第40話「【タイマー】は、タイマーと邂逅する」

「た、タイマー?」

 キョトンとした少女。

 ルビンの言うタイマーのことが分からないのだろう。


 実際、【タイマー】とうのは、女神の誤字から出た【天職】だ。他に正式な名前があるのかもしれないが……。


「時間を操る力───時を司る天職ジョブのことだよ! 君は俺の『タイム』と同じ力を持ってるのか?!」



 いや、持っているはずだ。

 だから、財布を奪われた時に気付けなかった。


 知覚できな・・・・・かった!


 つまり、あの時俺は──────……。


「───時間を止められていたのか?!」

「う、うん……ごめんなさい」


 しゅんと項垂れた少女。

 だが、これは本物だ。


 時間にして恐らく1秒か、あるいはもっと少ない時間なのだろうが、彼女は確かに時間を操ることができる。

 生まれつきのそれか……、もしくは後天的なものかは、現時点ではわからない。


 これは、今後聞いてみるべきだろう。


 だけど、間違いなく彼女は時を操る【タイマー】だ。

 しかも、彼女はルビンより上位かもしれない。


 彼女の場合は、ルビンに時間を止められている間もルビンの動きが見えていたという。

 そのあとで串焼きを衛兵にぶつけたのは事前の行動を・・・・・・キャンセル・・・・・することができないためだろう。



「でも君に俄然がぜん興味がわいてきたよ───」

「ひッ」


 ニコリではなく、ニィと口角を釣り上げるルビン。

 優しい顔をして少女を安心させるべきなのだろうが───それ以上に、そんなくだらない小細工を働かなくてもわかったことがある。



 …………これは運命だ。



 時使いが偶然この狭い人間世界のダンジョン都市に存在し、そのうえ出くわすだって?


 そんなの偶然なわけがない───。

 これは必然ッ。


 ルビンと少女は出会うべくしてであったのだ。


「行こう……。ここを出よう。俺と来てくれないか?」


 ルビンは今度こそ、手を差し出す。

 それは少女に対する同情からくるものではなく、新しいパートナーを見つけた確信から来る信頼の証。


「い、いいの? 保釈金なんて、僕払えないよ? か、身体も……売りたくないッ!」


 いいさ。

 当たりまえだ!


 そんなことは望んでないッ!!


「君がスラムでどうやって生きてきたのかは知らないし、今知るつもりもない! ただ、子供だてらに必死に生きて……それでもなお高潔さを保ち! 体を売るを良しとしない君の生き方を、尊重する!!───だから、信じてくれッッ」


 すぅぅ、


「───俺は、君を救いに来たッッ!」


 そう。


「───仲間として!」


「な、かま……?」


 少女がぼんやりとルビンの手を眺めている。

 オズオズと差し出されるその手……。


 硬直した男達のいる空間で、ルビンと少女は手を取り合う。

 時間の止まったこの世界の中で───時間を操る二人の【タイマー】がついに……!!



 ぴく……。


 ぴく、ぴく───。



「む? そろそろ時間か」

「え?」


 徐々に動き出す気配を見せる男達。

 ドラゴンの時と同じ、時間が戻り始める兆候だろう。


「さぁ、でよう。今なら鍵を探す時間もありそうだ───」

「う、うん」


 ガチャガチャと鍵束からなんとか整合する鍵を探すルビン。

 ………………あのクソ衛兵! どの鍵だよッ?!


「おい、何の騒ぎだ?!…………って、なんじゃこりゃぁぁぁぁあああ!」


 その時、衛兵隊本部のほうから聞き覚えのある声が。

 

 あ、アイツ。

 あの中年衛兵!!


「おいどーなってる?! また、硬直か!?……あ、またお前か、この冒険者野郎めー!!」


 牢屋の中で硬直している囚人たちの様子に驚いた中年衛兵が、あっさり牢屋の鍵を開けて駆け込んできた。

 

「おい貴様! 何がどーなってる?!」

「は? つーか、アンタ今どうやって、鍵をあけたんだ? あの鍵束は俺が持ってるのに……」


 そうだよ。どうやって?


「あ? こっちの質問に────ったく、マスターキーに決まってんだろ? 鍵束なんざワザワザ使わ」

「タイムッッ!」


 かちーーーーーーーん……。


「わ。すごい」

 少女が目を丸くしている。

 なぜなら、その視線の先では中年衛兵が硬直。


 


 そして、ルビンは──────。


 すぅぅう……、

「…………だったら、初めからそれを貸しやがれぇぇぇええええ!!」


 ムンズと中年衛兵の顔面を掴むとギリギリと持ち上げてマスターキーを奪う。


 そして、少女を檻から出すと、


「あ、ありがとう……」

「おう」


 代わりに、中年衛兵を中に放り込む!!


「そこで牢の点検でもしてろッ、怠け者!!」


 ポーイ!! & 施錠!!───ガッチャンッ!!


「行くよッ」

「う、うん……。い、いいの?」


 雑居房に放り込まれた中年衛兵を見て渋い顔をする少女。


「いいよ、いいよ。ここも彼の職場・・・・だからね。じゃあ行こうか」

「う、うん」

 そうって、少女の手を握り、ゆっくりと雑居房を後にするルビン。

 そして、少女。


 あ。


「───そう言えば、名前は?」

「れ、レイナ……。レイナだよ?」


 レイナ、か。


「いい名前だね。俺はルビン。ルビン・タック───しがない冒険者さ」

「ルビン……さん? あ、ありがとう───その、」


 いいさ。


「気にしなくてもいいよ。君は初めて出会った俺の仲間だ【タイマー】だから」


「う、うん! わ、私も───私達も初めて……!」




 そういって、恥ずかしそうにはにかむ・・・・レイナ。

 その頭を軽く撫でると、ルビンは牢屋を出て、



 そして、指を弾いた。





 パチンッ!!






 そして、時は動き出す──────。






「ひゃっはははああああああ!!」

「「「全員で行くぞぉぉお!」」」


「お、オデ。もう我慢できない───」


「兄貴、俺が手本を──────……」




「「「「「「………って、あるぇ?!」」」」」




 雑居房の方で何やら騒ぎが。

 そして、そこに混じる聞き覚えのある声が小さく響いた。


「───鍵束なんざワザワザ使わねーよ……って、あれ?……………………どこだ、ここ??」


 な、

「な…………」


「「「「なん───」」」」


「「「「なんじゃこりゃぁぁああああ!」」」」




 囚人と衛兵。


 雑居房で邂逅す─────────。



「げ?! なんで俺が囚人どもと雑居房にいるんだ?!」


 衛兵の驚きの声に混じり。


「お、おお? テメェは!! クソ衛兵ッ」

「あ、コイツ!! 俺を逮捕した野郎だ!」


「───ここであったが百年目ぇ!! やっちめぇぇええ!!」


「「「「おおおおう!!」」」」



 ドドドドドドドドドド!!

 怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒!!



「な、なななな、何で貴様ら!! ぐおおぉおお!……───ちょ、やめ!! そんなの入らない───やぁぁぁ!」


「「「ひゃっは~~!!!」」」



 あ───。



「あ゛あ゛あ゛あああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」




 何やら知らぬが、牢屋の方で野太い声が響いたとか響かなかったとか。




 ……しらんけど。

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