第68話「【タイマー】は、後始末する」
「いやー……はっはっは♪」
大漁、大漁 と意気揚々と酒場に戻ってきたエリカ。
片手に武器を保持して肩に担ぎ、ガンネルを周囲に侍らせながら意気揚々と───。
「たっだいま戻りました~♪───あるぇ?」
ニッコニコとしたエリカが煙幕のベールを薙ぎ払いながらくればそこには、なぜか正座をしているルビンとレイナ。
そして、般若の如き顔のセリーナ嬢が二人にお説教をしていた。
その横には硬直したパンイチのエルフの副長がひとり。
あー………………。
「…………どういう状況???」
ホワイ、ホワッツ??
「いいですか!? 冒険者ならば、ダンジョンや魔物由来のトラブルはあってもおかしくはないでしょう。それをギルドも一々咎めませんッ」
「はい」
「は~ぃ」
「ですが、もう少し考えたらどうなんですか!! ただでさえ禁魔術のことでエルフから睨まれてるかもしれないって情報を流しているのに、よりにもよって「エルフホイホイ」みたいな女を連れ帰ってきて、その日のうちにギルドの酒場で宴会とか、頭大丈夫ですか!! アンタぁぁあ!」
「はい」
「は~ぃ」
「『はい』! は、一回でよろしい!!」
「はい」
「は~ぃ」
「二回言うな!!」
「はい」
「は~ぃ」
「だーかーらー!! あだだだだだ!!」
「はい、ストップ」
話が同じところをグルグル回り始めたのでさすがに面倒くさくなったらしいエリカが止める。
「いっだぁぁぁぁあああ!!」
細い腕で、セリーナ嬢の頭を鷲掴み。
「そんくらいにしといてよね~。
「いだい、いだい、いだい!!───って、あ!! アンタねぇぇええ!」
セリーナ嬢は痛がりながらも器用にエリカを睨む。
ブラーンとぶら下がりながらそれはもう器用に。
「あによぉ?」
「「あによぉ?」じゃわよ、「あによぉ」じゃぁぁああ!!───見なさいよ、この惨状!! し、ししし、しかも!!」
バぁンッ!!
と、エルフの副長を指さすセリーナ嬢。
「ん? エルフがどしたの?」
「どしたのじゃないわ!! どうもこうもあるか!! これ、エルフよ?! わかってるの?! これは、外交問題よ、外・交・問・題!!」
あぁもう、とエリカの拘束を振りほどいたセリーナ嬢が顔を覆ってさめざめと泣く。
「どーーーーすんのよ、もぉおおおおおおおお!!」
「なぁに、大袈裟に言ってんのよ?」
だが、エリカは気にした風もなくあっけらかんとしている。
「どこが大袈裟なのよ!! どこが!!」
激高するセリーナにうんざりしたのか、エリカはその頭をポンポンと叩きつつ、
「……主は頭いいって聞いたから確認するけどぉ」
「え? いや、別に頭は……」
じかに言われると否定も肯定もできない。
「お兄さん、頭いいよ?」
「え、あ。う、うん。ありがと」
「イイ子ね、レイナ。───で、聞くんだけどさ。エルフがここにいるのって合法かしらぁ?」
え?
合法……?
あ─────────……。
あああ!!
「い、いや、そんなはずはない! エルフが有利のまま終わった戦争だけど。その条約が大昔に結ばれた頃に比して、今は少しずつ権利が変化してきているはず。そして、中には双方不可侵の決めごとも───れっきとした条約としてある」
「でしょ?」
ニコリと笑ったエリカにつられてセリーナ嬢がヘラッと笑う。
そして、目に焦点を戻しつつ、ポツリと……。
「へぁ……?」
ルビンの話を聞いたセリーナ嬢はピタリと泣きやんだ。
そして、何かを計算するようにブツブツと。
「───そういうこと。コイツ等はここにいることを見られたくないはずよ? だから、目撃者を皆殺しにしようと無茶苦茶な手段をとって来たし、死体も焼却するつもりよ? あんな風にね───」
「「「あ!!」」」
酒場中に転がっていたエルフの死体が次々に発火していく。
まるで油でもしみこませた海綿のように勢いよくボウボウと。
「んね? あーして証拠隠滅の魔術くらい準備しているには、バレたくない証拠。ま、それくらい連中も神経をとがらせているはずよ? だからこその『高貴な血筋』……非正規線部隊の投入だったんでしょうよ」
「うそ……。じゃぁ、エルフからの干渉とかは───」
エリカはセリーナ嬢の縋るような瞳を流しつつ、「うーん」と天井を眺めると、
「───ないんじゃない? この時代のエルフの政治形態までは知らないけど、わざわざ非正規戦部隊を送り込んできたんですもの。連中にだって後ろ暗いことがあるのよ」
エリカの話を最後まで聞いたセリーナ嬢はヘナヘナヘナと力を失いしゃがみ込む。
ペタンと女の子座りでぐったりしたかと思うと、
「よ、よかった~……。戦争にでもなったらどうしようかと」
心底安堵したかのように涙ぐむ。
よほど不安だったのだろう。
それにしても、エルフが全滅して良かったというのも変な話だが……。まぁ、下手に外交問題にならなくて済んだのはルビンとしてもうれしい話。
「よ、よかったですね、セリーナさん」
「うん、うん、うんん………………って、アンタのせいでもあるんですからね!!」
泣いていたかと思うと、いきなりの怒りの表情。
え、えぇ~……そりゃないよ、セリーナさん。
ルビンにだって言い分はある。
「だいたい、
「ま、もっとも──」
セリーナ嬢につめよろうとしたルビンの言葉をエリカが遮る。
そして、
「な、なんだよ?」
「───コイツをどうにかしてからじゃないかしらね?」
「コイツ」と、コンコンとタイムで硬直したエルフの副長を叩きながらエリナは言った。
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