第66話「【タイマー】は、巻き込まれる(後編)」
『『『撤退だっぁああああ!!』』』
その瞬間、エルフ達が懐から小瓶を取り出し、次々に天井に向かって投げつける。
すると、それらがパリンパリンと割れるたびに、黙々と煙が溢れ出て酒場を白煙の中に覆い隠してしまった。
『『『煙伏よしッ』』』
『いけ! あとは俺が
『『はっ!』』
パン、パリン!!
ひとしきり煙幕の展張が済んだころ合いに、エルフ達の気配が間遠になる。
どうやら、順次撤退を始めたようだ。
「んふふふふ~…………。逃げちゃうのね~ん」
ニコォと、綺麗な笑みを浮かべたエリカ。
その笑顔を見てゾゾゾォと背筋を凍らせる二人。
「え、エリカ。ど、どうすんだよ?! アイツら何なんだ?!」
「あら? まだ分からない??───あれがエルフの非正規戦部隊。伝統あるスパイ組織『高貴な血筋』よ。そして、彼らの目的は…………」
ニューっと首を突き出すエリカ。そして、ルビンたちを睥睨してニッコリ。
「んふふー」
震えて縮こまる二人に向かって指をクルクル回すと──────ピタぁっと止める。
「決まってるじゃなぁい。主たち、『時空魔法』の使い手を捜索───そして、殲滅をするつもりなの。まぁ良くて捕縛。悪ければ見つけ次第、駆除されるわねー」
はぁ?!
「な、なんで……?!」
「え、えぇ?! 駆除ぉ?!」
ルビンもレイナをギューと抱き合いつつ目を丸くする。
「あらあら、まぁまぁ。なぁんにもわかってないし、危機感ないのねー。んふふ~。そもそも、大昔の戦争だって禁魔術が原因だし、終わったのも恐らく
あれとかそれとか分からないけど……。
言いたいことはつまり───。
「え、エルフが血眼になって襲ってくると……」
「ご名答♪」
ムチュと、投げキッスを飛ばすエリカ。
「そ、そんな……! 【タイマー】だって好きでなったわけじゃ───……」
「おっとぉ、それまでッ。詳しくはまたあとで話しましょ」
「「へ?!」」
「だって、逃がしちゃまずいでしょ?」
そ、そうかもしれないけど……。
「じゃ、じゃぁ、何で行かせたんだ? エリカなら───」
「
わかる……?
……あぁ、わかるとも───。
エリカ……。
あぁ、この女はまったく本気じゃない。
本気なものかよ……。
テーブルに座ったまま圧倒して見せたかと思うと、それは両手の武器のみ。
つまりガンネルは一騎も使っていない…………。
なら?
ならば、ガンネルはどこに?!
「決まってるじゃな~い♪」
そこまで話したところで、エリカはテーブルから立ち上がる。
思えばずっとこの体勢でエルフを圧倒していたのだ……どんだけだよ!!
「───んふふ~。おバカな子たち……。何で、このアタシが退路を塞がずに放置しておいたと思うのかしらん?」
そうとも。ガンネルは室内にはいなかった。
ならば……。
ならば──────!!
「んふふ~♪」
エリナは余裕で立ち上がると、煙幕の中を平然と歩いていく。
そして、どうやら煙の中で振り向いたらしい。何となく気配でそれが分かったのだが───……。
「あ、そうそう、主ぃ。もうしわけないけど、一人お願いねー。アタシは外の連中をコロコロしてくるから~ん♪ じゃぁねぇ…………───ガンネルっっ」
へ?
一人……?!
「一人って、おい、待てよ!!」
ルビンが何のことか頭をひねった時、外では大音響が響いていた───バババババババババババババババババババババババババババババババババ!!
『『『ぎゃあああああああああああ!!!』』』
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