第33話「【タイマー】は、衛兵に突き出す」

 痩せこけてちょっと臭う少女だ。

 あんまりボロボロなんで男か女かも区物がつかなかった。


 顔は……まぁ、良くも悪くないと思うけど、なんでこんなことをやっているんだか。


「つーか、女の子が「お尻ペンペン」とかするんじゃないよ、はしたない……」


 子供が犯罪に手を染めるのは、大抵大人のせいだろうと思うが……。


 どんな事情があるのか知らないけど、

「───ちょっとは反省してくるんだな」


 さすがに子供を豚箱・・送りにするのは、ちょっと可愛そうな気もしたので、かわりといってはなんだが、子供のポケットに余った銅貨を入れておいてやる。


 強盗の男どもはどうでもいいが、さすがに子供が同じ目に会うのは、ね。


 とはいえ、教育は大事なこと。

 子どもとはいえ、衛兵にコッテリ絞られるだろうが、その分───銅貨でパンでも買ってくれ。


 我ながら甘い気もするけど、子供は子供なりに事情があるに違いない。

 勝手な自己満足とは知りつつも、ちょっとだけ少女に施しをしてやるルビン。


 でも、容赦はしない。

 そのまま、のっしのっしと路地をでると、衛兵の詰所に運んでいった。

 途中でしっかり財布は回収し、代わりにタレのタップリついた串焼きを購入する。


「おっさん、串焼きくれ」

「あいよ───って、兄さんなんだいそれは?」

 それ?

 ……あ、こいつらな。

「んー? 豚かな──────焼く?」

「焼かねーよ。ほい、串焼き三種。銅貨2枚」

「ほい」


 甘いの、辛いの、しょっぱいの。


 それを、財布がわりに子供に握らせると、

「あ、衛兵さん? 強盗です、コイツ等」


 ボケーと通りを眺めている、暇そうな衛兵の前に突き出すルビン。


「何?! 本当か? って、待て待て!───お前、冒険者か?……ふんッ、冒険者の言うことは信用できん。何か証拠は掴んだのか?」


 堅物そうな衛兵は、小馬鹿にしたようにルビンの姿を訝し気に見る。


 ま、無理もないけど……。


 ボロボロの格好をした、白い髪の細マッチョ。

 そして、硬直した男達を抱えている─────どうみても不審者だ。


「証拠ですか? まぁ、多分、もうすぐ見れるかと」


なぁにぃ……? もうすぐだぁ?! 貴っ様ぁぁ……! 証拠もないのに、捕まえたのか? そんな無法がまかり通るとでも───」

「いや、そういうのいいですから。あとは任せますよ」


 そのまま。担いでいた男達を衛兵の前に放り出すルビン。


「おい! 何を勝手な真似を……!」


 それを見咎め、喧しくがなり立てる衛兵。

 だが、ルビンはまったく取り合わずに、「よっこらせー」と調子よく、強盗どもを地面に立たせて上手く位置を調整。


「──────うん。完璧」


 パンパンと手を叩いて埃を落とす。


 ルビンは、配置を完了した強盗達をみて満足気。


「おい、待てッ貴様!」

「あとはよろしくお願いしまーす」


 そう言って、踵を返して雑踏に消えていくルビン。

 それを追いかけようとして、衛兵がふと気づく。

 ルビンが放置していった強盗が、今にも殴りかからんばかりの表情でカチンコチンに固まっている。

 少女は「アッカンベー」をしながら、なぜか串焼き……。


「…………って、お前ら何の真似だ? 邪魔だ、そこをどけ!」


 ルビンが放置していった男達と少女。

 今にも殴りかからんばかりの表情と恰好で衛兵の前を塞いでいる。


 しかし、なぜかピクリとも動かず、拳だけを衛兵に向けて───……少女に至っては、


「なんだ? なんで串焼き?…………お前ら、何か言いたいこと───」





 パチンッ!

 ───そして時は動き出す。





「運がなかったと思って諦めなぁぁぁあ!」

「ひゃっはぁぁあああ…………あ、あれ?」


 突如動き出した男達。


 その振り上げた拳が容赦なくルビンに────ではなく、バッキーーーーーーン! と、四方八方から衛兵の顔面に炸裂した。


「───ぶっほぉああああああ!!」


「あ?!」

「あれ?」


 ルビンを半殺しにしようとしていたその拳はいかんなく威力を発揮……衛兵の顔面にね。

 計五発……。


「うぐぐぐぐぐ……」


 ガランガラン~! と盛大な音を立てて転がる兜。

 そして、顔面を腫らした衛兵……。


「き、き、き、……き」


 ピクピクピクと表情筋がひきつる衛兵。


 拝啓、上司様───今日は何もしてないのに、いきなり殴られました。


 敬具。まる


 ───そして、殺す!!


「や、やべぇぇ!」

「ひえ? なんで? なんでなんで? どこだよ、ここぉ!?」

「衛兵殴っちまったーーーー!?」


 強盗どもは確実にルビンを殴ったはず。

 はずなのに…………。


 なぜか、怒りが頂点に達する寸前の衛兵の顔面をジャストミートしていたのだ。


「ひ、ひぇぇ……すすすす、すんません!」

「お、おおおお、おまわりさん! これは何かの間違いでぇ……!」


 ダンジョン都市に住む強盗なだけあって、衛兵の怖さは身に染みて知っている。

 だらか、普段は逆らわないし、近づかないようにしている。

 いるのに…………。



 ぶんぶん、べちゃ!!



「こっこまでお~いでー♪…………あ、」


 トドメの串焼き。

 &タレ付き………………。


 財布をぶん回していたはずの少女。だが、いつの間にか財布が串焼きに入れ替わり、それを全力でフレッシュ&ミート!!


 

 べちゃ、べちゃ……!

「ぶッ………………………………!」



 顔面に串焼きがクリーンヒット。

 そいつが、とろーり……とタレらしく粘っこく衛兵の顔面を伝い、顎に滴り───最後は舌でペロリと。


「───………………うまい」


 甘いの、辛いの、しょっぱいの……三種類の肉が、スリを働いた少女の手からすっぽ抜けて衛兵の顔面にジャストミート。


 その光景を茫然と見ているのは、強盗5人と子供一人。


 そして、

「………………………た」


「「「た……?」」」


 プルプルと震える衛兵───。


「───逮捕だぁぁぁあああああああ!!」



 ジャキィィィイイン!!


 と、剣を抜き出すと、片手にクレイモア、片手にレイピアの業物をもって衛兵が怒髪天!!



「ぶっ殺してやらぁぁぁああああああ!!」



「「「「「「ぎゃああああああ!!」」」」」」



 普段より弱者をターゲットにしていた強盗団は本日壊滅したとか、しなかったとか……。

 しばらくは街の一画で大取物が行われたそうである。




 ───しらんけど。

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