第79話「黒き女は、空戦する」

 風のように、大型飛竜に登場したエリカ。

 ニッコリ笑って、


「はぁい♪ ご搭乗のエルフの皆さまぁ! あちらをご覧ください、」


 ズガガガッガガガガガガガガガガガガガ!!


「───こちらが地獄となっておりまぁす♪」


『『『ぎゃああああ!!』』』


 突如響き渡る破裂音に、エルフ空挺兵の叫びが混じる。

 見れば、飛竜の左側面から降下したはずの、エルフ空挺兵の半分───約10名の彼等が頭上から撃ち抜かれて絶命。


 降下姿勢のまま、ただの肉の塊となって地上に消えていった。


『んなっ?! お、女ぁ? ど、どど、どこから……いや、何をした!!』


 その狼藉を見たゴルガンが驚愕!

 舞い降りた黒衣の女に慄き叫び声をあげた。


 そして、

 飛竜に残っている操縦手や小隊長のモルガン達も、皆一様に驚愕している。


 そりゃぁ、そうだろう。


 大空を支配していたはずの飛竜に───。

 信じられないが、突如として女が出現。

 いや、空から降りて来た・・・・・・・・のだ!!


「いやぁ、どーも、どーもぉ♪ 下等生物でぇす。本日は御日柄も良く、エルフの皆々様にとかれましては、よくぞダンジョン都市までお越しくださいました。つきましては…………そして、」


 そのうえで、エリナは大型飛竜の上でクルリとバレエのように一回転しつつ、おどけて一礼。


 そして───。


『こ、コイツ!!』

『ど、どこから来た?!』


 しかし、エルフ達はノリが悪いのか慄くばかり。


 ───あはッ♪


「……そして、死ねッ───死ね!! 死んでしまえ! 愚にも劣る、薄汚いエルフめッ」


 ジャキンッ!!


 両手をクロスして、バカ長い武器大型機関銃をエルフ達に向ける。

 それだけでエリカのボルテージは最高潮!!

 当然、エルフだって黙ってやられるはずがない!!


『ざっけんな!!』

『一人でここまで来るとは良い度胸───やれぇ!!』


 小隊を指揮するモルガンが抜刀すると、


「月並みなセリフをありがとう─────」


 だーかーらー……死ねッ!!

「死んでちょうだい、森のエルフさん!!」


『さ、させるか!! 切れ、斬れ、キレぇぇええ!!』


 ゴーグルをかなぐり捨てたモルガンが、残った乗員とともに一斉に突撃を指示。

 抜刀した剣を振りかざし、エリカめがけて突っ込むと、彼女を切り裂かんとする。


『『『うおおおおおおお!!』』』


『ば、馬鹿者! 迂闊に近づくなッ! ま、魔法を───くっ……!』


 大型とはいえ、飛竜の背中の上は狭い。

 その上を抜刀したモルガン達が愚直にも一直線突撃するのだ。


『モルガン! くそ、味方に当たるか……』


 おかげで味方の背中が邪魔でゴルガンの魔法が放てない。

 それをあざ笑うのは、

『かっかっか! 実戦経験がないから、こういうことになるのさ。精鋭かと思ったが、所詮はスポーツ少年団だな』


 ぎゃはははは、と大口を開けて笑うバーンズにゴルガンは苦々しく顔を歪め、口汚く罵ろうとしたその瞬間ッ。


『『『ぶっ殺せぇぇぇえ!』』』

「アンタたちじゃ無ぅ理ぃ!!」


 ズダダダダダダダダダダダダダダダ!!


 激しいマズルフラッシュが瞬き、エルフの精鋭たちをズタズタに切り裂いていく。


「あはははは! エルフがいっぱい死ぬよぉ♪」


 エルフがいっぱい死ぬよぉ!

 あはははははははは!!


 それは無慈悲な攻撃だ。

 一直線に並んでいた愚かなエルフを順繰りにバタバタと薙ぎ倒しつつ、徐々に徐々にゴルガンまで迫る!!


『うぎゃああああ!!』

『あべしっ!』


 直撃を受けたエルフ精鋭が、もんどりうって、飛竜の上から転がり落ちていく。


『なんだとぉぉおお?! どうやった?!』


 数名が討ち倒されたところで、ようやくモルガンが防御戦闘を指示。


『ひぃ!! け、け、結界をぉおお!!』

『『りょ、了解!!』』


 バチバチバチと青白く輝く障壁を展開し、エリカの銃撃から身を護ろうとする。

 

 だが、

『ば、馬鹿者! 邪魔だ!!───ええぃ、バーーーーーーンズ!!』

『あぃよッ!』


 モルガン達の稚拙な戦闘に業を煮やしたゴルガンがバーンズを呼ぼうとしたそれを、

「あは! いたぁ♪ 指揮官っぽいのみ~~っけ!」


 しっかり、ちゃっかり見ていたエリカがニッコリ微笑む。

 その目は、ゴルガンの立場を看破する。


『ひぃ!!』


 その凄惨な笑みに恐れおののくゴルガン。


『な、なにをしている! 数で押せッ! 殺せっぇええ!』

「たった数人で、なぁに言ってんだか……」


 ガシャキ!!


『怯むな! 防御結界を展開しつつ、前進ッ。奴を落とせぇぇ!!』

『『ハッ!』』


 数名のエルフ兵が、青く輝く障壁を展開したままエリカを押しつぶそうとして、

「効くわきゃないでしょ───」


 ズダダダダダダダダダ!!


 至近距離で乱射に次ぐ連射!!


 バギバギバギバギバギッ!


 あっというまに障壁にひびが入って行き…………。


『ひぃいいい!』

 ───ぱりぃぃいいいんん!!


 と、簡単に砕け散ってしまった。


 オマケに、勢い余った銃撃が障壁の後ろにいたエルフを撃ち抜き、

 そのまま銃撃の勢いのまま、ゴルガンを撃ち抜かんとする……。

「これで、終ーわーりー」


 ズガガガガガ!!


『よ、よせぇぇぇえええ!!』

「うふ。よさなーーーーーい♪」


 スガガガガ───……キィン!!


「な?!」


 突如、硬質な音を立てて銃撃が弾かれてしまった。あまりの唐突の出来事にエリカが目を丸くする。

 しかも、それを防いだのはなんと──────も、モルガン?!


「ば、ばかな! ただのエルフが───」

『よう、久しぶりッ』


 そう言って、のっそりとモルガンの背後から現れたのは、中年のエルフ───バーンズだった。


 彼はモルガンの襟首をガッチリと握り込んで、まるで盾のように構えると、エリカを見てニヤリと笑う。


「おっと、あーあー……あー! こっちの方がいいか? 言葉通じるよな?」


 流暢に人の言葉を話すバーンズは、どうやらエリカの顔を知っているらしいが……。


「お、お前誰だ?! ど、どうやってアタシの攻撃を───」

「さぁねえ?───だけど、お嬢さん。ちょっ~とばかしおイタが過ぎるぜ……!!」


 ドンッ!! と、モルガンを構えたまま、飛竜の背を蹴ってバーンズが疾走。


 あろうことか、モルガンを盾のようにして、エリカに突っ込む。


「く!」


 しかし、その予想外の動きにエリカが驚き、バックステップ。

 だが超反射をみせると、ズダダダダダダダダダダダダダダダ! と、連射連射連射ぁ!!


「カカカ! 無駄無駄無駄ぁぁあ!」


 キィン、カァン、キン!!


「ば、ばかな?!」


 高笑いするバーンズ!

 そこに煽り立てるように、エリカの銃撃が耳障りな音を立てるも、モルガンに当たって全てが跳ね返る。


 カカカ、カキィン!!


「ど、ど、どうして!!」

「さぁ、どうしてだろうな? クカカカッ」


 こ、コイツ……!


 ここに来て初めてエリカの顔が焦りに歪む。

 その顔を見て、愉悦だと言わんばかりにバーンズが嘲笑う。


「カッ。いいねぇ、分裂娘ぇ! その表情───いつ見ても可愛いじゃないか?」

「は? 何だと貴様───……! アタシは、お前なんて知らないわよ!」


 エリカは見ず知らずの男に笑われることに不快感を覚える。

 だが、どうしてだか、ただの挑発だとも思えなかった。


 なぜなら、

「……さっき、分裂娘とか言ったな? お前は、まさか───」

「おうよ。よーく知ってるぜ───……っと、その前にそろそろ限界かな? なんせ、慌ててたからな」


 ピク───と、盾にされていたモルガンの体が動く。

 あれ程銃弾を食らったにも関わらず無傷のままのモルガンが、ピクリピクリと……。


「え?」

 あ、あの動き───……まさか!!


「お、お前!! まさか、その男の『時』を止めたのか?!」

「正解ッ!! そして、なんて言ったっけ。たしか、───「死ね、愚にも劣る、薄汚いエルフめッ」だったかな? 同感、だ……ねっと!!」


 ブンッ!


「ぐ!! この!」


 思いっきり投げつけられたモルガンの体を払いのけ、さらには銃撃で撃ち抜いて見せる。

 また、跳ね返されるかと思いきや……。


 モルガンが突如動き出す。


『な? なんだ───ここは?! って、ひええぇ!』


 ズダッダダダダダダダダダダダダ!


『ぎゃあああ!』


 ブシャァァアアアア! と、モルガンの体が破裂して血煙が吹き上がる。


「な?!」


 そのため、一瞬ではあるが視界を覆われてしまったエリカ。

 思わず顔を覆った、その瞬間ッ!!


「カカカッ! 戦闘中、敵から目を逸らすなッ───小娘ぇぇ」

「げぅ!?」


 ドコォ!! と、思いっきり腹に衝撃を受けたエリカが飛竜から投げ出される。

 身体を「く」の字に曲げて無防備な格好で、空へと───。


『や、やるじゃなぃか、バーンズぅぅぅうう!』

「はっはっは! どーんなもんだぃ♪」


 そこにゴルガンのご機嫌な声とバーンズの笑い声が降り注ぎ、


 憎々しく飛竜を見上げるエリカ!!


(ちくしょう!!)

「ちくしょうーーーー!!!」


 胸中の思いを吐き捨てるも、猛烈な勢いで落下していくエリカ!


 そこに、先に降下したらしき、エルフの空挺兵の姿が。

 彼等ををビュンビュンと落下の速度で追い抜いていくと、驚きの表情で見送られる。


 いつの間にか、周囲は白い絹でできた袋のようなものを頭上にまとったエルフで一杯だ。


「邪魔だ、失せろぉ!!」


 ズダダダダダダダダダダダダダダ!!


『『うぎゃぁあああ!』』

 空挺降下中のエルフを容赦なく撃ち殺していくエリカ。

 しかし、それくらいでこのムカつきは収まらない。


 落下速度も止まらない!!


 だから、彼女は叫んだ!!



「───ガンネルっっっ」



 ぶわっ!! と、無数の球体が現れ、エリカの体を包んで落下の衝撃を殺していく。

 そうして空中で制止して見せるも、顔を歪めてエリカが咆哮した!!


「このクソ野郎!! 今すぐぶっ殺してやらぁぁぁあああ!」

「はーっはっはっはっはっはっは! まだまだ甘いなぁ、分裂娘ぇ」

 

 高空を見上げれば飛竜に乗ったバーンズが高笑いをしている。

 そうして、俺の勝ちだと勝ち誇っている。


 それがムカつく!!


 ムカつくから降りてこい!!

 降りてこいよ、クソエルフがぁぁぁああ!!


 まだ勝負はついちゃいねぇぞぉぉお!!




「──────おうよ!」




 バッ! と飛竜から身を投げたバーンズ。

 その様子を見て、さすがにエリカも目を剥いた。

「な? うっそ……!?」

 まさか本当に降りてくるとは、思ってもみなかった。だから驚く。

 そして、その驚きの表情すら楽しまれていることに気付いてエリカが顔を紅潮させる!


「な?! あ、あ、あ、アタシを舐めんなぁぁぁあああ!」

「カカカっ」


 バーンズは、落下速度のままヒュルヒュルと自由降下し、エリカのすぐそばまで来ると、



「───第二ラウンド開始と行こうか? 分裂娘」



 ボンッッ!! と、エルフ空挺兵ご用達の、シルクの落下傘を開いて降下速度を相殺して見せた……。



 さぁ、空中戦の開始だ!!!

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