第74話「『鉄の拳』は、悪巧みする(後編)」
ガタンッ!
その言葉を聞いた瞬間、サティラが勢い良く立ち上がる───いや、立ち上がってしまった。
「な、なんだ、サティラ?───黙って座ってろ」
「おいおい、露骨に反応すんなよ。エルフの旦那さんがビックリしているだろう?」
優しげな声を出すエリック達。
だが、全身からは怪しげなオーラを醸し出している。
どうやら、サティラが動揺したということを敏感に察知したのだろう。
「おやぁ? サティラ、アナタまさか……」
「く………………」
バンッ!!
しかし、その言葉を最後まで聞くこともなくサティラは部屋を飛び出した。
そしてわき目も振らず外へ──────……。
「ルビンッ! 逃げて─────…………!!」
だが、
ガシャーーーーーーーーン!!
通りに飛び出したサティラを追って、窓を割り階下に飛び出したエリック達。
「クソガキぃ、何の真似だ!?」
通りに降り立ったエリック達がサティラを挟み撃ちにする。
悲しいことにボロ宿が故に、裏路地に面していたことが災いし、誰も通行人がいないという有り様。
そして、狭い通りなため前後を挟まれてはどうにもできない。
「あらあら。サティラったら、困った子ね。…………エリック、そっちは大丈夫?」
宿の窓から見下ろすメイベル。
「おう。任せな。エルフの旦那の方は頼んだぜ」
「もちろん。コチラは気にせずに、さぁ、エルフの殿方───お聞きくださいな。あなた達のお探しの『禁魔術師』と、お仲間の居場所を私どもは知っておりますよ」
安普請の宿から漏れ聞こえてくるメイベルの言葉を聞いてサティラは確信した。
エリック達のやろうとしていることを……。
コイツ等の目的を──────!!
「え、エルフにルビンを売る気なの? アイツらを利用して倒させる気なのね?!」
キッと、気丈にもエリックをまっすぐに見えすえたサティラ。
「は! 今さら何言ってんだ? 当たり前だろうが」
「な、何が……!」
何が……。
……何が当たり前だッ!
何を言ってるの、コイツは。
あぁ、
正直に言おう。
正直になろう。
正直に──────……。
正直に、
「……も、もううんざりだよ!! いい加減にしてよ!! ルビンが何したって言うのさ?! ねぇ!!」
ルビンから奪ってしまったレアアイテムを構えるサティラ。
竜からドロップしたという杖。
それを見るたびに胸が痛む。
あのダンジョンでルビンにした仕打ちに心が苛まれる……。
「くく。そうだよ。その顔だよサティラぁぁあ」
シャキンと、剣を抜いたエリック。
それはあのレアアイテムではないが、そこそこの値打ちもの。
「お前だってルビンを見捨てたじゃないか、何を今さら……」
「ち、違う!! ちが───」
「……「ゴメンね、ルビン」だっけか? ひひひひ。俺はちゃんと聞いたぜ───あのダンジョンでよぉ」
「ち、違…………!」
ち、
ち……
ち──────……。
ちが、
違わない──────。
違わないよね。ルビン…………。
「そう、アタシだって同じ……。アンタたちと同じだよ、だけど───」
ガクリと膝をついたサティラを見て、エリックが目配せをする。
背後を塞いだアルガスがサティラを拘束しようとしてコッソリと近づく。
だけど……!!
「だって、しょうがないじゃないか!!」
だって、怖かったんだもん!
だって、死ぬかと思ったんだもん!!
だって、
だって、
だって、ドラゴンになんか勝ち目がないって思って…………思って……思っ、て───。
思ってたんだけど……。
「だけど、ずっと……ずっと…………」
ずっと!!
───ずっっっと!!
「アタシはルビンに謝りたかったの!! 御免なさいって、見捨てて悪かったって……! なのに!!」
ガバリと顔をあげたサティラ!!
その手には杖を握りしめ、今にも魔法を放たんとする。
「───なのに、アンタたちは開き直ってルビンを害そうとしているじゃない!! そんなのもう付き合いきれないッ!!」
「は!! ガキが甘ぇえぇぇえんだよぉぉおおおおお!! アルガぁぁぁぁああス!!」
「おうよ!!」
背後に迫っていたアルガス。
そして、一気呵成にサティラを捕まえんとして───!!
「おらぁぁああ! ガキぃぃ、後でタップリ体に教えてやるぁぁあああ!!」
その壁のような巨体を生かしてサティラをスタンプ───……。
「舐めんなッ!」
───どぉんん!!
「ぐぁ!」
爆発音が通りに響き渡り、アルガスの巨体が吹っ飛ばされる。
「ちぃ! サティラ、てめぇえ!!」
「ふ、ふん! いい加減にしてよね! アタシだってやられっぱなしじゃないんだから! エリックだって、アルガスだって……もう、誰にだって容赦しないんだからッ!!」
ふー!
ふー! ふー!
と肩で息をしながらサティラが怒り狂っている。
そして、一瞬で行使しした下級魔法の「小爆破」をアルガスにお見舞いしたかと思うと、さらに魔法を練り上げる。
大賢者サティラの得意とする高速詠唱と、下級魔法ならではの連射速度だ。
それは、とある理由で資金繰りのために多数の装備を売り払ったエリック達には、十分に脅威になり得るものだった。
「くそ……このガキ。
その言葉にハッとしたサティラ。
慌てて後ろを振り向かんとするが、
「いててて……。ち、こんなガキ相手に「
「く! ここは逃げ───」
「逃がすかよ!! 俺はもう「双剣士」じゃねーし、アルガスも「重戦士」じゃねーぜ! お前の想定している俺らとは違うんだよ!」
そう言ってエリックが中空に
───キュルァァアアアア!!
そこから飛び出した犬のような影と!!
「はぁっぁあああああ!!」
アルガスも「転職」の成果をださんとして、虚空に叫ぶ!!
カ─────────!!!
エリックは召喚し、
アルガスは変身した。
二人とも「転職神殿」で大枚をはたいて「転職」を果たしていたのだ。
たった一つの目的のために……。
そう、
「ルビンに痛い目を見せてやる」という、実にくだらない目的にために───。
「く、くそぉぉおおおおおおおお!!!」
舐めんなッ! 舐めんなッ!!
「───舐めるなぁぁあああああ!!」
どかん、どかん、どかんっ!!
「はははははははははははははは」
「ぎゃはははははははははははは」
眩い光のなか、サティラの絶叫が響き、彼女の魔法が何発か炸裂したのが見えた。
しかし、それは騒音の中に消えていき。
あっという間に、通りには静けさが戻る。
そして、
それらを横目で見つつも、メイベルはエルフと語る口は止めずに、「ニィィ」と皮肉気に口を歪めると、笑った。
「──────ふふふふ。これで以上です、エルフの殿方……。ルビンの件、確かにお話ししましたよ」
ふふふふふふふふふふふふふふふふふ!!
あーっはっはっはっはっはっはっはっは!
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