第76話「【タイマー】は、命令する」
ドォォォォオオオオオオオン!!
ドォォォォオオオオオオオン!!
ドォォォォオオオオオオオン!!
雷鳴のような音がダンジョン都市にこだました。
そして、音を背景に赤々と思えがる炎と黒煙。
「な、なんだ?!」
「エルフよ。ちょっと察知が遅れたわね……ごめんなさい」
エリカは黒い帽子を真深に被りなおすと、コートから
「え、エルフ? うっそ……。まさか、だって───先日……」
「いえ、本当です。我々もついさっき気付いたばかりです。もしかしたらルビンさんなら既に知っているかと思ったんですが───どうやら当てが外れました」
ガックリと肩を落としたセリーナ嬢。
よくよく見て見れば、彼女はいつものギルドの服ではなく、可愛らしいデザインの私服だった。
「あてが外れたって……。え。っていうか、もしかしてセリーナさん。ここに泊まってました?」
「はい。監視も兼ねて隣に───……」
おっふ。
それ、ほぼストーカーやん!
「俺のプライバシーとかないの?」
「ありません。申し訳ありませんが、事情が事情なのでギルドに戻ります。ルビンさんも準備を整えてギルドに出頭してください───恐らく、緊急依頼がでると、」
ありませんって、言い切ったねこの人?!
ドォォオオオオオオオオオン!!
「きゃあ!!」
「にゃわぁぁあ!!」
すぐ近くで爆発が起こり、隣の宿屋が炎に包まれる。
その爆風と音に驚いたセリーナ嬢とレイナがゴロゴロと転がり床で目を廻してしまった。
「ひ、ひっぇええ……。ほ、ホントにエルフなのか? 無茶苦茶しすぎだろこれは……!!」
ルビンが窓際に駆け寄り空を仰ぐと、確かに上空には何か巨大なものが多数浮いている。
それらが街の炎上に赤々と浮かび上がっていた。
「あ、あれは……ドラ」
「主。アタシ──────私は、アナタに従います」
(───あ゛)
突如改まった口調のエリカ。
「いきなり、なん───」
カツンッ!
と、エリカは靴音を立てて時計の芯のように直立すると、
「主……。私はアナタが世界を滅ぼせというなら滅ぼしましょう。エルフを滅ぼせというなら滅ぼして見せましょう」
「な、なんだよ、いきなり改まって……?」
ルビンの戸惑った口調にも、エリカは真面目な表情を崩さない。
それどころかいつもの飄々とした空気はどこへやら、まるで初めて出会ったときのようにまるで人間味を感じさせないその表情で言う。
「主。私は時の遺物です。私にとってはほんの数日前の出来事でも、もはやそれは過去の出来事です───。主、私はこの時代にいることは本来許されないものです。主───私は、」
私は───!!
何か思いつめたようなエリカの表情を見て、ルビンの感情がチリチリと疼いた。
(これは知ってる顔だ……)
あの時、
あの日々……。
あのパーティで───。
「………………エリカ」
ルビンはエリカの言葉を遮る。
「……お前が何を言いたいのか知らないし、俺に何を求めてるのか知らない。だけどな」
だけど。
「お前が過去の人間だとか、遺物だとか、この時代にいないだとか、さ……。そう言う難しいことは俺には分からないし、知りたいとも思わない」
「
ハッと、した顔でルビンを見つめるエリカ。
その顔の美しさに今更ながら気づいたルビンは少し照れながら、頭を掻く。
「いや、何を言おうとしてるんだろうな俺───……ただ、なんて言うか。正直、お前がいると迷惑だし、空気読まないし、飯代はかかるし、部屋は狭いし、怖いし、強いし、無茶苦茶だけど───」
「い。言い過ぎでは?……いや、ご飯の件は、はい、その」
「だけど、お前は別に悪い奴じゃないと思うぞ? なんだかんだで街中では大人しくしてるし、そ、それに美人だしな」
あ、いや、最後のは関係ないか……。
「あー。なんて言いたいのかわかんなくなっちまったけど、急に改まって自分の覚悟だとか、居場所を確認なんかするなよ? 何時もみたいに
ひゅるるるるるるるるるるるるるるるる……ドカァァアアアアアアアアン!!
ビリビリと宿屋が揺れる。
目を廻していたレイナとセリーナが漸く起き上がり、キョロキョロとあたりを見回している。
ボゥ!! と一際大きく窓の外が燃え上がった。
「───……俺は、こんなことをする奴らを許せない。アイツらの目的が何か知らないけど……。もしかして先日のエルフの件の報復なのかもしれないけど───」
グッと唇を引き結んだルビンは言った。
「だけど、エリカ!!」
「
パシンッ!
気をつけの姿勢のまま、エリカ・エーベルトは敬礼する。
「エリカ……。街を救おう。もしかして俺達の……俺のせいかもしれないけど、それは街を救ってから考えよう!」
だから、頼む!
───エリカ!!
「エリカ、お前は『時』を倒せる。……エリカ、お前は過去の遺恨を忘れられないエルフを倒せる。……エリカ、お前はこの時代に必要だ」
だから、聞いてくれ!
エリカッッッ!!!
「やろう……。やろう!! やってやろうぜッ!! 俺の命令が欲しいならくれてやる。くれてやるからよく聞け───!」
「
カッ!
「エリカ・エーベルト! お前はこれより、この街を護れ!! そして、街を害するものがいるなら、それが誰であっても打ち破れ!……エルフ? 知らんよ! 俺たちの敵は、街を焼く
「
ひゅるるるるるるるるるるるるるるる…………。
「行けッ! エリカ!…………行ってくれっっ!」
「
ダンッ!!
エリカ・エーベルトは出撃する。
足を踏み出し、窓を開けると、空を舞い狂う飛竜を見据えて──────!!
奴らの落とす、糞が如き
大きく息を吸って、晴れ晴れとした顔で燃える空に向かって叫んだ!!
「あっはっはっはー!……ハンッ!! 時代遅れのエルフさん。アタシの街に汚ねぇもんばら撒いてんじゃないわよッ!! ガンネルッッッ」
バッ!! と空に身を投げる。
街の炎上に晒されて金髪がキラキラと輝いている───……。
それをルビンと、レイナと、セリーナ嬢が茫然と見送った。
「エリカねぇ、きれー……」
「あぁ……」
「ホントに……」
ビュウビュウ! と風を切る音と共にエリカ・エーベルトは出撃していった。
ガンネルを、空の先へ先へと先行させると、トンットンットンッ! とガンネルを足場に空を駆け上がるエリカ!!
そして──────……ひゅるるるるるるるるる。パシッ!!
「森の♪ エっルフさぁ~~~ん♪ 落としものでぇすよぉぉお♪」
あ、そーれ───てぇい!
エリカは落下中の炮烙玉をつかみ取ると、手が焦げるのも厭わずに大きく振りかぶって──────投げました!!
きーーーーーーーーーーーーーん!! ボンッッッッ。
『『『『ぎゃあああああああああ!!』』』』
それは狙い違わず、エルフが騎乗する飛竜に直撃し、未だ飛竜の背中で炮烙玉の準備をしていたエルフの空挺部隊に直撃する。
『『『『あぎゃああああああ! あーーー……』』』』
ボウボウと燃え盛る炎。
背中を焦がす炎と、小うるさいエルフに辟易としたのか、燃え上がる飛竜が身を捩ると、黒く焦げた何かがボトボトと背から落ちていく。
おかげでその周辺だけが明るい明るい!!
炮烙玉が炎上し、その明かりに照らされた飛竜が一際大きく吼えるッ!
ギィェエエエエエエエエン!!
「んふふふふ~。可愛いトカゲだこと。でも悪いけど、主に言われたの───。……街を害するクソゴミエルフと、その配下をボロックズにしてやれってねぇっぇええええええええ!!」(そこまで言われてない)
───ガンネルッッッッ!!
ブワリ、エリカの周りを覆った無数の黒い球体!
それはエリカの影から現れるように浮かび上がると、まるで彼女に生えた羽根のように……。
そいつらが一斉にジャキン!! と銃身を口から出す。
そして───。
「
ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!
ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!
ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!
エリカの号令でガンネルが一斉射撃!!
そこに、エリカの構える二挺の武器も同時に加わり、さながら街に落とされた炮烙玉を巻き戻しで空に返したかのような光景だった。
いや、違う。
もはやその火力は、炮烙玉を落とすだけのようなそれとは違い、まるで活火山のようだ!!
エリカの放つ、7.92mmの銃弾がダンジョン都市の空に映える!!
「あははははははははははははははははははは!」
エルフがいっぱいいるよー!
エルフがいっぱいいるよー♪
「あははははははははははははははははははは!」
ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!
ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!
ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!
エリカの戦いは始まり───ダンジョン都市の長い夜もまた、今はじまる……。
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