第65話「【タイマー】は、うんざりする」

「いやー。楽しいわねー! 今世も悪くはないわぁ!」


 あーっはっはっは! と楽しげに笑うエリカ。

 場所はギルドに併設されている酒場である。


 そこで、好き勝手に注文する残念美女の前には山盛りの空の器がこんもりと。


「おい、自分で払えよ」

「んくんく」

 モグモグと芋の煮物を食べているレイナの頭をカイグリカイグリしながらルビンはジト目でエリカをみる。


「なーに、けち臭いこと言ってんのよー。こぉんな美人が一緒にご飯してあげてるのよ───あ、おばちゃん、焼き物とエール追加でー」


「あいよー」


 あいよー! じゃねぇよ!!

「マジで俺は払わんからな!!」


 一体どれほど食ってるんだか……。


「あによぉ、ケチねぇ。もぐもぐ」

「んくんく。おかわり」


 レイナがニッコリと破壊力抜群の笑顔でニパーっと。

 それを見たルビンもニッコリ、

「いいよー。おばちゃん、肉の蒸し煮、二人前。あとジュースとワインちょうだい」


「あいよー」

「あ、私も───」


 お前はもう食うな!!


 エリカはといえば、ルビンにきつい眼差しも何のその、さっそく用意された焼き物をボリボリ食べながら、何かの骨を器用により分けていく。


「さぁて、前菜も済んだし、そろそろお祝いパーティと行きましょうか?!」

「あ?」

「え?」


 ポカーンとしたルビン。

 食った量と、お祝いパーティとかいうわけのわからないワードにルビンとレイナが顔を見合わせる。


「お祝いパーティだぁ?!」

「前菜ぃぃ??」



 ぽかーーん。



「何の祝いだよ?」

「ど、どれだけ食べるの?」


 いや、ほんと。


「え? そりゃあ、パーティ結成記念とBランク昇進祝いに決まってるじゃない。あるだけ食べるわよー」


 もっしゃもっしゃ……。


 あの体のどこにそれだけの量が入るというのか……。

 明らかに胃袋の許容量を超えた量を食べ続けるエリカ。


(いや、待てよ……。コイツ、確か体中に武器を隠し持ってたよな? なんか位相差空間とかいう技術で……)


 え。

 もしかして、ご飯も?!


「か、勘弁してくれ……」

「うぅ、なんか気持ち悪くなってきちゃった」


 このあとの会計を思いゲンナリするルビンと、

 エリカのバカ食いを見て、吐きそうになっているレイナ。


「んーーーー。おいしーーーー!!」


 しかし、そんな二人に気付くこともなく、幸せそうな顔でモーリモリと食べていらっしゃる……際限なく。



 だが、その時。



「あら」


 ピクリと身を震わせるエリカ。


「ど、どうした? は、吐くなよ?」

「あわわわわ。バケツバケツ……!」


 ワタワタと慌てるルビンたちを差し置きエリカの視線が遠くを見つめる。

 その目はどこか焦点を結んでいないようにすら見えた。


 一体何が……。


「───早いわね。ハエが二匹か。……潰したのはいいけど、ふむ……。コイツ等元々の任務は別にあったみたいね」


 そう言ってブツブツと独り言を始めたエリカ。

 さすがにその様子を訝しがるルビンと、不気味に思ってルビンの背中に隠れるレイナ。


「ど、どうした? さすがに食い過ぎで馬鹿になったか? それとも飲み過ぎか?」

「お、お兄さん、この人ヤバいよー」


 ガクガク震えるレイナ。

 元々強盗団の一味だったくせに一丁前の倫理観を持ち合わせていると見える。

 少なくとも、いきなり中空を見つめてブツブツと空気さんとお話しし始めれば、誰だって驚く。


 ルビンだって、そんな人がいたら避けて歩くくらいに……。


「ちょっと、あによぉ?」


 ジロジロとみられていたことに気付いたのか、エリカの焦点がもどり、どうやらトリップから戻って来たらしい。


「だ、大丈夫か?」

「何がぁ?」

「あ、頭大丈夫ぅ? エリカ姉ぇ」


 エリカ姉ぇと、レイナは呼ぶ。

 いつの間にかそう言う呼び方に決まっていたらしいが、それはいい。


「べっつに、頭も、お腹も大丈夫よ───それより、」


 ニコッと、ルビンに微笑みかけるエリカ。


「そろそろ、来るわよ───お客さんが、」


「は? 客?……そりゃ、酒場なんだから当然───」

「うんうん」


 ルビンとレイナは仲良く頷く。

 しかし、エリカはニッコリ笑った顔を崩さずに、

「───連中の魔導通信をキャッチしたの。人間も舐められたものね。秘匿化もされていないわ」


「魔導通信?」

「秘匿化ぁ?」


 エリカの言っている意味が分からない。

 そして、彼女が言う客も──────……。


「そろそろ来るわ。準備なさい───」

「え?」「ほぁ?」


 エリカは終始笑みを崩さず、懐からバカ長い鉄の棒のようなものを取り出すと、

「───連中……エルフの非正規戦部隊『高貴な血ノーブルブラッド』が主たちを狙っているわ。私の捜索はついでだったみたい。あと、10秒ってとこかしら」


 へ??


「エルフに非正規戦部隊……?」

「『高貴な血ノーブルブラッド』───??」


 何それ?

 エルフに非正規戦部隊のことはセリーナ嬢か少し聞かされていたけど……。


 え?


「武器を構えた方がいいわ。もっとも、マインヘァならワンパンでしょうけどね。───フェンフフィーア


 突如カウントダウンを始めたエリカ。

 そして、手にもつ鉄の棒をガチャガチャと操作し始める。


 レバーのようなものを引いて、ガシャキ、ジャコンと───。


 それに合わせて、酒場の外からもガチャガチャガチャと金属の触れ合う音。

 そんな音が冒険者たちの喧噪に混じって───……。


ドラィツバァィアィンスノイン………………お祭り開始ショゥタイムッ」



 バァァン!!



 突如、蹴破られる酒場のドア。

 その先には黒い鎧を着たイケメン&美女軍団ががががががががが!


「へ?」

「ほぁ?」


「「「「「な、なんだぁ?!」」」」」


 酒場中が一斉に入り口を向き、ギルド側からも何だなんだと人が集まってくる。

 そして、全ての視線が入り口に向いた時──────。



『いよう、下等生物ども───楽しく飲んでるかぁい♪』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る