第67話「【タイマー】は、瞬殺する」

 ───ぎゃあああああああああああ!!


 酒場の外では恐ろしい絶叫が響いている。

 おそらく、ガンネルに襲われているのだろう。

 この様子では全滅に違いない。


(エリカのやつ、ほんとに容赦ねぇな……)


「お、お兄さん、今のうちに逃げよ!」

「う、うん。そうだね───」


 ルビンが惨劇を想像し顔を青くしていると、レイナに逃げようと提案された。

 それに一も二もなく飛びつくルビン。


(そ、そうだな)

 ぶっちゃけ付き合ってられない───……!


 だから、逃げ……。

『逃がすものかよッ!! この下等生物が!』


 ボフアぁぁぁ!!


 突如、煙を突き破って一人のエルフが躍り出てきた。


 こいつは、指揮官のエルフ?!


『貴様らのせいで、我が精鋭は大損害だ!! せめて、お前らだけでも───!』


 からのー……。


「タイム!!」


『な……!』


 かちーーーん!


 出落ちで固まるエルフのリーダー格。


「一々相手をしてられるか!! 逃げるよッ!」

「う、うん! あ───」


 レイナが踵を返そうとして、ピタリと止まると、

「チョー迷惑ぅ!!……てぇーーーーい!!」


 エルフの偉そうなオッサンの股間に強烈な蹴りをゲシッ!! とブチかましている。


 コキーーーーーーン!!!


 さすがに未だ時間停止中の身であるエルフのオッサンは微動だにしないが、気のせいか顔が悲しそうに見える。

 見ていただけのルビンでさえ、キューンと、前屈みになり股関を押さえたくなる。


(あ、ありゃ痛ぇわ…………!)


「ニヒヒ! どんなもんだーい!」


 レイナちゃんにはわからんだろうな……。

 あのエルフの指揮官。

 …………時間が動き出したら、恐ろしいことに───。

 南無!!


「えっと…………」

「ふん! 駆除されてたまるもんかッ! あっ、ついでだし、これもらっとこー」


 おっふ。

 レイナさん。


 さすが元強盗団。


 凄まじく慣れた手つきで、エルフの装備をひん剥いていく。


 高そうな剣に、

 短弓、

 そして矢筒に始まり、アクセサリーに鎧まで。


 あ、高そうな服も、腰の物入れも持っていくのね?

 ついでに、ピアスも、ネックレスも、……って、下着以外全部ぅぅぅう?!


 レイナちゃぁん?!

 君ぃぃいい! 容赦ないねぇぇええ?!


「えへへ。大量♪」

「お、おう……」


 すごくいい笑顔をしているレイナ。

 うん。スラム育ちは伊達じゃない……。


 こんな環境でも逞しい。

 酒場中が煙まみれで、冒険者たちが右往左往しているというのに、レイナちゃん形勢を読むや否やせっせと身ぐるみ剥ぎにかかってますよ。


 パネェっす、この子!


「ん。行こ?」

「……………………おう」


 ルビンに視線の先には身ぐるみ剥がれたエルフの隊長格副長がひとり、『逃がさんッ』の表情のまま硬直している。


 …………パンイチで。


 やばい。

 こんな死屍累々の状況だけど、笑っちゃいそう──────……。



「待てごら」



 踵を返そうとするルビンとレイナの襟首をグワシと掴む人影が一つ───。


 ま、まさか、エルフの残党か!!




 いや、違うっっっっ!!!


「「魔王だ!!!」」

「誰が魔王じゃ、ボケぇぇぇぇえ!!」




 …………………………鬼の形相をしたセリーナ嬢でした。

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