第64話「エルフは、時の崩壊を知る」
あーはっはっはっはっはっ!!
一方、ギルドにてエリカ・エーベルトが無双していたその頃───彼女が高笑いをしていたのも知らずに『時の神殿』最奥では、
『こっちだ! 急げッ』
『わかってます。それより、トラップの解除信号は送ったんでしょうね?』
ローブを目深にかぶった人影が二つ。
猛烈な速さで『時の神殿』を駆けていた。
『当然だ!』
『班長はたまに信用できないんですよ!』
『なにぃ!?』
それは慣れ親しんだ動きで、まるで自分の庭を闊歩するかのよう。
あれほどあったトラップは一つとして起動せず沈黙している。
そして、それらを知っているかの如く高速で疾駆し、最奥を目指す二人。
『な!? ど、どういうことだ? トラップの信号のほとんどが死んでいるぞ?』
『馬鹿な?! 魔術コーティングを施されたトラップですよ?! ドラゴンが踏んだって壊れやしないものを───……あッ』
キキィ!! と急制動をかけて止まる人影。
その拍子にローブにフードがはだけて顔がのぞく。
それは色白の青年で、青い瞳に薄緑の髪───そして、笹耳をしていた。
『おい、急に止まるな───な!』
同じくローブのはだける人影。
彼も同じく、笹耳をした───……エルフだった。
『な、なんだこれは……』
『施設がぶっ壊れてる……?!』
二人のエルフの目の前には広大な『時の神殿』の通路が広がり、そこを護るように配置されていた多数のトラップの無残にも破壊されている様だった。
そして、視線の先。
最奥と言われていた一枚の扉があった。
何年と言わず閉ざされた扉───……何人たりとも立ち入らぬように。
『ぐ……。ばかな、開錠しているだと?』
『班長、これを───』
そう言って奥に進んでいったエルフ達の発見したもの。
それは破壊しつくされた端末の残骸で、周囲にはぶっ壊されたであろう、機械や壁の素材にトラップが散乱していた。
『い、一体何が……』
『もしや、例の遺物が?』
二人は顔を見合わせる。
『馬鹿を言うな! アレは中からは絶対に開けられん! そういうものなのだ!』
『し、しかし現に……! はっ!? もしや、我らに裏切り者が───??』
驚愕の想像に顔を驚きに染めるエルフの青年。
『それこそありえん……! ここを開錠できるのは、時空魔法の───』
「「「へぇ……。やっぱりいるんだ、今世のエルフにも時空魔法の使い手が───」」」」
『な?!』
『なにぃ?!』
反射的に武器を抜いた二人。
その目を油断なく周囲に向けるも、どこにも人影はない。
いや、そんなはずは!?
と、二人で最奥の扉の向こう、そして、壁に沿ってある暗がりを睨み付ける。
『ど、どこにいる?!』
『班長、ここは一度───』
慌てる二人の背後に、スーーーと、まるで蜘蛛が糸を垂らす様に、数機のガンネルが降りてくる。
完全に死角。そして、二人の背後に───。
うふふ。二人は、二人はまぁだ気付かない♪
『はっ!』
『な、うし───』
「「「おそぉいん♪」」」
ババババババババババババババババババババババババババババババババ!!
『『ぎゃあああああああああああああ!!』』
「ふふふふふふふふ」
「「うふふふふふふふふふふふ……」」
「「「あははははははははははははは!!」」」
あぁ、今世にもいた。
今宵もいた。
ここにもいたぁ♪
「「「エルフがいっぱいいるよー、エルフがいっぱいるよー♪」」」
あーっはっはっはっはっはっはっはっはっは!
※ 同時刻 ※
とある森の奥地にて───。
「司令!! 司令はおられますか!?」
ダダダ! と足音も高らかに、耳の長い偉丈夫が世界樹の森の修練場を駆けていた。
「司令! ゴルガン司令!!」
名前を呼びつつ、多数エルフが静かに訓練をする中を無遠慮に駆け抜ける偉丈夫であったが───……!
シュ───カァン!!
「ひぃ!!」
その目の前を猛烈な勢いで矢が飛び去り、遠くの的のど真ん中を射抜いた。
「……うるさいぞ、モルガン───何事だ」
そう言いつつも、二本目を番えて腰を抜かしたゴルガンの頭上スレスレを狙いつつ、遠くの的を再度狙う。
シュ──────カィン!!
凄まじい精度で飛び去った矢はモルガンの髪の毛を数本引きちぎりながら、上下に弓なりの機動を描きつつ的に直撃した。
「申せッ。修練場を大声で乱す程の事態なのであろう?」
「は、……はっ! 申し上げます!」
慌てて直立不動になったモルガンは、敬礼のまま回答する。
「さ、先ほど『時の神殿』から、緊急信号を捕捉───……!!」
「ん! な、なにぃ!!」
その報告に一瞬にして表情をいからせたゴルガンがモルガンの胸倉を掴んで引き上げる。
「と、『時の神殿』だと?!……どういうことだ!? 現地の確認は!?」
「は! はい! 急ぎ、現地潜入の部隊が急行したことろ、例の施設が開錠されていることを確認したと緊急報告がッ!!」
ば、ば……。
「馬鹿な?! あそこの施設は向こう10年は維持補修の必要性はないはずだぞ!?」
「は、はい! ですが、はい!」
はい、はい! とロクな言葉が出てこないモルガンを投げ飛ばすと、ゴルガンは修練義を脱ぎ捨て、エルフの正装に着替える。
「───話にならん!! あの男を起こせッ! 今すぐ起床準備だ!!」
「は、はいい!!!」
それだけを言うととモルガンはドタドタと駆け、どこかへ行ってしまった。
恐らく、監獄に指示を伝えにいったのだろう。
あの監獄で眠り続ける、あの男の協力が必要不可欠だった。
「くそ! 忌々しい……。今まで何の異常もなかったというのに……! なぜ今になって?! くそぉ───おかげで
怒りと憤りで目の前がクラクラする思いだ。
その感情だけを頼りに、ゴルガンはノッシノッシと足音も高らかに修練場を去っていった。
まさか、
その頃には派遣された現地の非正規戦部隊が全滅していることなど知るよりもなく……。
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