるためだけにそこまでしてくれたのか…!ありがとうな、一華!!」

「〜〜〜っ!!!お兄様のためなら一華はなんでもできます!なんでもします!なんでも!!………それに、何かしてないと狂いそうでしたから」

「……?ごめん、最後の方ちょっと聴き取れなかった」

「あ…いえいえ、なんでもないですっ!それよりお兄様、ご飯にします?お風呂にします?それともい・ち・か?」

「そんなセリフは一華にはまだ早いって。そうだなぁ、とりあえず飯食いたい」

「わかりました。ではすぐに用意しますねっ♪」



一瞬一華の眼から光が失われたような気がしたけど……気のせいか。


今は……それよりも……それよりも飯だぁぁぁ!!疲れ果てた脳と身体に栄養をぉぉぉ!!!


眠気?そんなものとっくに吹っ飛んだ。

晩御飯にしては早すぎる時間だけど早く食べたい……。合宿疲れのせいで腹減り度合いが下方向に天元突破してる……。

たぶん、というか絶対ご飯は一華の手作りだろう。母さんも父さんも旅行中で家にいないし。

つまり一華の手料理が食べられるんだ。これだけでもう睡眠欲が食欲に勝てる理由がなくなった。

一華の手料理は美味しいからなぁ。きっと愛情がこもってるからだろうな。楽しみだ!!






「……え〜〜と。何これ、甲羅?」

「はい♪今日はスッポン鍋です♡」

「スッポン!?」

「お兄様がお疲れになって帰られると思ったので精がつくものにしました♪鍋には牡蠣も入ってますよ♪」



おぉぉ、さすがは社長令嬢……。食材に金がかかってるぜ……。

そして俺を気遣ってくれる一華マジ天使。

ガチで精魂尽き果てて廃人になりかけてたからな、これはとてもありがたい。



「いただきます!………美味い!!」

「お兄様のお口に合ったのなら良かったです。どんどん食べてくださいね♪」

「おう!……いや〜まさかスッポンがこんなに美味いとは。最初にスッポン食おうと考えた人スゲェな」

「お兄様、牡蠣もどうぞ。はい、あ〜ん♡」

「あ〜〜ん………めっちゃ美味いけど『あ〜ん♡』を自然に受け入れるようになった自分が怖いな……」

「牡蠣は健康にいいんですよ、なにより亜鉛が豊富ですし」

「……?亜鉛ってそんなに身体に良かったっけ?」

「えぇ、そうです。男性ならば特に。だからお兄様は毎日亜鉛をとるようにしてくださいね?約束ですよ?」

「いや、でも栄養も取り過ぎたら身体に悪いような———」

「排出も多いので大丈夫です」

「お、おぅ、わかった。食べる。………まぁそれはともかく聞いてくれよ〜、一華〜。合宿中こんなことがあったんだぜー」



なぜだかわからないけどなんとなく何か不穏なものを感じた俺は一華に合宿中の出来事について話した。

決して一華の謎の迫力にびびって急に話題を変えたわけではない……と、思いたい。



一華に合宿中何があったのかを話す、話す、事細かく話す。

昔、この3日間の合宿のように、『長時間一華と離れ離れにならざるを得ない場合には、後で何があったのかを事細かく説明すること』って一華に約束させられ……約束したからな。

もちろん話す内容に嘘はつかない。

なんでだろう。最初から嘘をつく気はカケラもないのだけれど、もし万が一にも嘘をついたら取り返しのつかない事になりそうな気がする。俺の本能が『それはキケンだ!』とガンガン訴えかけてる。



「チーム別早解き競争でお兄様が真の実力を発揮できなかったせいでお兄様のチームが最下位になり、その時誰かに舌打ちされた……と。わかりました、そのチームにいた全員を八つ裂きにすればいいんですね?」

「違うから!?そんな物騒な事しなくていいから!!」

「お兄様がそう言うのでしたら……。………命拾いしましたね、有象無象ていのう共。お兄様によって与えられたその命、お兄様の為に役立てなさい」



ふぅ、危ない危ない……。

一華はたまに今のように暴走してしまう事がある。

しかも、その時の一華はだいたい瞳に光が無くなってドス黒いオーラ的な何かを出してるような……。

いやいや、そんなわけはない……はず。オーラなんて見えるわけがないし、瞳から光が消えるわけもない。

すべて俺の気のせいだな、うん。



「それよりも一華、一華の方はこの3日間どうだった?」

「そうですねぇ……悪夢のような3日間でした」

「何かあったのか!?」

「えぇ、3日間もお兄様に逢えなかったんですよ?これはどんな拷問なんですか?これほど神とかいう奴をぶっ殺……コホン!滅したいと思ったことはありませんよ」

「え…?あ……うん。そ、そうなのか……」

「それに、体育祭が近いからって浮かれた奴等やつらが何かとちょっかいかけてきたのが死ぬほど鬱陶しかったです」

「……そうなのかー」

「アイツら、お兄様が学校を卒業してからワラワラと蟻のように湧き出てきては私に近づいてきて……とんでもなく邪魔です。お兄様のいない学校など行く意味も価値も無いのに……。どうして私はまだ高校生なんでしょう。さっさと卒業して早くお兄様と同じ大学に通いたいです。というかこんな高校なんてさっさと中退して今すぐ結婚しましょう、お兄様。そうすればお兄様と一華はずっと永遠に永久に末長く一緒にいられます」



さらっと合格宣言ですか。一応慶就大学は経済系の日本トップクラスの大学なんだけど……。

けどまぁ俺も一華が入試に落ちるなんてカケラも思ってない。内申点も成績も完璧で、落ちる要素が見当たらない。もし落ちたりでもしたら抗議しに行くぐらいだ。

あと結婚についてはまだ早い。せめて俺が大学を卒業するまで待って。


それにしても……一華がこんなにもイライラしてるのは久しぶりに見た。

それほどこの3日間が一華にとって苦痛だったのだろうか、後で愚痴でも聞いてたくさん慰めてあげよう。




スッポン鍋はスープ含めて全部美味しくいただきました。スッポン超美味うめぇ。

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