第43話「【タイマー】は、ゴロツキを薙ぎ倒す」
「よぉよぉよぉー! レイナ。このクソガキぃ。戻って来たなら俺様に挨拶するのはどうした? このスラムの下層西側の支配者───アシッドドッグ様によぉ!」
わざわざ長い口上とともに現れたのは、あの時「タイム」してやったゴロツキの一人だ。
自己紹介ありがとう。
どうやらアシッドドッグ(笑)とかいう二つ名持ちらしい。
「お、親分さん! ご、ごめんささい……。今から挨拶に行こうと……!」
「へ! おっせーんだよ! お前んとこだけだぞ、今月の上りがねぇのはよー! 仕事も世話してやったのに、ヘマして衛兵隊にとっつかまりやがって───覚悟はできてるんだろうな」
そう言ってルビンを押し退けると、その小汚い面をレイナに近づける。
「げへへ。そろそろ娼館に卸せる頃だったんだけどよー。どうしてもっていうから見逃してやったけど、今回のヘマはみのがせねーなー」
「や、やだ! 行きたくないッ」
「バーカ。覚悟しな。所場代も払えないようなクソガキの行先は男なら鉱山か男娼、女なら娼婦か錬金術師の臓器売買って相場が決まってんのよ。げっへっへ───」
ヘマ?
レイナが……?
それを言うなら……。
「おい。クソ野郎」
「ああん?!」
アシッドドッグはようやくルビンに目を向けて訝し気に首を傾げる。
「なんだ、てめぇ───」
「───お前が雑魚だから、この子を囮にして自分たちだけ逃げたんだろう? ヘマどころか子供の背中に隠れるクソ野郎じゃないか、お前らはッ」
一気に言うと、レイナを背後に庇いアシッドドッグと向かい合う。
「何でオメェ、ガキ相手にナイトを気取ろうってのか? なんなら安く売って…………って、お前は!」
おっせーよ。
「よぉ、昨日ぶり───っと!!」
グワシッ!!
「いぎゃああ!! て、てめぇぇぇええ!」
初手で顔面クロー!
ギリギリと持ち上げる。
結構な大男だというのに、今のルビンからすれば軽い軽い。
「ひぃ! る、ルビンさん! や、やめて!! 親分さんを怒らせたら───……!」
怒らせたら?
「……ふーん。怒らせたらどうなるって?」
正直、俺の方が怒ってるよ。
コイツ等、子供を食い物にしてやがる……!
しかも、レイナを売り飛ばすだって?!
ルビンが初めて出会った、この世界唯一の仲間を───!
「いだだだだだだ!! こ、この野郎!! おい、テメェら出てこい! コイツをギッタギタにして今日の晩飯の具にしてやれ!」
そう一声かけると、スラムの影からス、スス、っとガラの悪そうな男達が姿を見せる。
「ひへぇへぇへぇ!! こ、これでテメェは終わりだぜ……ついでにやりかけの仕事も終わらせられるし、一石二鳥ってもんよ!!」
やれぇえ!!
「へい、兄貴ぃ!」
「ぐひひ。コイツ金持ってそうだぜ」
「はぁはぁ、レイナたん。はぁはぁ」
アシッドドッグの声に、柄の悪そうな男達が周囲を取り囲む。
その様子にレイナが顔面蒼白になっている。
「や、やだ! ぼ、僕関係ないよ! し、知らない!」
「へっへっへ。レイナぁ。そうはいかねーぜ。コイツを連れてきたのはお前だよ。借りはしっかり体で払ってもらわねぇッブハ!」
うるさい。
ルビンはアシッドドッグを地面に叩きつけると強引に黙らせる。
そして、周囲の男達を睥睨すると、
「アシッドドッグとやらの手下か? スラム下層の西地区のボスっていってたな?」
フッと小バカにするように笑うルビン。
その雰囲気に全体が殺気だつも、ルビンにはまったく脅威に感じられなかった。
「こ、コイツ兄貴を!」
「この野郎……。俺たちの縄張りで好き勝手しやがって!!」
「はぁはぁはぁ。レイナたん! レイナたん!! はぁはぁ!」
「「うるせぇ!!」」
一匹
得物はせいぜいがナイフに棍棒程度。
ドラゴンの力を得たルビンの相手にもならないだろう。
…………だが、レイナは彼等を見てガタガタと震えている。
(レイナ……)
今までずっと搾取されてきたのだろう。
せっかくの【タイマー】の力もこいつ等にいい様に使われていたに違いない。
「───レイナ。よく見ておけよ」
「え?」
ザワザワザワ。
……戦いの気配にルビンの血が騒ぐ。
ニヤリと人知れず口角がつり上がる。
いつの間にか好戦的になりつつあるルビン。
だがそれでもいい。
ただ黙って耐えて、
「君が恐れていたものを俺がぶち破ってやる───……そして、それを見てから考えてみないか?」
「か、考える?」
そうさ。
「一生スラムで生きていくか。……コイツ等に搾取され、体を売る生活の二択か───!!」
「そん、な……」
そう。彼女の人生にあったのはこの二択。
それを選べと言われてレイナの目が焦点を失い……濁る。
彼女は不満だったのだ。
現状に不満があって、あって、あって、あって、あって!!
あってどうしようもないから抗っていた。
だから体を売るのを良しとせず、なんとか自分の力で食べていけるように耐えて頑張っていた!!
それが強盗の手助けであっても、レイナは抗っていた。
だから!!!!
「それとも──────!!」
ルビンは叫ぶ。
つい先日までの自分とタブる彼女の姿に……!
仲間だと思っていた奴らに疎まれ、大切なものを奪われても何もできなかった自分の姿を重ねて!!
叫ぶ!!
そうさ、
「それとも──────新しい自分を見つけて、真っ白な人生の道を歩んでいくのか!!」
選べよ!!
「レイナぁっぁああああああ!!」
「ンッだこの野郎!!」
「ぶっ殺せぇぇええ!!」
「レイナたーーーーん!」
敵の数は正面に3名、背後に5名、左右に10~11名が建物の中から狙っている。
合計、20名を切る数──────! 全員、雑魚っ!
「しッ!」
ルビンは正面から突っ込んできた
武器も抜かずに、拳のみで沈めると、空を舞った雑魚の話したナイフをつかみ取ると振り向きざまに投擲。
「あぎゃ!!」
背後から襲い掛かって来た大男の足を刺し貫くと、そいつの体を盾にして大振りな廻し蹴りを放つ!!
右足で薙ぎ払い、大男の右側から突っ込んできた2名を吹っ飛ばし右の建物に突っ込ませる。
そして、着地する右足を軸に今度は左後回し蹴りを放って大男の左から来た二名を薙ぎ払い左の建物に突っ込ませる。
その一連の動きは全て一瞬の出来事!!
ドカーーーーーン!! という音が重なって聞こえるほどで、左右のボロボロの建物が崩れて中に潜んでいた襲撃者どもをまとめて潰す。
そして、
「とどめぇぇぇ!!」
大男のナイフを引っこ抜くと、そのまま大男の腕を釣り上げ体ごと武器にして残った建物にぶん投げる!!
ズッドォォォオオオオン!! と大爆発のような衝撃音が響き渡ったかと思えばスラムの粗末な建物がガラガラガラと音を立てて崩れ落ちていくところであった。
「一丁上がり」
パンパンと、手を叩き埃を払うルビン。
「す、すごい……」
レイナはボーっとしてその光景を見ていた。
まるで夢の中の出来事だとでもいうように……。
「こんな連中「タイム」を使うまでもないよ。……どうかな? レイナ、君の道は見えそうかな?」
少なくとも、こんな連中に搾取される未来なんて選ばなくてもいいと───。
コクリと頷こうとするレイナ。
彼女がこの汚い場所から決別しようとしたその時、
「て、テメェ……」
ユラーリと起き上がったアシッドドッグ。
その手には何故か瓶のようなものを持っており───……。
「俺を怒らせやがったなぁぁぁあ!!」
そして、奴が瓶のふたを取りその中身をルビンに向かってぶちまけるッ!!
「俺の二つ名の由来──────強酸攻撃だよぉおお!」
んなッッ!!
予想外の攻撃にルビンの体が硬直する。
いくらドラゴンの力を得て強くなったとはいえ、この距離で強酸を浴びればただでは済まない──────クソッ!
「タイ─────────……
ぐ───間に合わないッ。
せめて、レイナだけでも……!
ルビンが体を動かしその身を持ってレイナを庇おうとしたその瞬間。
まさに強酸がルビンを襲うその一瞬のこと───……。
「だめぇぇぇえええ!!」
レイナの目が光った気がした……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます