第77話「黒き女は、滑空する」

 ズガガガガガガガガガガガガガ!!

  ズガガガガガガガガガガガガガ!!

   ズガガガガガガガガガガガガガ!!


 エリカの構える武器から大量の火箭が迸る。


 それは面白いくらいに飛竜の腹に吸い込まれるようにして命中していき激しく火花を散らす。


「あははは、かった~~~い♪」


 さすがはドラゴンの眷属。

 鱗の硬さもドラゴン譲りだ。


 だが、エリカは少しも焦らずその飛竜にはもうはや目もくれず、次の獲物を探して空を闊歩する。

 なぜなら……。



 ご、ゴァァアアア…………。



 あれほど頑強を誇った飛竜が飛行姿勢を怪しくして空を迷走する。

 そのまま、後方から来た僚騎に圧し掛かるようにして二騎とも落下。


 燃え上がった家屋に突っ込み、騎乗していたエルフごと爆散炎上した。


「ふふふ。いくら外皮が固くても中身はタダのトカゲ───。連打を同じところに浴びてちゃ耐えられないでしょ♪」


 そして、さらに一騎へ、


 スタン!!


「は~ぃ♪ おげんこ?」


 ニッコリと、さわやかな笑みを浮かべたエリカは低空を流し飛びしていた飛竜の一騎に飛び移っていた。


『な、なんだ?!』

『お、女だとぉ?!』

 空爆準備をしていたエルフ達が唖然として口をあける。

 だが、

『───怯むなッ。叩き落とせぇぇぇえ!』


 小隊長らしきエルフが器用に飛竜の背の上で立ち上がると、細剣を抜いてエリカに切っ先を向ける。


『りょ、了解!───女ぁ、覚悟ッ』

『この下等生物がぁぁああ!!』


 不安定に揺れる飛竜の真上で、なんとか立ちあがたエルフ達。

 手に手に剣に弓を構えるとエリカに向かって──────……。


「あ、そういうのいいから───さいなら~♪」


 ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!



『『『ぎゃあああああ!』』』



 至近距離で連打を浴びたエルフ兵達がボロクズのようになって空を落ちていく───。


「んん? あらぁ、変わった装備ね……? コイツらもしかして───」


 落ちずに残ったボロクズにようになったエルフ兵の死体をゴロンと転がすと、そいつの身に着けている装備に目を光らせるエリカ。

 

「まずいわね……。ただの空襲部隊かと思ったけど、これはもしかして……」


 エリカは苦々しい顔でそのエルフ兵を蹴り落とすと、代わりに飛竜の背中に、ゴトン! と、コートから取り出した酒瓶のお化けのようなものを放り出しつつ言った。


「あいあーい。ごめんなさい、トカゲさん。あまり時間がないみたいなのぉ───だから、収束手榴弾で乾杯っ」


 ピィン♪


 慣れた手つきでピンを抜くと、エルフ達が使っていた座席に手榴弾を固定すると、そのまま飛竜から舞い飛び、空へと身を投げる。


 ヒュルヒュルと風を切る音を聞きながら───「ガンネルっ」


 自らの分身でもある黒い球体───ガンネルを空に並べると、スキージャンプ台のようなスロープと化して滑り降りる。


 そして、落下の勢いと相まって、そのスロープを高速のまま滑り……。


「とぅ♪」


 バタバタバタッッ!!


 エリカがコートをはためかせ、蝙蝠のように夜空を舞っている。

 その背後では、ズドォォォオオオオン!! と、大爆発。


 ギィィエエエエエエンン!!


 爆炎に包まれた飛竜が一騎叫び声をあげながら錐もみ状態となって街に落ちていく。


 しかし、それを見送ることもなくエリカは飛ぶ───……いや、跳ぶッ!!


 空を舞い飛び、懐からドデカイ銃剣を引き抜くと、二手にかまえた二丁にそれぞれ装着!!


 そいつをクロスに構えて夜空を舞う!!


 そして、縦横無尽にガンネルを駆使して、女は飛ぶ、跳ぶ、翔ぶ───!


 そして、撃つ!

 そして、刺す!!

 そして、撃墜する!!


「あははは♪ こりゃあああああ! 一生分のエルフが狩れるわね!!」


 エルフが一匹、

 エルフが二匹、

 エルフが三匹♪


「んっふっふっー! 眠れないときは、殺したエルフを数えましょう~♪」


 ズダダダダダダダダダダダダ!

 

 あはははははははははははは!


 ズダダダダッダダダダダダダ!


 あはははははははははははは!




「あ! 大物み~~~~っけ!」




 そうして、数騎の飛竜を撃墜したエリカは、ついに飛竜の群れを縦断した。


 その先にいたのは大型飛竜。


「んふふ~♪ あれってどうみても、指揮官ポジションよね。……これは当たりの予・感・ッ♪」


 ズバンッ!! と、武器に取り付けた鋭い切れ味のナイフで、いましがた着地したばかりの飛竜の首を掻き切り、

 エリカは再度の跳躍を果たすと、ペロリと唇を舐めて潤すと、ニンマリを笑いそいつを標的に定めた。


 そして、一度だけ振り返る。


 視線の先には、エリカですら狩り切れなかった飛竜が多数も多数!!



「───マィンヘァ。思ったより戦況は良くないわ……。そっちも気を付けてね」



 届くはずもない声を投げるエリカ。

 彼女の戦いもまだ始まったばかり───……。

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