第80話「黒き女は、激昂する」
───さぁ! 第二ラウンドだ!!
頭上から降り注ぐ声に顔を歪めるエリカ。
それを楽しむように、中年のエルフが落下傘で無防備に降下する。
フワリフワリ……!
「こっの!」
怒り狂うエリカの目の前で、撃ってこいと言わんばかりに落下傘を展開したバーンズ。
「カカカッ」と、不敵に笑うその顔!!
その表情を見たエリカは怒り狂って───。
「舐めるなと言ったぁっぁああ! ガンネルっ」
ジャッキン!!
ガシャガシャガシャガシャ!!
エリカの持つ武器と、大量のガンネルが一斉にバーンズを指向する。
一点集中!
飽和射撃!!
「今度は蜂の巣にしてやるッ」
「おっと~!」
ズダラララララララララララララララ!!
ダラララララララララララララララッ!!
猛烈な銃撃が指向され、さながら火山の噴火ように噴き上げる!
そして、バーンズを撃ち抜くかに見えた。
「カッカッカ! 甘い甘い!」
だが、奴は落下傘のバンドを外すとスルリと、抜けでて再び自由降下。
『『ぎゃあぅ!?』』
エリカとガンネルの銃撃は付近を降下中のエルフを撃ち抜くだけでバーンズを途に逃がしてしまった。
「ち! こっのぉ……!」
ガンネ───。
エリカはガンネルの床を解除して、バーンズを追って自由降下───……しようとしたが、その瞬間に目を疑う。
「な!! ど、どうやって───?!」
「ははっ。これが本当の時空魔法の使い方さ───……覚えておくんだな、分裂娘。いや、」
ニィと笑うバーンズ。
「───対エルフ、対時空魔法のガンネルコマンダーよ!」
「き、貴様ッ!」
なぜそれを?!
「さぁねぇ……?」
エリカの言葉が口をつく前に、弓を構える。
自由落下しようとしていたエリカの真下には、バーンズがいて……。
なんと!! 他の空挺降下中のエルフの落下傘の上に乗ってエリカを見上げているではないか。
「ば、ばかな?!?!」
なぜ空で静止できる?!
落下傘はなぜ落ちない!?
なぜ───…………。
「カカカッ」
そして、手に持つ弓を──────シュパァァン!!
「がぁぁあ!」
首を貫く一撃にエリカの悲鳴が漏れる。
しかも、ご丁寧に強化魔法の一撃───! ゴキリと首が嫌な音を立てて曲がる気配。
視界が横転し、口の端からスーっと血が垂れる。
「がふっ……」
姿勢を崩したエリカは、ガンネルに支えられつつも高度を落としていく。
それを追うバーンズが、
「対エルフ、対時空間魔法。ようするに、だ。分裂娘……、お前は俺の天敵───って奴だろ?」
トンットンッ!
と、軽やかなステップで、次々に「時空を止めた」エルフ空挺兵の落下傘を伝って降りるバーンズは、ついにエリカに追いつく。
「だけど、天敵ならさ───なおさら研究するもんだろ? お前さんが寝てる間、俺もずっと考えていたんだよ」
「き、きさ、ま……」
ブクブクと血の泡を吐くエリカは、超回復が間に合っていない。
いつものエリカならとっくに───。
(な、なんで?!)
「少ーし、お前の時間を遅くした。……それくらいなら気付かないだろ?」
そう。
エリカは回復はしていた。
だが、その速度が著しく遅くなっていたのだ。
しかし、それだけに回復しているのは事実だ。
だからこそ、気付くのが遅れた───。
いっそ、時を止められていれば分かったものを……!!
「こ、の……」
「ほい! 仕上げ───」
スタンッ!! と最後の一歩を飛ぶバーンズ。
奴は、地表近くまで落下していたエルフ降下兵の落下傘の時空を止めて乗っかると、剣を引き抜きエリカの首を───ぞんっ!! と切り落とした。
「が──────……」
目をぱちぱちと、しぱたかせながらエリカの生首が舞う。
そして、首と切り離された胴がグラリと傾く───。
しかし、ガンネルがエリカの胴に乗り移ると、人格が彼女の身体を掌握する!
そうとも、エリカ・エーベルトはこれくらいでは死なな……。
「ま、これくらいじゃ死なんよな~」
「ガンネル───なに?!」
スパンッ!!
「がぁ?!」
さらに舞うエリカの首!
だが、死なぬ!!
「ガンネルッッ!!」
「ほい! もう一丁」
スパンッ!!
「かはぁッ……」
「はっはっは!! 甘い甘い甘い! それで、対エルフ、対時空魔法だぁぁ!? それはすなわち、対「俺」だということだろうがぁぁあ!!」
高速の剣技で何度もエリカの首を撥ねるバーンズ。
エリカがガンネルの予備システムで復活しようとも、遠慮など一切しない!
ならば、
「「「「「体がなければ反撃できないと思ったのかしらぁっぁああ?!」」」」」
ガンネルの本領発揮!!
全てのガンネルはエリカの意志を共有している。
だから、プラットフォームにしか過ぎない身体にこだわる必要はない!!
「カカカッ! それを待っていたんだよ───来いよ、分裂娘」
「「「「「黙れぇっぇえええ!」」」」」
ズダダダダダダダダダダダダダダダ!!
ズダダダダダダダダダダダダダダン!!
一斉射撃!!
これが躱せるかぁぁぁ?!
「「「「いっぺん、死ねぇッ!!」」」」
「カッ! こんな奴を封印するために、しょっちゅう刑務作業させられていたとは。まったく呆れるね」
バーンズはまだ降下中のエルフ兵の胸元に飛び込むと、
『な、なんだお前は?!』
「黙れ」
パパッパッ! と一瞬だけ輝く魔法陣を中空に描き、時空魔法を発動ッ。
『離───』
……エルフ兵の時空を止める。
それは効果範囲内の「全ての時空を止める」もので、風をはらんだ落下傘ですら例外ではなかった。
そこに飛来するエリカの銃撃───。
パキキキキキキキキキキキキキン!!
パキキキキキキキキキキキキキン!!
「ば、バカな!! ただの布が弾き返すだなんてッ?!」
「カカカッ! 『時空を止める』ってのはそういうことだ。時間から
バーンズはエルフの兵士を盾にして銃撃を防いでみせ、エリカの攻撃を嘲笑う。
「時空を止める……? 分裂娘……? 寝ている顔を──────……。ま、まさか、お前!!」
「カッ、今頃気付いたか? そうさ……」
時の神殿を丸ごと時間停止し、エリカを封印していたクソ魔法。
そう、
そのクソ魔法とエルフの術士───……!!
「───お前かぁぁああ!! アタシを封印したのかぁぁああああああああ!!」
「はっはっはっはっはっは! おっせぇぇえんだよ、気付くのがぁぁぁあ!!」
殺すッッッッッッッ!!
アタシの愛しい人々を時空の彼方に追いやった憎き怨敵!!
そうだ、そうとも、そうするともさ!!
───だから、アタシがお前を殺す!!
アタシにはその権利が、
アタシにはその理由が、
アタシにはその意地が、
アタシの。
アタシの……
アタシの───
アタシの時間を、
「───返せぇぇぇっぇええええええええええ!!」
全てを知ったエリカは激高し、ガンネルを夜空に展開すると、全火力を解放せんとす!!
「「「「
ジャキジャキジャキ!!
いつもの機関銃ではなく、それほ飛び切り強力な火力だ!!
そう。ガンネルからはニョキリと太い筒が顔をだし、バーンズを指向する!!
そして、
「お前も1000年眠ってみろぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!」
「はっはぁッ♪」
何十という、
「「「「「
バーンズ目掛けて発射された───────!
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