第38話「【タイマー】は、突入する」(なろう)
「く……!! マズイッ!」
ルビンの耳をついた少女の叫び声。
「お……? なんだなんだ? 女がいるのか?」
「いや、ガキの声だぜ?」
「構やしねぇよ! 羨ましい房があったもんだぜ! ぎゃははははは」
好き勝手に
コイツ等はしょっちゅう牢屋を出入りしているような筋金入りの悪なのだろう。
こんな
狼の群れに羊をいれるようなものじゃないか?!
「くそ、急がないと───!」
声の感じからして、まだ辛うじて無事だ!!
だから急ぐッッ!!
こんな連中に捕まったらあの子は終わりだ。
最悪ボロボロにされて、身ぐるみを剥がされ、あっちの膜も剥がされ、そして命まで奪われかねない───。
「って、どの鍵だよ!!」
ジャリン!!
重厚な音をたてて鍵束が鳴る。
(こ、これ。何本あるんだ?!)
ルビンは牢屋と衛兵隊本部を繋ぐ通路の格子扉の開錠でさえ、未だに解錠できていなかった。
「くそ! くそぉ!!」
ガチャガチャ……!
───ダメだ!!
「おいおい、早くしろヨ~」
「ひゅーひゅー♪ お兄さんのいいとこ見て見たい~!」
焦るルビンを
それを聞いて苛立つルビンはさらに手の動きが鈍くなり、鍵を探す手が震える。
ガチャ、ガチャ……!
───これも違う!!
幾度となく、失敗し───そしてようやく、
ガチャン!!
───開いたッ!!
「きゃぁぁああああああああああッ!!」
「く……! い、今行く!!」
少女の鋭い悲鳴に一刻の猶予もないと知り、ルビンは牢屋の中を駆ける!
そこは汚い牢屋が立ち並ぶ通路。
そして、垂れ流しになっている糞尿。
左右の牢屋からは囚人たちの生臭い口臭と、鼻をつく垢じみた体臭が……。
「うぐッ」
息をすればそれだけで吐きそうだ。
だが。それでもルビンは行く。
少女の悲鳴を聞いて駆けつける!
そこに、
「おい! そいつを捕まえろッ! 鍵を持ってるぞ!」
「なんだと?! おらおら~! 待て、こらぁぁ─────いづッ」
左右の牢屋から囚人たちが手を伸ばし、ルビンよ進路を妨害してくるではないか。
このッッッ!
「───邪魔だ、どけぇぇけけええ!」
その手を振り払っていくルビン。
中にはレスラーの様な巨漢もいて、そいつ腕に捕まれそうになるが、ドラゴン由来のパワーを発揮して強引に妨害の森を駆け抜けていく。
「いで!」
「この野郎ッ!!」
くそ……遠いっ!
「やだぁぁあ! やめてぇぇぇ! 触らないでぇぇぇえええ!」
少女の声が聞こえるその場所───最奥の雑居房っ!
「いやぁぁあああああああああああああああああああああ!」
「ひひゃはははははは! ついてるぜぇ、ガキに女が混じってやがった!」
「うひゃはははははは! あ、兄貴、は、はやく味見しようぜ……!」
「「「ぎゃはははははははは!」」」
下卑た笑い声尾をあげる男達。
そして、その男達に組敷かれ、裸に剥かれている少女を見て───。
「お、おまえらッ」
全身が総毛立つような怒りがルビンをつき動かすッッ!
ザワザワザワ……。
ルビンの体を巡るドラゴンの血肉が、沸き立ち踊る……。
敵を食らえと、
立ち塞がるものを踏みしだけと、
全てを燃やし尽くせと───!!
そして、
ボロボロにされている少女を見て、ルビンの血が一瞬にして零度にまで下がったかと思えば……!
今度は一気に沸騰し、怒りに震える。
「こぉぉおのおおおおおおお!!!」
いい大人が年端もいかない少女に強姦しようとするとは───!!
「っざけんじゃねぇぇぇええ!!」
「あぅぅ……」
恐怖に震える少女の姿が、エリック達に殺されたキウィの姿にダブって見える───……!
───おらぁぁぁああああ!!
牢屋に取り付きがてらに、ドロップキック!! ガシャーーーーン!! と格子の枠が派手に振動して牢の中の空気を盛大にかき回した。
「うおおおお?! な、なんだぁあ」
「ひゃあああ! え、衛兵かぁ?!」
「きゃあ!!」
全員が全員もれなく驚く。
「テメェら、その子に指一本でも触れてみろ! その首ねじ折ってやる!!」
ルビンの啖呵に、一瞬牢内がシンと静まり返るも───。
プ…………っ。
「ぶはははははははははははははは!!」
「ぎゃははははははははははははは!!」
「「「あひゃははははははははは!」」」
途端に嘲笑で溢れかえった牢屋。
「お、おいおい、衛兵じゃないぜ? なんだこの兄さんは!」
「お。見ろよ───。鍵もってるぜ? なんだ、なんだ? 輪姦ショーに混ぜて欲しいってか?!」
隠し持っていた粗末なナイフをチラつかせ、少女の顎にピタピタと押し当てる男達。
そして、ベロリと肌を舐める。
「ひぃ……。やだぁ!!」
(コイツ等、大勢で寄ってたかってこんな小さな子を!!)
ルビンの中では、このボロボロの少女の姿はあの日のキウィを否応なく思い出させるものだった。
「テメェら! その子を離せッ!! さもなくば……」
ルビンは牢屋の底から彼らを威嚇するも、全く意にも介さない男達。
「さもなくば何だよ?! ああん!?」
「なんだぁ? 偉そうにぃ───仲間にしてほしいなら、来いよ。一緒に楽しもうぜぇ!」
そう言って挑発する。
「くそ。やめろ!! その子に手を出すなッ」
最悪の状況下。
下手をすれば、少女は死ぬ!
死ぬまで犯された挙句、死体すら弄ばれるだろう。
こんなクズどもが、他人に配慮するなどあり得ないのだ!!
ルビンは慌てて鍵束を足り出すと、なんとか開錠を試みるも───……ああ、くそ!
鍵が多すぎる!!
その間にも、少女を痛めつけようと雑居房中の男達が集まり始めた。
「ぎゃはははは!」
「ギャラリーが増えたぜぇ!」
「うっひっひ! 兄貴ぃ、早いとこおっぱじめましょうや!!」
すでに全員が臨戦態勢。
活きり勃った怒頂を少女に付きたてようとして──────!!
「よせッ!!」
ルビンの制止の声もむなしく。
「ひひゃはははははははは! お嬢ちゃん、覚悟しなぁぁああ」
「いやぁぁぁぁあああああああああああああああ!!」
やめろぉぉおおおお!
「ひひひ! テメェはそこで指でも加えて見てな───今から、たっぷりと、」
少女にねじこもうと、汚らしいそれを今まさに打ち込まんとする!
「この、外道ぉぉおおッ! やめろーーー!!」
鍵
鍵
カギ!!
鍵が合わねぇぇえ!!
「ひゃは、ヤメロと言われて止めるかよぉぉお! ぶち混んでやるぜぇぇえ」
小汚い肉の槍!!
それは、小柄な少女に対してなんと凶悪な太さか!!
さ、
させるかぁぁあ!!─────「タイム!!」
「ひゃは──」
ピタ──────!
今まさに拳が落ちんとするそのタイミングで男が硬直する。
そして、少女が犯される瞬間を心待ちにしていた男達が、ようやく訝し気に視線を泳がせ異変に気付いた。
「「「ありゃ?」」」
「あ、兄貴? ど、どうしたんで?」
「なんでぇ? なんで、コイツ固まってるんだ?」
弟分やら、囚人仲間がザワザワと騒ぎ出すも、それで簡単に引き下がる連中ではない。
「ど、どけ。コイツが
雑居房の隅からでっぷりと太った男が好色染みた顔で進み出てくると、ニチャアと笑い。
(……コイツ等!!)
「ひひ。開通式だぜ、一番槍はもら」
「タイム!!」
カチーン。
しかし、そいつも硬直。
そこでようやく異常事態に気付いた男達。
「な、なんだぁ?! 魔法か?」
「こ、こここ、このあんちゃんだぜ!」
「てめぇ、兄貴を元に戻せ!!」
ふざけんなよ!!
ギリギリと歯ぎしりするルビンに危機感を覚えた囚人たち。
「か、かまうこたぁねぇ!! 奴は中には入って来れねぇ。なら、一斉にガキをぶちこめ!」
「「「おうよ! うおおぉぉおおおお!!」」」
雑居房中の囚人が一斉に怪鳥のような叫びをあげて少女に襲い掛かる。
……コイツ等、そこまでして何がしたんだよ!
「きゃああああああああああああああああ!!」
ち──────数が多い……けど!!
「タイム!!」
まずは手近の一匹を「タイムっ」。
そして、並み居る男どもを片っ端から「タイムっ!」
カチン……。
───なめるなよ!!!
「タイム、タイムタイムタイムタイムタイムタイム」
カチン、コチン。カチーン!
「うお!? こ、こいつ!!」
「ひ、怯むなッ!」
「「「や、やっちまぇぇええええ!」」」
お前らアホか?!
何がしたいんだよッ!!
囚人どもは意固地になって少女を痛めつけようとする。
もはや何がしたいのかすらわからない。
ただただ、目標となっている少女からすれば恐怖以外の何物でもないだろう。
「やだぁぁ! 助けてぇぇぇええええ!!」
「待ってろ!!
そうだ……。
あの時にこの力があれば……!
あの瞬間に「タイム」が使えれば───……!
あの刹那に時間を止めることができればッッッ!!
「───俺はキウィを救うことができたッ!!」
だから、
「タイムタイムタイムタイムタイム!!」
ピタ、カチン!!
「ひえ?!」
「や、やべぇぇえ!!」
───そう、だから!!!!!
「今こそ、俺は
片っ端から「タイム!!」だぁあああああ!!
「タイム、タイムタイムタイムタイムタイムタイムタイムタイムタイムタイムタイムタイムタイムタイムタイムタイムタイムタイムっっっ!!」
まだまだぁぁああ!!
タイム、タイムタイムタイムタイムタイムタイムタイムタイムタイムタイムタイムタイムタイムタイムタイムタイムタイムタイムタイムタイムタイムタイムタイムタイムタイムタイムタイムタイムタイムタイムタイムタイムタイムタイムタイムッ!
時ヨ、止まれ…………!!
「はぁはぁはぁはぁ……」
……………………しーーーーーーーーーん。
「はぁ───あ、あれ……………………?」
波状攻撃がいつの間にか止んでいる。
格子の先で男達に襲われそうになっていた少女を除いて、全ての者の時が止まる。
最奥の雑居房だけでなく、近隣の房内も、
そして、
「…………………………ふ、ふみゅ?」
身体を丸めて、ガタガタと震えていた少女が恐る恐る顔をあげる。
そこには、自分に襲い掛かろうとした男達が欲望を吐き出す寸前の姿で硬直し、
「ひッ!」
だが、ピクリとも動かない。
「間に合った……………………」
今度は間に合った。
間に合ったよ、キウィ………………!
「え? え? ええ??」
時の止まった空間……。
暴力的な男たちは鳴りを潜め。
代わりに、
そう、かわりに少女が見たのは、暴力的な囚人ではなく、そこにいたのは───。
「き、昨日の……? お兄さん??」
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